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ニーノが地面に崩れ落ちた瞬間、闇の衣を纏った謎の獣人は追撃をかけた。


謎の獣人が指を鳴らす度に黒い閃光が迸り、雷鳴が轟いた。攻撃を受ける度にニーノの身体は跳ね上がり地面を転がった。


「ニーノ!」


このままではニーノが殺されてしまう! そう思った瞬間、私は咄嗟に動いていた。二人の間に割って入ると、地面に倒れているニーノを抱きかかえた。鼓動と吐息を感じる。どうやらすぐに命にかかわるような状態ではないらしい。ホッとした私は問答無用で攻撃を仕掛けた謎の獣人に対して怒りを芽生えさせた。


私はキッと目の前に佇む獣人を睨みつけると怒声を放った。


「これ以上酷いことは止して! ニーノに何の恨みがあるの⁉」


その時である。私は思わず息を呑んでしまった。身体が凍てつくのが分かる。目の前の獣人の瞳を見た瞬間、私の全身は恐怖に凍てついてしまったのだ。


謎の獣人の全身から瘴気が立ち昇っていた。幽鬼の様に生命の欠片すら感じさせない青白い肌。生気のこもらない真紅の双眸から漆黒の闇が溢れていた。一目で彼がこの世ならざる者であることが分かった。全身から立ち昇る瘴気は魔物よりも禍々しくも荒々しく、触れるだけで魂を引き抜かれるような悪寒を感じさせた。


「返せ……」


謎の獣人は掠れた声で一言そう呟いた。


「返せ? 何を返して欲しいの?」


「返せ……返せ……」


私の問いかけには何も答えず、謎の獣人は同じ言葉を繰り返した。


その時、私はハッとなる。謎の獣人の真紅の双眸から一粒の涙が零れ落ちるのを垣間見たからだ。


「貴方はもしかして……」


「ミアから離れよ!」


私が謎の獣人に話しかけようとした瞬間、ルークの鋭い爪が獣人の身体を横に薙いだ。どうやら霊体ではなく実体が存在していたようでルークの強烈な一撃を受けた獣人は横に吹き飛び地面を転がって行った。


「ミア! 無茶をするなと言っておいただろう⁉」


焦燥に塗れたルークの声が響いて来る。


「ごめんなさい、ルーク。でも、もしかしたらあの人は……」


突然、目の前に光が溢れ出した。


え?


見ると、胸に抱いていたニーノから神々しいオーラが溢れ出し、それは私達の頭上で人の姿に変貌する。


私達の頭上に現れたのは聖女のドレスを身に纏い白銀の髪をなびかせた美しい女性の姿であった。まるで実体の無い霊体のようにふわふわと宙に浮いていた。


その姿を見て私は唖然となった。何故なら、私は彼女の姿をよく知っていたから。


「聖女ラン……様?」


私の故国、ライセ王国を救った伝説の双子聖女の姉、聖女ラン。その姿は神殿内に聖女像として現在も祀られている。肖像画も多数存在し、救国の英雄としてその名と姿を知らない者はライセ王国では存在しないだろう。


何故、伝説の聖女様が霊体になって私の前に現れたというの?


