馬車に乗り込み約2時間。ロザリア町に到着。
「嬢ちゃん、本当にありがとう。助かったぞ」
「いえ、乗せてくださりありがとうございました。」
別れを告げロザリアに入る。彼女は景気の良い明るい雰囲気に少し驚いている。
「宿を取るべきかこのまま行くべきか、、、どうしようかしら」
時刻は3時。ウィステリア王国は10の月でも日が暮れるのが早いため、すでに日が傾いている。フルモンドまでは近いのだが、やはり少し迷う時間帯である。
「おや?嬢ちゃん見ない顔だね。どうかしたのかい」
ふくよかな体型のおばさまがパンの入ったカゴを持ち話しかけてきた。
「いえ、、、、宿の場所を教えてくださると助かるのですが」
そう告げると少し考えたような顔をして、南の方を指差した。
「少し遠回りにはなるんだけどね、向こうにある宿屋は暖かくて快適だよ。あの酒屋を右さ。」
「ありがとうございます。行ってみます」
お礼を言うと、ガラリとした笑顔で近くのパン屋へと入っていった。
「酒場を右に、、、、、、ここかしらね。」
そこには比較的新しく、ここらでは大きめな宿屋が。中からオレンジ色の光が漏れていて、少し暖かい。
「そうね、今夜はここにしましょう」
中へ入ると、暖かい室内と静かな空間が待っていた。
「すみません、一泊お願いします」
「承りました。御名前と料金を。」
受付嬢に聞かれる。
(名前、、、)
「アナです」
そう言ってカウンターに銀貨を1枚置く。
「銀貨1枚お預かりします。2回の三番室をどうぞ」
彼女はその鍵をを受け取り、ふと思う。
(スカーレット姪を名乗ったらいけないものね)
スカーレット。スカーレット帝国の皇室の血を引く者以外、名乗ってはいけない姪。そう、アナシス・フラン・スカーレットは、大陸一の大帝国、スカーレット帝国第二皇女『だった』のだ。
ある出来事をきっかけに国を追われ、旅人として正体を隠して生きている。
「なんて肩書き。自分でも笑ってしまうわね」
そんな軽口を叩いた彼女の目は、少し寂しそうに揺れていた。
部屋に荷物を置き、体を濡れた布で拭き上げ、夕食を食べたら布団へ入る。7時には寝るのがこの国のセオリーだ。
「あの時、国を追われなければ、まだ私は城で寝れたのかしらね、、、」
ぼそりとこぼした皮肉も、静寂に飲み込まれて消えていった。
「お前を、スカーレット帝国から永久追放とする」
星の光る夜、私はそう告げられた。理由は簡単。姉様は、私のことが目障りだったのだ。国が欲しかったから。
「、、、承知いたしました。」
一言、返事をして部屋を出ようとした。
「アナシス。すまない。私をどうか許してくれ、、、」
聞き慣れた父親の声がそう呻いた。振り返ることはしなかった。
1人城を出て、ふと夜空を見上げる。自分がちっぽけな気がした。
ふと目を覚ます。四時、いつもの時間だ。
彼女は布団から起き上がり、椅子に座ってパンを頬張りはじめた。
スカーレット帝国。グラン大陸の中心部に位置する大陸一の面積と武力を誇る。国王は3人の娘を持っていた。長女、イェラド。次女、アナシス。三女、エルフリーダ。
家族関係は微妙だったと噂されている。国を継ぐのは次女のアナシスだったからだ。だが、アナシスの13の生誕祭前夜、彼女は忽然と姿を消した。まるで存在自体なかったかのように。
「馬鹿ね。昔のことなんて気にするのは。未練たらしくて見苦しいわね。」
彼女は宿を出た。日が山の隙間から顔を覗かせていた。
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