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「桜子さん!すごいクリスマスツリー!」
グランフロント大阪、北館一階のナレッジプラザは毎年この季節になると素晴らしいクリスマスツリーが出現する、クリスタルのツリーの頭上からは、オーロラを溶かしたような光のベールが幾重にも垂れ、ゆるやかにキラキラ輝いている、その度、道行く人々が吐息を漏らして暫く立ち止まって見つめる
シオンも類に漏れず、ツリーを見上げてその場に立ち止まったまま動かなくなったので、桜子も彼が満足するまで見せてあげようと一緒に佇んだ
ツリーが放つ光が彼の頬に降りかかる・・・瞳はキラキラと見開かれ、十五分ごとに表情を変えるライトショーを一瞬も逃すまいと見つめている、もうこれで三周目だ
流れる光が青から薔薇色へ・・・そして銀へと移ろう度、彼の横顔にも赤や青の光がさざ波のように流れていく、まるで、彼自身が内側から光っているようだった
「うん・・・綺麗だね・・・」
桜子は、ツリーよりシオンを見てつぶやいた
.。 .:・.。. .。.:・
「桜子さんこっちむいて!」
不意にスマートフォンのレンズが向けられて桜子が焦った
「ダ・・・ダメ!ダメ!私の写真を撮って欲しくない!撮らないで!」
慌てて桜子がシオンの向けたスマホから自分の顔を両手で覆って隠す、指の間からキョトンとしたシオンの顔が見えた
「どうして?」
「だって・・・こんなブスなおばさん・・・撮ってもしかたがないわよ、写真写り悪いし、自信無いからやめて」
桜子の声はだんだん小さくなって消えていった、自分の顔が大嫌いだった、目尻の小さな皺も、鏡を見る度にため息の出る垂れ下がった輪郭も、こんなライトアップされた光の中では全て浮き彫りにされるようでいたたまれなかった
「冗談でしょ?」
シオンはスマートフォンを降ろして本当に不思議そうに首を傾げた、それから迷いのない声で言った
「桜子さんはめちゃくちゃ綺麗ですよっ!輝いているっ!」
トクン・・・―シオンくん―
.。 .:・.。. .。.:・
桜子の喉がきゅっと詰まって声にならない・・・まっすぐ過ぎる彼の言葉は、不意打ちの矢のように桜子の心に刺さる
「本当ですよ!実際このツリーを光らせているのも桜子さんですよっ!」
アハハッ・・「違うよ、言い過ぎ!」
「いいえ!僕の世界を輝かせているのは桜子さんです!だからそんなこと言わないでっ!」
「・・・分かったわ」
「あなたがいない写真なんか意味がないんだからっ!」
次の瞬間、ぐいっとシオンに肩を引き寄せられた、コート越しに伝わる彼の体温が思っていたよりもずっと温かい・・・シオンは腕をいっぱいに伸ばし、ツリーを背にして二人に向かってスマホのシャッターを切った
―カシャ―
小さな電子音が冬の夜に溶けた
フフ・・・「これ、LINEに送るね」
得意げに笑う彼の横で桜子はスマホの画面を覗き込んだ、そこには煌めくツリーの前で素敵に笑うシオンと、慣れないツーショットに顔をこわばらせた不器用な顔の桜子がいた、そんなにおかしくも無い、まずまずの二人を見て桜子の心が温かくなった
ふいに、胸の奥から言葉にならない思いがあふれてくる
私があと十年遅く生まれていたら・・・私が彼と同じ山口県に住んでいたら・・・けれど、私はもう夢見る女学生の年ではないのだ・・・それでも・・・彼と一緒にいると楽しい、今はただそれだけで十分ではないだろうか
さっき彼は桜子を「輝いている」と言ってくれた、けれど実際桜子の人生は、あまりにも平凡で惨めだった、普通の女性なら当たり前のようにどこかの男性の目に留まることもなく、季節だけが静かに過ぎていき、無駄に歳を重ねてしまっているだけ
でも、シオンは違う・・・彼は、夜空をすうっと流れていく彗星のように光り輝いている、尾を引く光のまぶしさに、人は思わず手を伸ばしたくなる、けれどその手は決して届かない・・・流れ星はいつか空の向こうへ消えてしまうものだから
光のベールがふたたび音と色を変えて奏で出した、その隣でシオンが「わあ」と小さく声をあげる、その横顔を桜子は記憶に焼き付けるように・・・いつまでもじっと見つめた
コメント
2件
シオンくん真っすぐで魅力的な人だね。桜子のこれまでの真実を知ってもそばにいてくれくれそうだけどな…何となく🤔
シオンくんの「僕の世界を輝かせているのは桜子さん」って台詞、心臓ぎゅってなりました。自分のことを「ブスなおばさん」と言う桜子に真っ向から「めちゃくちゃ綺麗」って言い切る誠実さ、すごく響きます。年齢差に悩みながらも「今はただそれだけで十分」と思う切なさにグッときました…この距離感がどう変わっていくのか、すごく気になります。