テラーノベル
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甘い余韻に浸る下腹部は、微かにびくりと震えている。正直、いま動いたらそれだけで何か溢れてきちゃいそうなのに、この状態で……?
「……で、でも、うしろ、やだ」
「は?もう慣れたろ」
「ちが……っかお」
「顔?」
「っ、柊のかお、見たい」
「……あのさ、色々反則だから、それ」
反則?なにが…?
期待感を見いだせず、単純に落ち込むあたしを、柊は軽々と持ち上げた。
そのまま、部屋の隅にあるベッドに下ろされた。あたしのベッドより固めのマットレス。エアコンの真下にあるから、シーツが冷たくて心地よい。
あたしを組み敷いた柊は無表情で、ため息混じりに口を開いた。
「お前な、俺ん家のベッド嫌いじゃなかったの」
吐き捨てられた言葉はウンザリするように無色で、ペロリ、あたしの首筋を舐める舌の方がよっぽど感情が込められていた。
「……っ、そ、そんなこと、一回も言ってないよ……?」
「俺ん家じゃ絶対寝たくないって言ってたろ。あれは他人のベッドで寝たくないって意味じゃないんですか」
確かにあたしが言った言葉は、柊にとっては見当違いな場所に着地しているようで、横っ面を張られた気分である。
「……ちが、あれは……」
もにょもにょと口を濁すと「あれは?」と食い気味で催促する、無表情の彼。
引かれるのが確定したような下心なので、出来れば言いたくはない。でも、突き刺すように見上げてくるこの瞳は、獲物を逃さないスナイパーのように鋭い。
熱に濡れたアイスブルーの瞳。宝石と見紛う色が命を持って揺れている。その瞳に見つめられると逃げられないことをあたしは充分に知っている。
「……理由聞いたら、引くと思うよ」
「引かないから言ってみ?」
躊躇いがちに言ったのに、柊はあまりにかんたんに覗き込む。
言ったな?そんな軽いタッチで、心の中を暴いた後悔、すればいい。
心では強がれるのに、口に出そうとすればくちびるは震える。
「だって、柊の家を安易に知ったら……会いたい時にわけもなく柊の家に押しかけちゃいそうだったもん。毎日柊のとこ来たら、さすがに引くでしょ……」
それでも未練がましく、柊が付けた痕跡を、消えないようにと累ねて、残して。自己満な想いで心を満たしていた。
「これでも、自制してるんです。……ばか」
偶然を装ってもいいからと、会いに行きたくなる想いとか。
どうにかして、気持ちを切り替えようとしていたこととか。
なんともないふりをして、気持ちを隠すことの困難さとか。
昔、掴みそこなった宝石を、二度と手に入らない場所にあった心残りを、必死で手繰りよせようとする女の執着って、ひどく醜いもの。
怖くなって、おずおずと見上げれば「やば、なにそれ……」と、横目を向いた柊は息を吐き出しているから、やはりドン引きしたもよう。
「……な、なんて、」
「そういうのいままで全部隠して俺と会ってたの?」
なんてね!と、取り繕うとしたのに、責めるように追い込まれるので、素直にこくんと頷く。
柊は感情を表に出すことが少ないので、どう思ったか読み取ることは出来ないけれど、その頬が、ほんのりと赤らんでいる気がする。
流れとは良く言うけれど、それにしても、先走って変なこと言っちゃったかも。
みるみるうちに我に返り、火照った顔を両手で隠した。
「……やっぱ今の、ナシで……」
「” 毎日会いたかった “ってのが?」
「〜〜〜〜!!」
指の間から覗くと、どうせ馬鹿にしてるんだろうと高を括っていれば、目が合った柊は、困ったように笑っては、コツンと額をぶつけてきた。
手を離し、顔を明け渡すと、すり…と鼻をこすり合わせてキスをした。意地悪な柊の、優しい口づけだった。
「……柊、引いた?」
「べつに、全く」
「……重い女、嫌いなくせに」
「だから、ほとりなら良いよって意味」
「絶対うそだ」
「うそにしたら?」
やっぱり、否定はしてくれないらしい。
曖昧な答えにヤキモキするあたしとは裏腹に、楽しそうに微笑む彼は再び、ちゅ、と軽くくちびるを重ねてくる。柊の首に甘ったるく腕を回すと、柊は口づけをいっとう深くした。
ベッドの中は、柊の香りで充満されている。くらくらするほどの甘い香りと、ぴたりとくっついた身体の境界線から柊の体温が伝わる。部屋の中に充満する冷えた空気がよりいっそう彼の温もりを強調させた。
「最初キツいかも、我慢してな」
「……さっき言ってたの、良いの?」
「ん。俺の予定狂わせた責任とって」
ちょっと不穏な言葉を聞かせた柊は、蜜を擦り付けるように添わせていた自身に角度をつけて、侵入してきた。
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白山小梅
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