テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
シュメール
126
#日記
QuartoMew
1,350
屋上で、小鳥遊さんと佐伯さんが仲良くしているのを見た時、はじめは少し驚いたし、嫌な気持ちもあった。
佐伯さんが他人の恋愛に首を突っ込んで、無闇に引っかき回してるんじゃないかって。アタシはそんな風に思ってたから。
アタシの中では、佐伯さんは悪党、アタシは……仮面ライダーか赤レンジャーにでもなった気持ちだった。
だけど、実際に話を聞いてみたら、佐伯さんは内気な小鳥遊さんを、応援していただけだった。
変わった娘だという噂の通り、口調とか態度とか色々と変わってはいるけど、やってる事自体は、誰かに咎められる謂れは無い事。
恋の悩みを抱えてる娘の、悩みを軽くしてあげようと、見返りも求めずに助けてあげてる。
本人は、他人の恋が実るのが楽しいからなんて言ってたけど、それは本当の理由じゃないと思う。
なんだか、自分の恋を諦めてるというか、達観しているように見えた。
空手をやってると、時々、そういう人に会う事もある。空手一筋、命も要らぬ名も捨てた、そんなリアル空手バカ一代みたいな人は当然、恋愛なんて考えてない。
でも、佐伯さんは何かを犠牲にしなきゃならないほど、打ち込んでる物は無いはず。なのに、恋愛が他人事になってる。
佐伯さんは恋を諦めるような年でもない、アタシと同い年の高校生、思春期真っ盛り。
だとしたら、考えられるのは心に大きな傷がある場合だ。
男に酷い事をされたとか、失恋がトラウマになったとかで、自分の恋心を殺したのかもしれない。
もしかしたら、凄く悲劇的な経緯があるのかもしれない。
それなのにアタシは、何も知らない癖に佐伯さんに詰め寄って、殴りかかる勢いだった。アタシのバカ、穴があったら入りたい。いっそ埋めてほしい。
そんな自責の念を膨らませていると、屋上とドアが開く音がした。
ドアを開けて現れたのは、朝倉君だ。
佐伯さんに頼んで、この時間に屋上まで来てもらえるように取り次いでもらった。
規律が厳しい野球部の部員だからなのか、朝倉くんは時間を指定すると、その時間ピッタリに来る。
一分のズレも無い。空手家として、このブレの無さは見習うべき所があるかもしれない。
「ごめん、待たせちゃったかな」
「ううん、アタシが早く来すぎただけ」
「そう? なら良かった」
そう言うと、朝倉君はちょっと笑って、アタシの隣に立つ。
二人で、手すりにもたれかかり、自然と、他愛も無い世間話が始まった。
こんなふうに、スポーツ論でもなく、勉強の話でもなく、ただの世間話をするのは初めてだ。
朝倉君は、部活中のキリッとした表情じゃなくて、どこかゆるくて自然な表情で、柔らかい雰囲気を纏っている。
こういう時の朝倉君は、可愛らしいというか、和む感じだ。
本当、モテる理由が、これだけ詰まってる男も中々居ないな。なんて考えてしまう。
「佐伯さんって、面白いよね」
世間話をしていたら、二人の共通の知り合いである、佐伯さんの話になった。
「うん、ちょっと変わった娘だけど、面白くて、優しい娘だと思う」
佐伯さんの話題になると、二人して笑顔になってしまう。
朝倉君も、佐伯さんの人となりを分かってるみたいで、その表情が柔らかくなる。
「あ、そう言えば………っ」
「そう言えば……何?」
「な……、なんでもない」
朝倉君なら、佐伯さんが恋愛を諦めてる理由を知ってるかもしれないと思って、聞き出そうとしたのを寸前で思いとどまった。
人のプライベートをばら撒くような真似は止めてと言っておいて、アタシが本人に無断で話を聞こうとしてどうするの。
人として、武道家として、道を外れる訳にはいかない。
朝倉君は、不思議そうな顔をしながらも、続きを促さないでくれた。気を使わせちゃったかな。
***********
「あ、もうこんな時間」
他愛もないお喋りをしていると、気づいたら空はすっかり夕暮れに染まっていた。
屋上ほど、空がよく見える場所は無いのに、全く気がつかなかった。多分、楽しかったんだ。
「ほんとだ、話し込んじゃったね」
「今日はありがとう、朝倉君。すごく楽しかった」
アタシが手を差し出すと、彼はしっかり握り返してきた。
試合後の握手と同じ流れで出した手を、きちんと握り返してくれるのは、流石スポーツマンだ。
「橘さん、また今度、会って話しない?」
「うん、絶対ね。そうだ、最近出来たカフェ……なんて名前だっけ?」
「コメット珈琲?」
「それ! 今度そこでお茶しない?」
こうやって、ただ喋るのもいいけど、お茶と食べ物があったら、会話が弾むはず。
それに、初めての店なら話題も増えるから、万が一でも会話が途切れない。
「それ、いいね! コメット珈琲で待ち合わせ、了解。楽しみにしてるね」
「うん、楽しみにしてる!」
二人で屋上の扉をくぐって、それぞれの教室へ戻る。
あー、楽しかった。ただ喋っただけなのに、どうしてこんなに楽しかったんだろう。スポーツやるときとはまた違う、幸せな疲労感だ。
コメットに行くのも、楽しみ。
コメット珈琲と言えば、逆写真詐欺の大盛りサンドイッチとか、大きすぎるスイーツが話題の店だから、食べ物系の話題で盛り上がるのも楽しみだ。
朝倉君と、二人でカフェかぁ…………って、これ、もしかしなくてもデートじゃない?
アタシは、運動部二人で行くなら、食べ物の量は多い方がいいと思って誘ったんだけど、そこに男女ペアが挟まったら、完全にデートだ。
立ち止まって、両手で顔を隠す。両手が熱くなるほど、顔が火照っている。
「うーーー……」
不味い、超不味い。 デートに着ていくような服なんて、持ってない、というか、何を着ていったらいいのか分からない。
どうしよう。こんな時に相談出来る人なんて………。
(そうだ!)
佐伯さん! 佐伯さんに相談しよう。
他人の恋愛を、助けるのが好きなんだから、アタシ達のデートも助けてくれるはず!
アタシも助かって、佐伯さんも嬉しい。うん、完璧。そうと決まれば、明日にでも相談しよう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!