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「んんっ!?」
「なっ!?」
と、私だけでなくリースまでも驚きの声を上げる。
私は慌てて、彼の胸を押して抵抗を示す。すると、案外すんなり離れてくれたため、私は呼吸を整えようと大きく息を吸うが、後ろにいたリースに引っ張られ、彼の腕の中にすっぽりと収まる。息つく暇もなく、ギュッと抱きしめ……締められて窒息死しかけている。
「り、リース痛……」
「おい、アルベド・レイ公爵。これはどういうことだ」
そうリースが抗議の声を上げれば、アルベドは何も悪くないというように両手挙げて首を横に振った。
「聖女様との約束でしたので」
「約束だと?」
と、リースは鋭くしたルビーの瞳を私にまで向けてきた。
アルベドの喋り方が如何にも胡散臭いのは置いておいて、矛先が私にまで向けられ、私は如何したものかと口をパクパクとさせた。まさか、このタイミングだとは思わなかったのだ。アルベドもアルベドで、リースのことは何となく察していただろうに、そんな火に油を注ぐようなまねを。
(ねえ、またこれで闇落ちとかないよね!?)
実はかなりのトラウマだったりする。リースが私のせいで、というかまあ色々あって闇落ちしたこと。彼から嫉妬のオーラがでているのを察し、私はアルベドを睨み付けた。アルベドは、勝ち誇ったような満面の笑みを浮べていた。
「エトワール、約束とは何のことだ。まさか、此奴と……」
「あー! 違うの、こいつが勝手に約束って!」
「おいおい、酷いなあ。エトワール。星流祭の最終日俺と約束したよな」
「だああ! 煩い、黙って!」
アルベドがわざと、星流祭の最終日、つまりあの花火を見たら恋が成就するとか、永遠に結ばれるとかそういうジンクスがある奴を、此奴はリースに挑発を仕掛けるように言ったのだ。リースが私を見る目は益々鋭いものへと変わっていく。
(あ、あんまり……こんなの!)
まるで、浮気現場を見られた気分で、私は泣きたくなった。
そして、アルベドのニヤついた顔が腹立たしい。本当になんなんだこいつ。私はキッと彼を睨み付ける。すると、彼は余裕たっぷりの表情をして、私の顎に手をかける。
「もう一回してやっても良いんだぜ。物足りなさそうなかおをして」
「誰が、もう一回なんて!」
と、私がいった瞬間、アルベドの手がパシンッと痛そうな音を立てて叩かれた。
顔を上げれば、嫉妬ダダ漏れといった感じのリースがアルベドの手を叩いていたのだ。ナイスと思ったが、アルベドは懲りていないようだったし、リースもかなり拗ねている感じだったので、状況がよくなったようには感じない。
(死亡フラグも回避しやがって……しんでほしいとは絶対思わないけど、気絶ぐらいして欲しかったわ)
俺を置いて先にいけ。なんて死亡フラグ中の死亡フラグワードなのに、彼は生きていた。まあ、攻略キャラがそう簡単に死ぬとは思ってはいないし、しんでほしいともおもっていない。けれど、こんなにぴんぴんしているのは可笑しいのではないかとすら思った。異常だ。
それに、そのせいでこんな目に遭っているのだから。本当に気絶していて欲しかった。運ぶのは大変そうだけど。
そんなことを思いつつ、私は、リースとアルベドを交互に見る。
「気安くエトワールに触れるな」
「嫌がってる様子ではなかったぜ?」
「嫌がってたわよ!」
と、私はリースの腕の中から声を上げる。
アルベドは面白げに笑いながら、リースを見つめていた。リースは、眉間にシワを寄せて、アルベドを睨み付けている。
そんな二人に挟まれて、私は、どうしてこうなってしまったのかと頭を抱えた。
かなり身体も疲れているのでこんな喧嘩に巻き込まないで欲しい……と私はため息をつく。
「エトワールも、エトワールで此奴の口づけを許して……一体どういう関係なんだ!」
「どういうって……というか、私にまで当たらないでよ。それに、一応公子に向かってそれはダメだと思う」
リースが声を荒げるので、私は両耳を塞いだ。
アルベドもアルベドで名のある貴族なのだから、闇魔法の家門だけど。それでも、皇太子が毒ついて後々関係が悪くなったらとか色々考えると、抑えた方が良いのでは? と私は思う。まあ、今のリースに何を言っても届きそうにないけれど。
「どういう関係か……一夜を過ごした仲だよな?エトワール」
「はあ!?」
「……ッ、な、何だと!?」
アルベドが、しれっと嘘ではないが言い方が紛らわしい、誤解されるような言葉を口にするので、私は呆れたようにため息をつき、リースはその真意に気づいたようで、目をこれでもかというほど見開いていた。
リースの顔がどんどん恐ろしくなっていくので、私は慌てて否定する。
「というか、それ前も誤解といたはずじゃん! ほら、光の鎖でとかなんとかー」
「ああ、あれのことか……だが、他にも何かあるんじゃないか?」
「疑わないでよ!」
リースは冷静に、あの時のことかと納得してくれたのだが、追撃で私に疑わしいと目を向けてくる。
もうその様子が必死で一周まわって笑えてきたのだが。
「俺をパートナーだっていってくれただろ?」
