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ピーーーーーッ!
一次選考最終戦を告げる甲高いホイッスルが、緑色のピッチに響き渡った。
キックオフのボールが玲王から凪へ、そして凪から俺へと軽く渡る。
スタンドの巨大モニターには『チームV vs チームZ』の文字。
「行こうぜ京介! いつも通りサクッと終わらせて――」
玲王の声が背後から飛んでくるが、俺の耳には届かない。
視線の先。俺の正面で、身構えるチームZの陣形。
その中央で、背番号11――世一が、飢えた野獣のような目をして俺の間合いを見極めようとしていた。
(……キモいんだよ、その目)
世一は俺の動きを読もうとしている。
俺がどこへパスを出し、どう空間を使うか。双子だからこそ分かる「思考の癖」をトレースして、インターセプトを狙っているのが手に取るように分かった。
「……世一」
俺はボールを右足のインサイドで止めたまま、一度もアクセルを踏まず、歩くようなテンポで前進する。
「来いよ、京介……! お前の次の選択(未来)は――」
世一が前傾姿勢になり、俺の右側……凪へのパスコースを消しながら間合いを詰めてくる。
世一の脳内では、俺が「凪に預ける」か「玲王に戻す」の二択に絞られているのだろう。
愚かだ。
(お前は未来を見ようとするから、足元の『今』が消えるんだよ)
ポン、と軽い音が響いた。
俺が選択したのは、パスでも、ドリブルでの突破でもない。
世一が踏み込んだ右足の、ほんの数センチ脇。
あいつが「絶対にボールを通せない」と確信していた死角へ、あえて弱々しいコロコロとしたグラウンダーのパスを転がした。
「え――!?」
世一の目が見開かれる。
自分が消したはずのコース。自分の股のすぐ脇を、無防備なボールが通り抜けていく。
その先には――誰の姿もない。
「ハ……!? 誰もいないぞ!? 潔の兄貴、パスミスか!?」
チームZの五十嵐が声を上げる。
だが、世一だけは知っている。俺がパスミスなんていう無駄なことをする人間じゃないことを。
「違う……! そこは――!」
世一が慌てて振り返った瞬間には、遅かった。
後ろから誰もいないはずのスペースへ、雑に結んだポニーテールを揺らした俺自身が、ぬるりと滑り込んでいた。
ワンツー(壁パス)じゃない。
ただ「ボールを先にスペースへ転がし、あとから自分だけが最短距離で通り抜ける」という、あまりにも理不尽で、あまりにも無駄のない自分自身とのパスワーク。
「な……っ!?」
すれ違いざま、固まる世一の目の前で、ポニーテールが空を舞う。
俺は振り向きざまに世一の耳元で、フッと冷たい吐息を漏らした。
「お前が未来を予測したその瞬間、お前の足元は『死角』になるんだよ、世一」
言葉が届く前に、俺は左足を振り抜いていた。
ズドンッ!!!
ネットが不気味な音を立てて激しく揺れる。
ゴールキーパーは一歩も動けず、ただ呆然とボールの軌線を追っていた。
試合開始、わずか18秒。
先制点は、チームV。
「……ハぁ。疲れた」
俺は額にへばりつく黒髪を鬱陶しそうにはらい、解けかけたゴムをきゅっと強く結び直した。
静まり返るピッチ。
チームZの連中が、何が起きたのか理解できずに青ざめた顔で俺を見ている。
そして、目の前でひざまずくように立ち尽くす世一。
あいつの瞳から、さっきまでのギラついた熱が一瞬で消え去り、底なしの「困惑」と「絶望」が影を落としていた。
(そう……それだよ、世一)
胸の奥で、冷たく暗い快感がフツフツと湧き上がってくる。
お前の努力も、覚醒も、エゴも。
俺の死角の前では、全部ただの「無駄骨」だ。
「さあ、続きをやろうよ、弟(凡才)くん」
俺はポニーテールを軽く揺らしながら、世一を見下ろして低く微笑んだ。
「お前が作ったその大事なチームごと、全部ぐちゃぐちゃに壊してあげるから」
コメント
1件
第4話、読んだよ〜!!😭💕✨ いやもう冒頭の「自分自身とのパスワーク」で一気に持ってかれた!!! 未来を読む弟に対して、その未来ごとぶっ壊す兄、最高すぎるでしょ…🥺💘 ポニーテール揺らして冷たく微笑む京介、推せる。試合開始18秒のゴール、鳥肌立ったわ…この先どうなるの!? 続きが待ちきれないよ〜!!🌸🔥