それは、挙式から数日ばかりが過ぎた頃のことだった──。
私は住む部屋の整理などがあって、まだ一緒には住んでいなかったある日に、貴仁さんの方から、「話があるので、仕事終わりに会えないだろうか?」と、急に呼び出された。
話って何だろう……とも感じつつ、会社を出たところで、『今仕事が終わりました』と、SNSにメッセージを送った。
すると、『迎えに行くので、少し待っていてほしい』と返って来て、会社が入るビルの前で彼を待つことにした。
程なくして、目の前に左ハンドルの外車が止まり、スーッと歩道側のウインドウが下りて、「乗ってくれるか」と、声をかけられた。
頷いて助手席へ乗り込み、「お話って、何ですか?」と、何気ない調子で尋ねた。
すると彼は、「うん……」と口ごもり、なぜだかすぐには答えてはくれなかった……。
「……ちょっとドライブに付き合ってもらっても、構わないだろうか」
「ええ、それは構わないですけど……」
話をやんわりとはぐらかされたことに、多少の戸惑いが襲う。
彼はその後もあまり喋ることはなく、黙々と運転をしていて、なんとなく不安感が募った。
やがて湾岸の港に着いて、車を停めると、彼が「実は──」と、切り出した。
思わずごくっと喉を鳴らして、その先を待つ。
「実は、君に話さなければならないことがあってな……」
もったいをつけたような言い方に、ますます気がかりになるけれど、
「ああー……っと、少し降りてみないか」
彼はまた言いよどんで、もはや不安しか感じられないまま車から降りると、防波堤に打ち付ける波の音がやけに耳について響いた。
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