「あのね、アルベド、あんまり誤解されるようなこと言わないで」
「パートナー?」
「ほら、リースが食いつくじゃん。あーもう!」
リースが、私の言葉を聞いて首を傾げた。
私は彼の反応を見て、やっぱり説明しないと駄目なのかなあと諦めた。結局、疲れているがアルベドがここにいる訳やリースが暴走している間何があったのか彼がちゃんと誤解しないように丁寧に説明した。その間も、アルベドは冗談を言ってそのたびリースの機嫌が悪くなっていたが、彼も最後には納得してくれて、アルベドに向かって頭を下げていた。
「そうか、エトワールを守ってくれたんだな。改めて、感謝する」
「皇太子殿下に頭を下げられるほどのことしてませんよ。俺は、ただ好きな女を守りたかっただけ何で」
と、アルベドは言う。
その瞬間ピキッとリースの周りの空気が固まった。
これは不味いと思ったときには遅く、リースは先ほどよりも鋭い眼光でアルベドを睨み付けていた。
「好きな女だと?」
リースの声が低くなる。
(うわ、絶対誤解している)
アルベドの顔を見ても、彼が冗談で言ったのか本気で言ったのか分からず、私は何て口を出せば良いか分からなかった。だが、リースは本気とみたようで、私をギュッと抱きしめた。また、窒息死しそうになっている。
「エトワールは俺のものだ。お前になどにはわたさん」
「待って、私、アンタのものじゃないんだけど」
私がツッコミを入れると、リースは、そんなの関係ないといった様子で私の肩に顔を埋めた。そしてそのまま黙り込んでしまう。
(え、どうしよう)
私は、困惑しながら、アルベドをチラッと見る。彼は、楽しげにニヤついており、三角関係だな。とほざいていた。
展開としては、かなり乙女ゲームなのだが、あまり喜ばしくなかった。
「ねえ、リース。アンタ、まだ勘違いしてるでしょ」
「何をだ?」
「私達、まだ『友達』でしょ?」
そう釘を刺せば、リースの腕の力が少し弱まった気がした。顔も少し強ばり、そうだな。と視線をあからさまに逸らした。
彼とは元彼という関係から友達になったのだがその間に三回もキスされた。アルベドを含め、今日だけで四回もキスされて、こちらの心臓は停止寸前なのだ。これ以上、甘いような、本格乙女ゲームみたいな展開にはついていけない。身体が。
そんな会話をしていれば、アルベドは何かを思いついたかのように、私をじっと見つめてきた。
「何よ」
「いや、俺はどの位置にいるのかと思って」
「どの位置って」
「皇太子殿下が友達なら、俺は愛人か?」
「なわけないでしょ、アンタは……」
そこで、私の言葉は詰まる。アルベドと私の関係はどう表せば良いのか分からなかったのだ。
パートナー? 友人?
と、自問自答を繰り返す。パートナーとしては申し分ないが、そういえば、リースがまた拗ねる気がして、私は仕方なく口を開いた。
「友達じゃない?」
「何だよ。その疑問系」
「だって、よくわかんないんだもん」
そう、口をとがらかせてやればアルベドは愉快そうに笑った。そうして彼の好感度上昇の機械音がピコンとなる。
どうやら、その回答はお気に召したようだった。
「そうか、じゃあ、俺はエトワールの友達一号だな」
「何故だ? 俺が一号だろ」
「皇太子殿下とエトワールは元からそういう関係って感じじゃなかったからな、俺の方が友達らしいことしてただろ」
と、何とも当をえているような、感づいているのか分からない台詞をアルベドは吐いた。
確かに、アルベドを友人と言うのであれば、友達一号はアルベドだろう。
リースは、苦々しそうに歯を食いしばっていた。どうやら、認めるらしい。
「ま、もう、そういうのは別に良いから。取り敢えず帰ろう!」
そう、私はこれ以上話していても面倒だと話を切ることにした。
二人は顔を見合わせた後、そうだなと納得したように私に向かって微笑んだ。朝日の差した皇宮の廊下は、明るく照らされていた。
「エトワール様!」
皇宮をでて少し下れば、白い天幕が見えてき、私達を見つけたブライトは一目散に駆け寄ってきてくれた。ブライトの声を聞きつけ、リュシオルやアルバも私達に駆け寄ってきてくれる。
「ご無事でよかったです」
「ありがとう、ブライト」
私がそう言えば、彼は安心したのかほっとしたように微笑んでいた。
本当に心配してくれていたんだと思うと、嬉しく思う。他の二人も、私を見てほっとした表情をしていた。アルバは泣いて「よくぞ、ご無事で」と誰よりも感動していたし、リュシオルは私を信じてくれていたのか、よく頑張ったね。と言ってくれた。
そんな彼等に、私は何と言えばいいのか分からず、困っていると、ザッザッと草を踏みしめる音が聞え、私は顔を上げる。そこにいたのは、グランツだった。
「ぐら……」
「――――トワイライト様が攫われました」
と、グランツは冷たい声で淡々と告げた。
衝撃の告白に、私は目の前が真っ暗になるのを感じた。感動の再会、リースを救えた満足感と幸せが全て持っていかれるような感覚。
光の灯らない翡翠の瞳が私をじっと見つめていた。
「グランツ、それってどうい……」
そう私が彼に問い詰めようと手を伸ばした瞬間、私の身体はふらりと力が抜け、そこで意識が途絶えた。