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「そこに見える樹洞までだ! 文句は言わせぬぞ!」
◇
ルティの料理を食べたおかげで枯木や枯草|蔦《つた》などをかなり燃やし尽くすことが出来た。そしてある程度終えたところで、サンフィアに声をかけた。
しかし――
「我は行かぬぞ。我にはここでやることが山ほどあるのだからな! そ、それに……」
「うん?」
「我はキサマの帰りを待ちたいのだ! 我だけの夫では無いとはいえ、帰りを待ちわびる女がいてもおかしくないだろう?」
「それはまぁ……」
「だが兄に頼まれた以上、森を抜けるまでは案内をしてやる。人間の国に行くならさっさと支度をしろ!」
――というやり取りがあり、サンフィアの案内で別の地に通じる樹洞に着いた。
樹洞は樹皮や木の中が腐ったことで隙間が開いて出来た洞窟状の空間で、動物や魔物の隠れ場所として最適という。だが樹洞に入ろうとすると、ルティが騒ぎ始めた。
「アック様、アック様!」
「何だ、ルティ」
「サンフィアさんはともかく、どうしてミルシェさんを連れて行かなかったんですか? それにフィーサはずっと眠っているし、わたしとシーニャだけで寂しくないですか~?」
「ミルシェがルティを信用してたからな。実際、彼女が残ってくれるのはありがたい」
「でもでも、寂しいですよぉぉ」
ルティは以前、ミルシェと行動を共にしていたことがあり、その時から彼女のことを慕っているらしい。
「ウニャッ! アックと一緒にいられるなら、それでいいのだ。ドワーフも帰っていいのだ!」
「か、帰りませんよ~!!」
宝剣から神剣になってまだ間もないフィーサはずっと眠っているままだ。ルティが心配しているのは、見知らぬ地へ行くのに人数的な不安があるということらしい。
「ルティ、落ち着け! ミルシェもサンフィアも加わっていないが、この先で加わってくれる者がいるかもしれないぞ」
「はえっ? ど、どこの誰ですか~!?」
「サンフィアから聞いた話だが、この樹洞を抜けた先は完全に見知らぬ地らしい。その地のどこかにどことも交わらない者たちが住んでいる町があるって話だ」
正確にはサンフィアの兄や、ロクシュから聞いた話だ。さらにミルシェも知識として得ていた話らしく、仲間として得られれば強い味方となるのだとか。
「それって、人間ですか? エルフ? それとも~?」
「そこまでは分からないが、その為にもここを抜けて行く必要がある。そういうわけだから、落ち込むな」
「はいっっ! そういうことでしたら張り切っていきますよ~!」
落ち込むと長引きそうなルティだったが、まだ見ぬ仲間の可能性に嬉しそうにしている。反対に、そんなことでは喜びそうにないのがシーニャだ。
「ウニャ~……エルフ、面白い。森のエルフ、話せたのだ~」
「サンフィアと打ち解けて仲良くなったんだな」
「ウニャ」
「心配するな。イデアベルクにずっと戻らないわけじゃないんだ。だからシーニャも……」
「アックを守る! アックと戦うのだ。ウニャッ!」
シーニャは元々森に棲んでいた虎人族。だが、仲間というものは特にいなかったらしい。それを踏まえると、エルフであってもサンフィアのことを慕うのは当然の流れといえる。
「それじゃあ、中へ進むぞ」
「はいっっ!」
「ウニャッ!」