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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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一緒にお昼を食べていた時はいつもどおりだったし、遅刻したこともあって、そう思われても不思議じゃない。



「そ、そういうわけじゃないんだけど、久々に髪をいじってたら遅くなって……。


 ってか走ったから、もうぐちゃぐちゃだよね、ごめん……!」



恥ずかしいやら情けないやらの私は、一気にまくしたてた。



少しだけおしゃれしようとしたのに、いつもより不恰好になっただなんて、穴があったら入りたい。



急いで髪を留めたゴムを外そうとした時、レイが私の頬に触れた。



驚いて動きを止めると、彼は汗で張り付いた私の髪を、そっと耳にかけた。



『いいよそのままで。ちゃんと可愛いよ』



すぐ目の前で微笑まれ、思考と体が同時に固まった。





「キャーッ、見た今の……!」



どこからか黄色い声が飛んできて、私は慌てて一歩身を引く。



(も、もうレイ……!)



走って来たから十分に体が熱いのに、今ので顔まで真っ赤になったに違いない。



そんな私をよそに、レイは笑って手を離し、改札へ歩き出した。







駅で待ち合わせした時点で、どこかに出かけるかもしれないと思っていたけど、どうやらそのようだ。



動悸を抱えつつSuicaを取り出した時、レイもポケットから同じものを取り出した。



それを見て、使ってくれてるんだと少し嬉しくなる。



『時間を早めに言っておいてよかったよ。


 まさかミオが遅刻すると思わなかった』



『ご、ごめん。


 っていうかどこに行くの?』



ホームへ続く階段をあがっていると、ちょうど電車が入ってくるアナウンスが流れた。



『この電車に乗って、5駅先かな』



(5駅先……?)



それは私の学校のあるとなりの駅だ。



駅前はそれなりに賑やかだけど、繁華街というほどでもない。



『そんなところになにしに行くの?』



レイは聞こえているのかいないのか、返事をしない。



聞き直そうかとも思ったけど、どうせあと20分ほどでわかると、私はそのまま電車に乗った。








車内は冷房がよく効いていて、汗だくの私にはありがたかった。



日の入りはまだで、空は明るい。



通学で見慣れた景色から、ガラスに映る私に目を移した。



思ったほど髪は崩れていない気がするけど、どうだろう。



レイに言われた言葉を思い出して、やっと熱が引いたのに、また顔が赤くなりそうになってうつむいた。




目的地の駅に着き、レイに続いてホームに降りる。



大きな住宅街があるからか、この駅で降りる人はかなり多かった。



駅前広場に大きな樹が一本あり、その周りを花壇がぐるりと囲んでいる。



人波のあいだを抜け、レイはその淵に座って改札のほうを眺めた。



『……レイ? どうしたの?』



わざわざここまで来て、どこに行くわけでもなさそうな彼の様子を不思議に思った。






レイは改札を眺めたまま、私を見ずに言う。



『今日、リオンが誕生日らしいんだ』



前振れもなく告げられた言葉に、一瞬頭がついていかなかった。



『え?』



『昨日、ミオの父親と引きあわせてもらう約束は出来なかったけど。


今日リオンの家族は食事にいくらしくて、この駅で父親と待ち合わせてることは教えてもらったんだ』



それを聞いて、私の心臓は急に大きく跳ねた。



『待ち合わせは、6時45分に改札らしい』



咄嗟に腕時計に目を落とす。



現在時刻は6時30分。



時間まであと15分だ。



(どうしよう……)



私は改札から目を外さないレイを見つめ、しばらくの間黙って立っていた。



レイがどうしてここに連れてきてくれたかは、私が昨日「お父さんに一度会ってみたかった」と言ったからだとわかっている。



鼓動が耳元で聞こえるほどの緊張の中、私はレイのとなりに腰を下ろした。



『……大丈夫?』



短く問われた。



それは昨日『辛い?』と聞かれたのと同じ声音だった。



私はかすかに頷き、彼の視線の先を辿る。



それからしばらくして、視界にリオンの姿が映ると、息が苦しいほどの動悸が襲った。



思わず両手を握りしめる。



その時、リオンが改札の向こうに手を振った。







駅舎から出てきたのは、けい子さんと同じ年くらいの男の人だった。



その人の顔を見た瞬間、大きく目が開いていく。




お父さんだった。




もちろん、私の持つ写真の中より、ずっと年を重ねている。



けれど、写真と同じ優しい顔、優しい目のあの人を、私ははっきりお父さんだとわかる。



お父さんがリオンに近付き、しばらくしてふたりの傍に女の人が合流した。



雰囲気がリオンによく似ていて、彼女のお母さんだとわかるのに時間はかからなかった。




ふいに、リオンはなにかを探すように視線を左右に振った。



花壇の淵に座るレイを見つけたようで、それからとなりにいる私を見る。



リオンと目が合ったのは、瞬きすれば消えるほどの一瞬だった。




私たちの間を通行人が通り過ぎ、視線をほどいた彼女は、両親になにか聞かれて笑い返した。



たぶん、それはなんでもないことだろう。



だけどその姿を目に、心臓を強く握りしめられた。
























シェア・ビー ~好きになんてならない~

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