宙に浮かぶ聖女ラン様は穏やかな笑みを浮かべながら右手を私の前に差し出してきた。神々しいオーラが後光となって照らし出され、眩しさに思わず目をしかめる。


それと同時に私の背筋に怖気が走る。それは死の予感。まるで死神に大鎌を振り上げられ、今、まさに魂を刈り取られる直前のような危機感を覚えた。


「私の愛しい妹……これで貴女は一生私のものよ……!」


私は確かにそれを見た。聖女ラン様の慈愛に満ちた笑みの背後に悪魔のような影が映し出されていたのを。


聖女ラン様の右手から放たれた神聖魔力は光り輝く矢となって私の心臓めがけて放たれた。私はそれを為す術もなくただ茫然と眺めるより術は無かった。


私、死ぬの? 逃れようもない死の予感に直面しつつも、私はニーノの身を案じた。


ごめんね、ルーク。貴方との約束は守れそうにない。


私がルークに遺言めいた謝罪の言葉を心の裡で呟くのと、黒い影が私の前に躍り出たのはほぼ同時だった。


それは謎の獣人だった。彼は私を庇うかのように右腕に光の矢を受けた。


「また私の邪魔をするのね、汚らわしい獣人めが⁉」


上空に浮かぶ聖女ラン様の姿をした何かは憎悪に顔を歪めると、背後に無数の光の矢を出現させる。その矛先は私にではなく全て謎の獣人に向けられていた。


「返せ……返せ……それは我が妻のものぞ⁉」


謎の獣人は怒りを露わにすると、両手を前に掲げ膨大な魔力を集中し始めた。


「ミア!」


ルークが私の前に駆けつけるのと同時に、両者は互いの魔法を放った。


聖なる魔力と瘴気を纏った魔力が衝突し、凄まじい衝撃波が発生した。


周囲が光と闇に包まれた瞬間、私は一瞬だけ意識を失った。


それは一秒にも満たない時間のようにも、数百年もの長い時間が経過したようにも思えた。


目を開けると、そこには灰色の空間が広がっていた。私は何もない虚無の世界で一人佇んでいた。ルークの姿は見えない。ニーノも、謎の獣人や聖女ラン様の姿をしたなにかも姿は見えなかった。


「ルーク、何処にいるの? 返事をして⁉」


私は必死にルークの名を呼び続けた。しかし、彼から何の反応も無い。私とルークは誓約によって魂が繋がっているはずだ。それなのに何の応答も無いだなんて。


一瞬、最悪の予感が脳裏を過ったが、私は頭を振ってそれを打ち払った。


絶望なんていつでも出来る。今はやれることを全力でやるだけよ。


私は周囲を見回す。でも、やはり灰色の景色が広がっているだけで何も見つけることは出来ない。


すると、突然、目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。そこに二つの人影が現れた。黒くて雄々しい獣耳を持った若い獣人の男性と長く美しい白銀の髪をなびかせた女性だ。まるで蜃気楼のように朧げな光景がそこには映し出されていた。


私は二人の姿を見てハッとなる。獣人の男性は先程、突如として現れた謎の獣人であり、白銀の髪をなびかせた女性は聖女ラン様と瓜二つだったからだ。


二人は愛おし気に互いに見つめ合うと、互いの手を絡め合い抱き合った。


「リン、汝に我が尾と獣耳を捧げる。どうかオレと結婚してもらいたい」


「喜んでお受けいたします。魔王陛下……いえ、ジークフリート様。私達の結婚が光と夜の世界の懸け橋にならんことを切に願いますわ」


私の全身に衝撃が駆け巡った。


この女性が魔女化し、光の世界に禍をもたらしたとされる双子聖女の妹、魔女リンなの⁉ そしてあの獣人男性がルークが言っていた歴代で最も偉大な魔王と謳われたジークフリート。


私の国に伝わる双子聖女の伝説には、二人が結婚を誓い合った仲であることは記されていなかった。ただ当時のライセ王国に禍をもたらし戦いを挑んで来たとしか伝えられていない。しかも、魔女化する前の聖女リンはどう見ても平和を願っているようにしか見えない。この二人がこの後、結託してライセ王国を襲うとは到底考えられなかった。


この後、二人に何が起こったというの?


すると、ジークフリートは聖女リンの首に青い宝石がぶら下がったペンダントをかけた。あれは私が聖女神殿で手に入れ、現在はニーノの手元にあるペンダントだ。


「リン、これはオレの気持ちだ。どうか受け取ってもらいたい」


「でも、これは夜の国に伝わる国宝なのでは? 私にはもったいのうございます」


「それは魔力を増幅させるだけではなく、清らかな魂を持つ者に奇跡を起こすと言い伝えがある。リン、君以上に清らかな者など存在すまい。きっといつか君の助けになるだろう」


二人の姿に私は自分とルークの姿を重ね合わせた。たちまち胸に熱いものがこみ上げて来るのが分かる。


その時、再び目の前の空間がぐにゃりと歪み、別の光景が映し出された。


「こ、これは……なんて酷い……!」


目の前に思わず眼を背けたくなるような凄惨な光景が広がっていた。


それが双子聖女の伝説の真実の姿であることを、私はすぐに思い知らされるのであった。

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