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22
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朝。
ファミリーの屋敷。
ダイニングに降りてきたマフィオソは、
その瞬間——足を止めた。
「……何だこれは」
静寂。
テーブルの前に、
部下たちが並んでいる。
全員、妙に気合いが入っていた。
カポはシャツのボタンをいつもより開け、
サングラスを額にずらしている。
リエーレは無駄に高級そうな香水の匂い。
ソルは髪を頑張って整えたのか、
いつもよりふわふわしている。
ラクティーに至っては、
なぜかキャプテンハットに薔薇を挿していた。
「……」
嫌な予感しかしない。
「おはようございます、ボス♡」
全員同時。
「おやすみ」
即Uターンしようとするマフィオソ。
しかし——
ガシッ。
「待ってくださいボス!!」
カポが腕を掴む。
「離せ」
「今日は勝負なんです!!」
「何の」
「誰が一番ボスに愛されてるか選手権です」
「帰る」
「待ってください!!」
数十分前。
「つまり」
リエーレが静かに言った。
「チャンスに対抗するには、“こちら側の絆”を見せつける必要があります」
「なるほどな」
カポが頷く。
「で?」
ソルがおそるおそる聞く。
「具体的には……」
沈黙。
そして。
リエーレ、真顔で言う。
「色仕掛けです」
「は???」
全員ハモる。
「いや待て」
カポが即座にツッコむ。
「何でそうなる」
「チャンスは距離感で揺さぶってきます」
リエーレは冷静。
「ならこちらも、“親密さ”で上回るべきです」
「理論は分かるけど方向性が最悪だろ!!」
「しかし効果的です」
「嫌な説得力あるな……」
ラクティーだけがにこにこしている。
「楽しそう!」
そして現在。
「……で」
マフィオソが低く言う。
「これは何だ」
「アピールタイムです」
リエーレが即答。
「やめろ」
「では最初は俺から!」
カポが勢いよく前に出る。
「待て」
聞かない。
「ボス」
カポがぐいっと距離を詰める。
「俺、ちゃんと鍛えてるんですよ」
ベストを脱ぐ。
「……」
「どうです?」
筋肉アピール。
「……健康的だな」
「感想が保護者なんだよ!!」
自爆。
後ろでラクティーが拍手している。
「次、僕です!」
「待て」
ラクティーも聞かない。
「ボス、これ見てください」
なぜかハート型に切ったハムエッグ。
「……何だこれは」
「愛です!」
「朝食で表現するな」
「あと僕、今日はボスの隣座ります」
自然にぴったり密着。
「離れろ」
「嫌です」
即答。
「……ソル」
マフィオソが助けを求めるように見る。
「お前はまともだろうな」
「えっ」
急に振られたソル、固まる。
「お、俺はその……」
顔真っ赤。
「……」
ちら。
チャンスを見る。
ソファでコーヒー飲みながら、
めちゃくちゃ楽しそうに観戦している。
「頑張れー」
「煽るな!!」
カポが叫ぶ。
「……っ」
ソルは意を決したようにマフィオソへ近づく。
「ぼ、ボス」
「何だ」
「……えっと」
小動物みたいに震えながら、
そっとネクタイを直す。
「……乱れてたので」
静寂。
近い。
めちゃくちゃ近い。
「……」
マフィオソが少し黙る。
「……ありがとう」
ぽつり。
ソル、顔面爆発。
「ッッッ!!?」
後ろへ飛び退く。
「今のは強ぇ!!」
カポ悲鳴。
「ナチュラルはズルいだろ!!」
リエーレも若干悔しそう。
「では次」
リエーレが静かに前へ出る。
「……お前までやるのか」
「ええ」
平然。
リエーレはマフィオソの隣へ座り、
そっとコーヒーカップを持ち上げる。
「少し冷めていますね」
自然な動きで、
新しいものへ交換。
「……」
「ボス」
声が近い。
「あなたはもっと、人に甘えるべきです」
静かな声。
「全て一人で抱え込む必要はありません」
視線が真っ直ぐ。
「私は、あなたのために存在していますから」
ソルがむせる。
カポが机に突っ伏す。
ラクティー拍手。
「強い……」
チャンスだけが、
面白そうに目を細めていた。
「……」
マフィオソは数秒黙り、
「……ああ」
とだけ返す。
「!?!?!?」
一同騒然。
リエーレ、静かに微笑む。
「で?」
チャンスが頬杖をつく。
「俺は?」
「禁止です!!!」
全員一致。
「参加すんな!!」
「えー」
全く反省のない声。
「つまんね」
「お前は刺激強すぎるんだよ!!」
「加減しろ!!」
「難しい注文だな」
笑う。
そして——
チャンスはゆっくり立ち上がる。
「じゃあ」
マフィオソの後ろへ回る。
「見てるだけにする」
「おい」
カポが警戒する。
「余計なことすんなよ」
「しないって」
軽い声。
だが、
マフィオソだけは気づく。
(こいつ、何かする)
「……」
背後に立つ気配。
近い。
チャンスは何も言わない。
ただ——
そっと。
マフィオソのフェドラ帽のつばを、
少しだけ持ち上げる。
「……!」
部屋の空気が止まる。
さらり、と。
乱れていた前髪を指で整える。
優しい手つき。
まるで壊れ物に触るみたいに。
「お前——」
マフィオソが振り返りかける。
でも、
チャンスはその前に離れる。
「はい終わり」
何事もなかった顔。
「……」
静寂。
マフィオソの耳が、
ほんの少し赤い。
「「「!!!!!!!!」」」
部下全員、戦慄。
「待て待て待て待て」
カポが震える。
「今の何」
「触っただけだけど?」
「なんでそれで揺れるんですか!!」
ソル大混乱。
リエーレが静かに額を押さえる。
「最悪だ……」
「ボス?」
ラクティーが覗き込む。
「顔赤いです」
「赤くない」
即答。
だが声が若干低い。
そして最終的に。
「……結論を言う」
マフィオソが静かに立ち上がる。
全員、固唾を呑む。
「色仕掛けは禁止だ」
「「「ええーーー!!?」」」
大ブーイング。
「仕事に支障が出る」
「どこに!?」
「全部だ」
即答。
「特にお前」
マフィオソがチャンスを見る。
「何」
「楽しみすぎだ」
「バレた?」
全然隠してない。
「……全く」
マフィオソはため息をつく。
だが——
その口元は、
少しだけ笑っていた。
それを見た瞬間。
「「「あっ」」」
全員気づく。
(ボス、ちょっと楽しんでる)
「……」
マフィオソは視線を逸らした。
「朝食にしろ」
誤魔化した。完全に。
チャンスが横で小さく笑う。
「今日も独り占め、無理そうだな」
「何か言ったか」
「別に?」
その日もまた、
屋敷は朝から騒がしかった。