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「行くぞ」
容疑者はあくまでも容疑者だが、俺に待つ事は……
「待って。セイくんは、じっとしてて」
「無理だ。邪魔をするな」
言葉が取り繕えない。
「証拠を消されると困るの。絶対殺さないって言える?」
俺はすぐに返事をすることが出来なかった。
「まずは座って。一刻も早く解決したいのは、エリーちゃんを含めてみんな同じだよ」
聖奈はそういうと、その元侍女を捕らえてくるように、騎士へ命じた。
「でも、空振りに終わると思う。暫くは動けないから、交代でセイくんを見張るよ。みんな、いいよね?」
「ああ」「はい」「うん」
憎しみの思考が止まらん・・・
なんだこれは?本当に俺か?
魔力が渦巻いている…?
「セーナさん。空振りに終わると言いましたが、その後は?」
「それの調査も頼んだけど、今説明するね」
何の話だ?
「ここまで完璧に誘拐した犯人が、逃げ遅れるとは考えられないの。
それで調査は身元調査だよ。
黒幕は恐らく他国、それも北西部地域の国の人じゃないと思うの」
「それは…バーランド王国を敵に回せる国も組織もこの北西部にはないからですよね?」
頭が割れそうだ・・・
「うん。エリーちゃんを拐う意味をちゃんとわかっているなら、相手の規模は国かそれに匹敵する組織。
問題は帝国のある南東部かまだ見ぬ南西部のどちらかわからないところだよ」
「例の別大陸の可能性はないのでしょうか?」
「私達でも不明な大陸間を移動出来る技術力があるのに、失礼だけどエリーちゃん程度の発明で態々ここまでのことをする理由がないと思うの。
もちろん他の私達が想像できない理由なら、可能性はゼロじゃないけどね」
「そうですね。今は可能性が高いところから潰していくしかないですよね。理解できました」
い、意識が保、て・・・
「うっ…」
バタンッ
「セイくん!?」「セイさん!?」
二人の悲壮な声が聞こえるが、俺の意識は真っ黒に染まっていく。
side聖奈
「魔力依存症?」
聖くんが倒れてすぐに、この世界の医者を呼んだ。
地球の医者に見せて精密検査でもされたら、治療よりもモルモットとして扱われそうだから仕方ない。
どちらにしても、まだ月は見えないし。
「は、はい…普通は魔力の少ないものが掛かる病なのですが…しかし、陛下のこの症状はそうとしか判断出来ません」
「それで間違いないとしたら、どうすれば治るのかしら?」
「ま、魔力依存症というのは……」
私に…ううん。周りのみんなの圧に怯えている医者の説明によると・・・
魔力依存症は魔力の少ないものが罹る病。
貧血のようなもので、放っておいたら治る。
解決方法は魔力を増やすこと、魔法、魔導具を使わないこと。
「わかったわ。医学書を持ってきなさい」
私がそう命じると、医者はそそくさと退室していく。
「たとえ同じ症状だとしても、セイくんに限って魔力がなくなることはない。倒れる前の様子はみんなから見てどうだった?」
私は少し引っかかっていた。
「いつもと違いました」
ミランちゃんがそういうと、私は続きを促した。
「いくらエリーさんが拐われたことを加味しても、セイさんが私達にあんな目を向けることはありえません。
まるで私達を…いいえ、世の中のすべてを憎んでいるような雰囲気でした」
「そうだな。俺は殺されると思った。もちろんセイがそんなことをする奴だとは思ってないし、事が事だから殺されても仕方ないとは思っていたけどな」
どうやらみんな同じだったみたいだね。
「『魔力視』で見てみたけど、セイくんの魔力は変わらずだったから、魔力が少ない、欠乏してい……なんで魔力依存症って名前なんだろ?」
みんなに魔力視で見た結果を伝えようとしたら、引っ掛かっていた部分がどこなのかわかった。
「本当ですね…確かに魔力が少ない人が患って、解決方法が魔力を増やしたり使わなかったりするのであれば、病名は魔力欠乏症かそれに近い名前でないとスッキリしません」
「そうだね。それはこれから医学書と医者への聞き取りで調べるとして、症状が同じならやっぱり起きるまでそっとしておくしか出来ないのかな?」
ミランちゃんも同じところが気になってたんだね。
「とにかく目覚めたセイくんが無茶をしないように、ここでみんなで見張りましょう」
「わかった」「はい」「わかったわ」
寝室は静寂に包まれた。
早く起きてよ……
医者への聞き取りと医学書を調べた結果、ある事実がわかった。
「つまり、魔力依存症は古代以前に付けられた名前ってことだね」
「はい。医学書ではわからなかった魔力依存症の成り立ちですが、歴史学者が残した医学の歴史書に『魔力依存症という名は古代文字で記されていた』とありました」
私達はその情報を頼りに、集められるだけの本を集めて調べ物をした。
side聖
「うっ…」
あれ?二日酔いか?頭痛いな……
「セイくんっ!?」
「セーナさん!安静に。何かあれば大事です」
聖奈?…とミラン?なんでミランの声が?
