テラーノベル
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街の巨大ビジョンに、派手なエフェクトと共に僕たちの「宿敵」の顔が映し出される。
『世界が注目する料理の祭典、アイアン・シェフ・フェス! 王者・蓮シェフ、三連覇なるか!?』
蓮は今、人生の絶頂にいた。
僕が提供する「中毒的な新作」の数々によって
彼の評価は以前にも増して高まり、連日メディアに引っ張りだこだ。
「カナタ、見てるか? 世間が俺を求めてる。俺の作る味が、時代の正解なんだよ」
テレビ画面を見つめる蓮の横顔は、もはや恍惚としていた。
自分の手で作ったわけでもない料理の称賛を、一点の曇りもなく自分の手柄として飲み込んでいる。
その姿は、肥え太った豚が屠殺場へ向かう行進を楽しんでいるようで、滑稽ですらあった。
「ええ、本当に素晴らしいです、シェフ。…でも、フェスのメインディッシュ、本当に『あのレシピ』で行くのですね?」
僕はあえて、不安そうな声を装って問いかけた。
「当たり前だ。あのレシピは、俺が世界に認められた原点だ。それを今の俺とお前の技術でブラッシュアップすれば、向かうところ敵なしだ」
「……わかりました。では、当日使う食材とスパイスの配合表をまとめておきました。特にこの『特製燻製塩』は、仕上げの直前に、熱々の鉄板の上で振りかけるのがポイントです。香りが爆発しますから」
「ああ、お前の言う通りにするよ。お前は俺の勝利の女神だからな」
蓮は疑いもせず、僕が差し出した「破滅の配合表」をポケットにねじ込んだ。
フェス当日、会場には何百人という美食家と、カメラの向こうには数千万人の視聴者がいる。
そこで、蓮は自慢げに語るだろう。
「この料理こそが、私の魂だ」と。
盗んだレシピを、自分の血肉だと嘘をついて。
僕は、蓮が去った後の厨房で、フェス用の「特別なナイフ」を磨き始めた。
これは、切るためのものではない。
蓮という男の虚飾を、衆人環視の中で剥ぎ取るための執刀医のメスだ。
準備はすべて整った。
蓮が愛用する高級フォアグラ
僕が用意した化学反応を起こすスパイス
そして、フェスの舞台特有の「超高温の鉄板」。
これらが組み合わさったとき、黄金色のソースは一瞬にして「黒い泥」へと成り果てる。
「カナタさん、当日の搬入リストの最終確認をお願いします」
スタッフに呼ばれ、僕は事務的に頷いた。
リストの中には、一台の小型モニターも含まれている。
それは当日、蓮の背後の大型スクリーンにある「映像」を流すための、僕だけの仕掛けだ。
お前が僕から奪ったのは、料理人の権利だけじゃない。
僕という人間がこの世に存在した証、そのすべてを奪ったんだ。
だから、お前からもすべてを奪う。
名声も、金も、地位も。
そして何より、お前が何よりも固執している「天才」という名の仮面を。
「……楽しみだね、蓮」
僕は一人、誰もいない暗い厨房で呟いた。
手袋越しに触れる包丁の冷たさが、心地よく右手の疼きを鎮めてくれた。
さあ、地獄のフェスティバルの幕が上がる。
お前を、世界で一番惨めな「泥棒」にしてやるよ。
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エージェント67
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