何も変わらないまま、ただ時だけが進んでいった。
トラゾーとクロノアさんは相変わらずの距離感だ。
体調に支障のないクロノアさんは元気そうであるけど、トラゾーは少しづつ、でも確実に体調を悪くしていった。
本人は我慢してるようだけど、もう隠し切れないくらいには限界がきていた。
「…トラゾー、」
「ごめんて、」
「怒ってんだぞ、俺は」
「…ごめん」
「頼れよ」
「ごめんなさい…」
そしてついに限界を迎えたトラゾーは点滴を打ちに来た病院内で倒れた。
連絡を受けた時は肝が冷えたし、どうしてもっと頼ってくれなかったのだとムカついた。
「お前らの仲を勘付いてるリスナーもいる」
「…うん」
誤魔化しきれないくらいギクシャクしている2人。
俺らだけでは庇いきれないくらいに。
「…みんな、お前のこと心配してるぞ」
「それも、分かってる…」
点滴を繋げられてない方の手を握りしめている。
どうにもできないことくらいトラゾー自身が1番分かってるはずだ。
花吐き病の方はクロノアさんのことを考えてさえいなければ、ひとまずは大丈夫らしい。
本人から聞いた。
そう聞いただけで、本当のことかは分からない。
そこを追求することはしなかった。
多分、これ以上心配をかけさせまいとするトラゾーなりの精一杯の嘘だ。
「2人に迷惑ばっかかけてごめん…」
俯くトラゾーは唇を噛み締めていた。
「怒ってるけど、謝ってほしいわけじゃねぇんだよ」
「……ごめん」
かなり参ってる。
それでも俺じゃどうしてあげることもできない。
握りしめてる手に自分の手を重ねて、大丈夫だと伝える為にポンポンと叩く。
顔を上げたトラゾーはきょとんとした後、小さく笑って俺の手をじっと見つめた。
久々に素直に笑ったとこを見た気がする。
「……今はゆっくり休めよ。お前頑張りすぎだし、自分を労わる為と思ってたくさん休んどけって」
「……うん」
申し訳なさで再び俯く表情に、お前は何も悪くないと言いたくなった。
でも、今何を言っても気休めにしかならないのも分かっているから何も言わず病室を出た。
「トラゾーさん、どうでしたか…」
外で待っていたしにがみくんに首を横に振る。
「…全部俺が悪いんだ、みたいな顔してた」
「何も悪いことしてないのにどうして…」
「トラゾーはそういう奴だよ。自分の中で全部消化しようとする、自分のせいにして」
しにがみくんは何かを言いかけてやめた。
「……そうでした。あの人、底抜けに優しいから」
「今は休めって言ってる。元々、頑張りすぎてるとかあったし」
「そう、ですね」
俯いたしにがみくんの紫の髪が揺れる。
「ぺいんとさん、…トラゾーさんどっかに行っちゃわないですよね」
「、…あいつに限ってそんなことしないと思うけど…」
何度聞いても、そういうのに詳しいツテに頼っても、返ってくるのは同じ答え。
それこそ奇跡が起きない限りどうにもならないと口を揃えて言われた。
「トラゾーたちが何したっていうんだよ。誰にも迷惑かけてねぇじゃん」
「……2人の仲睦まじさに嫉妬したんじゃないですか。その神とやらが。どうですか神のぺいんとさん」
「…そうかもな。2人の邪魔しやがって」
いもしない存在に当たり散らすしかできない。
「とにかく、今はトラゾーの体調優先だな」
「トラゾーさんはしばらく入院ですか」
先生から話を聞いたのは俺と冠さんだけだった。
しにがみくんはデータパックを作ったり編集とかで連絡に気付けず、遅れてきたから仕方のないことだ。
彼もまた、俺にとってもトラゾーにとっても大事な友達だから。
欠けてはならない存在。
「栄養失調だってさ。それと不眠と過労。1週間くらいは入院らしいぜ」
点滴を繋げられた痩せた腕。
着ている病衣も今の体に合わないのか、ぶかついていた。
「お見舞い、迷惑とかないですかね」
「んなわけねぇって。喜ぶよ」
「僕もちょっと話してきます!」
ホッとしたように息を吐いたしにがみくんは、病室に入っていった。
壁に背を預けるようにして凭れ掛かる。
「運命なんだろ、…覆してくれよ」
これ以上、仲間の、友達の傷付く姿を見たくない。
苦しむ顔を見たくない。
「あんただったから、よかったって思えたんだよ」
クロノアさん。
「……」
病室内から2人の笑う声がする。
トラゾーも気が紛れるのか素で笑ってくれてるようで安心する。
ここ最近ずっとあいつの笑った顔を見てなかったし、楽しそうな声を聞いていなかったから。
「……」
ふと数日前、らっだぁから電話がかかってきたことを思い返す。
『ノアには忠告したけど、なんかやな予感する』
そう言っていた。
あいつのそういう予感は当たる。
さっきしにがみくんの言っていた、何処かに行ってしまうのではという発言。
「大丈夫…。あいつは弱いとこもある、けど、強い奴だ…」
そう思いたいのに、胸がざわつく。
「何処にも行かねぇよな…トラゾー…」
何故、こんなにも焦燥しているのか。
さっきは気にも留めていなかったけど、目の前にある掲示板に誰が撮った写真が飾ってあるのに気付く。
「っ…」
その赤紫色と白色の小さな花は、俺の心を余計にざわつかせた。
赤紫…不吉な予感
白…気がかり
コメント
2件
そうですね…。 熱だしながら撮影したり、徹夜したりするくらいですから。 でも、もうちょっとだけつらい話が続きます…。
トラゾーさんって現実でも自分犠牲にしてそうですよね…ほんと無理して欲しくないです。「早く元気になってくれぇ〜(´;ω;`)」