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私にはよくわからない。ただ一つ言えることがあるとすれば、それは、そのヒトは私がここにいることを望んでいないということです。
望まない? はい。向こう岸にいるのは、恐らく私の兄弟だと思います。でも、彼はとても悲しい顔をしている。まるで、誰かを失ったかのように……。
失くしたものを探すために旅をしていると言ったら笑われてしまいますかね。
いえ、笑いませんよ。それが何かは知りませんが、きっと大切なものだったのでしょう。探し出してあげてください。
ありがとうございます。ところで、あなたはこの先どちらへ行かれるつもりなのですか。
そうですね。とりあえずは、森を抜けて、どこか人のいる場所に行きたいと思っています。
それならば、途中まで一緒に行きませんか。私も一人で森の中を行くのは怖いと思っていたところなんですよ。
ではお言葉に甘えて、お願いいたします。ああ、そういえばまだ名前を名乗っていませんでしたね。私はアネモネといいます。よろしくお願いしますね。
私の名前は……、あれ? 思い出せませんね。もう忘れてしまったようです。
大丈夫ですよ。これから新しい生活が始まります。今晩はゆっくり休まれて下さい。明日になったらきっと元気になりますよ。お大事にしてください。
ありがとうございます。ところで、さっきまでここにいたあの方はどなたでしょうか。見たところ、日本人ではないようですけど……。
ああ、彼女ならあなたのことを心配して様子を見に来てくれたんですよ。彼女は優しいですね。こんな山奥にまで来てくれるなんて。でももう安心しましたよね。じゃあ、私たちは失礼します。
待ってください! まだ、名前を聞いていないです! 彼女は優しく微笑むだけで何も答えてくれませんでした。それから間もなく、二人は部屋を出て行ってしまいました。そして一人残された僕は、しばらくベッドの上で横になっていましたが、いつの間にか眠りに落ちてしまいました。
翌朝目覚めると気分はだいぶ良くなっていました。昨日感じていた倦怠感のようなものはなくなり、むしろ体調が良いくらいでした。
やはりあれは疲れのせいではなかったようですね。でも念のため今日一日はゆっくりしておいたほうが良さそうです。
私はそう考えベッドに戻り眠りにつきました。
次に私が目覚めたとき、辺りには異様な光景が広がっていました。そこは見慣れた自分の部屋ではなく、まるで洞窟のような場所でした。壁は湿っぽくてじめっとしています。天井からは水滴が落ちてきていて床を濡らしているようでした。そして私は何故か裸の状態でした。服どころか下着すら身につけていませんでした。私は慌てて周囲を見回しました。しかしそこには誰も居らず、ただ薄暗い空間が広がっているだけでした。