眩しい光に頭痛が刺激されるが、気になったので目を開いた。
「ん?ライルに、マリンも?どうした?ててっ…」
やっぱり二日酔いか?
「セイくん。落ち着いて聞いてね。貴方は昨日倒れたの。医者が言うには魔力依存症って病気らしいんだけど、何か異常はある?」
「た…倒れた?えっ…昨日は…そ、そうだっ!エリーは!?」
俺は全てを思い出した。
エリーはどうなった!?見つかったのか?!
「エリーちゃんの件は一先ず置いといて」
「置いとけるわけないだっ…いててっ…」
「セイさんっ!無茶しないでください!一先ず横になってください」
エリーの件を思い出した俺はベッドから起き上がるが、再び頭痛が襲ってきてミランに強制的に横にされた。
「セイくん。心配なのはわかるけど、まずは自分の身体だよ。昨日おかしなことはなかった?特に魔力関係で」
俺のことなんて…ん?
「魔力か…昨日は何だか勝手に渦巻いていたような気がするな…」
「昨日攻撃的だったのは、セイくんの意志?」
「は?俺はエリーが心配だっただけで、攻撃的になんてなってないぞ」
えっ?なんでみんな俺の方を見ているんだ?
俺の知らない間に亭主関白聖が出ちゃってたのか?
「セイくん。セイくんって異世界へ来る前に人を殺していたらどうなってたと思う?」
「そんなことをしたら捕まるに決まってるだろ?なんだよこれ?俺は何かしたのか?」
まさか知らぬ間に殺人鬼に?
「そう言う意味じゃないよ。心がってこと。平気だったと思う?向こうでたくさん人を殺しても」
なんだその精神鑑定みたいな質問は……
俺よりも聖奈の異常性癖を調べなさいって。
「平気じゃないだろうな。多分、一人を殺したとしても気に病んで寝込むか…最悪自殺するな」
須藤もそうだけど、普通はそうなるよな。
「じゃあ何で今は平気なの?…ううん。平気だと思う?」
「…どういう意味だ?このくだらない質問が魔力依存症(?)に関係あるのか?」
「関係あると思う」
聖奈がそういうならそうなんだろうな。
じゃあ早く治してエリーを助けにいかないとな。
「恐らく魔物を殺すことで生き物を殺すことに慣れたんじゃないか?」
「それで慣れるなら、戦争に出て沢山殺して心の病気になった人はおかしくない?魔物どころか同じ人間を沢山殺しているのに慣れなかったんだよ?」
「………」
じゃあなんなんだよ!?
