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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。長かった帝都での日々を終えて何とか黄昏へ辿り着いた私達姉妹を出迎えてくれたのは、まさかのお母様でした。お母様の事ですから何処かで生きているだろうとは思っていましたが、まさか本当に生きているなんて。満身創痍と言うべきお姿ではありましたが、その姿を見た瞬間沸き上がる感情を制御することは出来ませんでした。 レイミと一緒に抱き付き、大衆の面前で姉妹揃って号泣してしまったのは周知の極みです。恥ずかしいので詳細を語るのは控えさせていただきますね。
「十年ぶりに母ちゃんと再会したんだ。泣くくらい別に良いだろ?」
「私にだって羞恥心はありますし、ボスとしての威厳も必要なのですから」
レイミと違ってただでさえ同年代に比べて小柄なのですから、周囲からは微笑ましさが優先されて更に羞恥心を刺激されたのは秘密です。今私は執務室にてルイと茶会を開いています。
帰還して二日、後処理を行いたいのですが疲れと傷を癒すことを優先するように言われ、更に見張りとしてルイが四六時中側に居るので逆に落ち着きません。
普段ならルイが側に居ると落ち着くのですが、先日の醜態により気恥ずかしさが先行しているのが実態です。
「言いたいことわかるけどよ、あれでお前を見限るような奴は居ないと思うんだがなぁ」
「プライドと私の羞恥心の問題です。気にするのは当たり前です」
お母様とは昨日一日一緒に過ごしてお互いの十年の空白を埋めるように語らいました。どうやらお母様を捕らえたのは狂気科学者らしく、レイミは知っている様子でした。調べないといけませんね。
そして何より許せないのは、衛兵長であったエドワードの裏切りです。しかもその理由はお母様に対する歪んだ恋慕。許せるはずもありません。必ず捕まえて、この手でじっくりと殺してやります。
さて、この数日で帝国の情勢は劇的に変化しています。シェルドハーフェンは港町ですし、ライデン社が蒸気船を量産化してからは出入りする船が一気に増えました。それに合わせて人や物の出入りも活発化しています。特に船乗りや商人は様々な情報を持っています。
これらの情報を得るために暁が保有している区画には酒場や宿を整備していますし、協定に従って花園の妖精達の傘下にある娼館も建設しています。ここで得られた情報は最大限漏れ無く暁情報部へ挙げられて分析。その後私の手元へ届きます。
情報関係の改革を断行して正解でしたね。これほど効率が上がるとは思いませんでした。
集められた情報を分析すると、どうやら帝位争いは内戦へと発展したみたいですね。北部閥のスローダー公爵家が東部閥のマンダイン公爵家を攻撃しました。これはしばらく泥沼になるでしょう。
であるならば、最大限利用しなければなりません。現に北部や東部からやって来る商人が、武器弾薬や食料など様々な物資を買い漁っていますからね。
面白いのは、北部の商人は最新兵器を求めますが東部の商人はマスケット銃など旧式装備を求めることです。
「貴族様相手に最新兵器は売れないんだ。持っているだけで罰を受ける」
とは酒場で漏らされた愚痴です。内戦になっても主義を優先して有効な手段を自ら封じる。全く理解できませんね。その愚行に付き合わされる兵士達には少しだけ同情しますが、これを利用しない手はありません。
私達暁はこれまで様々な勢力と抗争を繰り広げて来ましたが、降した相手の装備品を含むあらゆる物資は可能な限り回収しています。当然マスケット銃も弾薬と一緒に大量に保管していますが、使い道がありません。
最初は予備兵力でもある自警団に装備させようかと考えていましたが、マーガレットさんとの協定で黄昏にライデン社の生産拠点を誘致したことで近代兵器の供給量が増加。最新装備を回す余裕が出来ましたので、正直在庫の山には困っていました。
東部の商人が欲しがるならば、思う存分提供してあげましょう。
「時期も時期だし、定価の二倍で売り捌いたわ。面白いくらい売れて、しかも原価はほとんどタダよ。アコギに稼がせて貰ったわ」
私が在庫処分の通達を出したのが昨日で、今朝マーサさんがニコニコしながら報告してくれました。暁の在庫はもちろん、黄昏商会の在庫もまとめて放出した結果は上々。東部の商人たちは競うように買い漁りました。原価は強奪品なので実質タダなので、ボロ儲けですね。
「北部の商人に対する販売は如何しますの?」
「マーガレットさんの裁量にお任せしますが、引き続き最新兵器は定価の倍で購入しますよ」
「では型落ちの品を売ることにしますわ。それでもマスケット銃よりは遥かに高性能ですもの」
北部の商人に対する対応でマーガレットさんから相談を受けましたが、商売にまで口を挟むつもりはありません。ただ、こちらの条件を提示したら意図を汲んでくれました。
最新兵器は極力暁が買い取ります。ただ、上手く調整して内戦を長引かせる必要があります。マーガレットさんとは引き続き話し合いを続けないと。
「おーい、シャーリィ」
「なんですか?」
「いや、考え事してるんだろ?退こうか?」
「退く理由がありませんよ、そのままで」
「あいよ」
帝国の情勢は複雑怪奇。混迷を極めていますが、混乱の最中こそ更なる勢力拡大のチャンス。十四番街ではトライデント・ファミリー、マルコさんが動き始めています。マフィアの抗争に関与しつつ、トライデント・ファミリーに十四番街を取り仕切って貰いましょうか。薬物関係を管理するには最適ですからね。
同時に海狼の牙、オータムリゾート、花園の妖精達とも改めて同盟の継続と相互補助を確認しました。お義姉様はどうやら野心に目覚めたようで更なる勢力拡大を狙っているみたいですし、サリアさんはこの情勢を楽しんでいます。
ふむ、では私達はどうするか。十六番街はオータムリゾート、十五番街はマリア。十四番街はトライデント・ファミリー。同時に農地である十番から十三番街は無視で構いません。
まあ、それは後々考えましょう。先ずは情勢をしっかり見極めて、舵取りを誤らないようにしないといけませんからね。
シャーリィ=アーキハクト十九歳冬の日、ルイスに膝枕しつつ混迷を極める帝国の情勢へ想いを馳せる。
あの日から十一年、間も無くシャーリィは二十歳になろうとしていた。