「魔力か…」
「うん。ライルくんと同じ意見だよ」
「魔力?魔力がなんで感情に……まさか、作用するのか?」
魔力が感情に左右するのなら、昨日の暗く塗りつぶされていったことにも当て嵌まるな……
「魔力依存症を調べても全容は把握できなかったんだけど、私の推測も含めて話すね」
聖奈の説明によると・・・
魔力が少ない人はそもそも魔力操作が出来ない。
操作する魔力がないから。
そうなると何が起こるのかというと、普段は身体の中の正常な位置にあった魔力が何かしらの原因により移動する。そうなった時に魔力依存症で倒れる。
一般的な魔力の人は身体の中で移動するスペース(隙間)が少ないからならない。
ここまでが医学書。
ここからは歴史書と推測だよ。と続けた。
そもそも依存症という名前の時点で何かしら精神に作用している。
欠乏症ではなく依存症という名前なのだから意味があると考え、そこを深掘りした。
すると古代人で魔力が多い種族がいた。聖奈曰くこれは魔族のことでは?とのこと。
その魔力が多い人達にこの魔力依存症は多かった。
そして魔力依存症になると感情的になり、その感情を我慢すると魔力がうまく操作出来なくなり意識を失う。
「何で医学書とは違うことが書いてあるんだ?」
「医学は証明出来ないといけないし、精神を証明するのは地球でも難しいから歴史に埋もれたんじゃないかな」
まぁ魔力が多い種族も今ではいないしな。ジャパーニアに沢山いるけど……
「つまり俺は昨日感情的になり、その結果魔力が暴走して気を失ったと。そういうことか?」
「そうだね。それで人殺し云々の話なんだけど…」
「負の感情を魔力が抑えていたって言いたいんだろ?」
何驚いた顔をしているんだよ。偶には先回りしてもいいだろ?
「うん。だからこっちに来てから人を殺してもそこまで動揺しなくなったんだと思うの。
逆にエリーちゃんの件では動揺させまいと本能で魔力が動いてそれで感情的になって、またその感情を魔力が……ってなるから意識を失ったんだと思うよ」
なんだそのマッチポンプみたいな病気……
まぁきっかけは別だからマッチポンプではないか。
「どうすればいいんだ?」
「それは医学書にも歴史書にも書いてなかったの。魔力が関係しているなら魔力操作でどうにか出来ないかな?」
「魔力操作っていってもな…身体強化魔法でそれに近いことはしてるけど、難しいな…」
あれはそういう魔法だからな。
聖奈が言っているのは、素の状態での魔力操作だろうから違うよな。
「じゃあ感情的にならないことくらいだね。次もなるとは限らないし、あんまり深刻に考えちゃダメだよ?
もし、魔力が暴走していると気付いたら心を落ち着けてね?」
「…そうしないと?」
どうなるんですか!?先生っ!!
「歴史書ではその魔力が高い種族の人が町を滅ぼしちゃったみたい…」
「そ、それはヤバいな…」
「普通に考えたらその人より魔力が多いセイくんはもっとすごいことをすると思うよ」
魔力が暴走して感情を解き放ってしまったら……
俺なら国どころか大陸を消しそうだな……
まてよ?そうなると歴史の証人もいないから後世では俺は無罪だなっ!!
「じゃあそうなれば気を失うまでは感情を我慢しないとな。解き放てば…考えたくないな」
「そうだね。それでこれからだけど、まずセイくんは今日は一日休んでいること。
ライルくんはあの侍女を見つける為にここまで走ってみて。
いなくてもそこで待機ね。もしいたら捕まえてね」
聖奈は地図を指差してライルに指示を出した。
「迷惑と心配を掛けたから大人しくしてるよ。だが、頼むな。みんな」
「へっ。セイに頼まれなくてもするさ」
「あなた、昨日まで俺のせいだって泣いていたじゃない」
「泣いてねーよっ!!」
あのぅ…一応病人がいるのですが?
夫婦のイチャイチャは家でしてくれねーかな?
「ふふっ。ミランちゃんはとりあえずセイくんの見張りね。私とマリンは城内でする事があるから、何かあったらすぐに教えてね」
「はいっ!任せてください!」
ミラン…頼むから感情を揺さぶるなよ?
俺は看病すると意気込んでいたミランに餌付けをして過ごした。
はぁ…落ち着く。