テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
結@自担が尊い
153
結@自担が尊い
827
47
夏が来る少し前の朝は、いつもより少しだけ眩しい。
カーテンの隙間から差し込む光で目を覚まして、俺はスマホを見る。
7月1日。
まだ夏休みまでは少しある。
🤍「……暑」
小さく呟いて、布団から出る。
制服に着替えて、鞄を持つ。準備を終えて家を出ると、見慣れた家の前に見慣れた人影があった。
🩷「柔太朗ー!」
朝からよく通る声。
俺はため息をつく。
🤍「……はやちゃん、声大きい」
🩷「おはようの挨拶に文句言うなよ!」
笑いながら近づいてくるのは、俺の幼なじみの勇斗。
家は徒歩五分くらいの距離。
親同士も仲が良くて、昔から何をするにも一緒だった。
登校も、帰り道も、くだらない話をする時間も。
それが俺たちにとっては当たり前だった。
🩷「今日の数学、小テストあるじゃん」
🤍「……うん」
🩷「やばい」
🤍「勉強した?」
🩷「した!」
🤍「何時間?」
🩷「……昨日寝る前に五分」
🤍「それはしてない」
即答すると、勇斗は不満そうに頬を膨らませる。
🩷「いや、五分でも努力は努力だろ」
🤍「その努力をあと一時間早く始めればよかったのに」
🩷「柔太朗ってたまに先生みたいだよな」
🤍「誰のせいだと思ってるの」
そんな会話をしながら学校へ向かう。
いつもの道。
いつもの時間。
いつもの隣。
何も変わらない毎日。
俺はそれが好きだった。
学校では、案の定、勇斗は小テストの結果を見て頭を抱えていた。
🩷「……終わった」
🤍「大げさ」
🩷「いや、これは終わった」
🤍「赤点じゃないなら大丈夫」
🩷「柔太朗はそういうところ冷静すぎるんだよ」
そう言いながらも、勇斗は笑っている。
勇斗は昔からそうだった。
明るくて、誰にでも優しくて、自然と人の輪の中心にいる。
俺とは正反対。
俺はどちらかと言えば静かな方だし、人付き合いも得意じゃない。
でも、勇斗の隣にいると不思議と楽だった。
無理をしなくていい。
何も考えなくても、一緒にいられる。
昼休み。
友達に言われた。
「お前ら本当にいつも一緒だよな」
🩷「そう?」
勇斗が首を傾げる。
「そうだろ。登校も帰りも一緒じゃん」
🩷「まあ、家近いし」
勇斗は当たり前みたいに答える。
俺も同じように頷いた。
でも、その言葉を聞いた瞬間。
なぜか少しだけ胸に引っかかった。
いつまでこうしていられるんだろう。
そんなことを考えてしまった。
放課後。
俺たちはいつもの場所に向かった。
近所の小さな駄菓子屋。
昔から通っている場所。
勇斗は店に入るなり、迷わず棚を見る。
🩷「柔太朗、これ覚えてる?」
🤍「何」
🩷「小学生の時、これ当たるまで買うって言って怒られたやつ」
🤍「覚えてる」
🩷「懐かしいなー」
勇斗は笑う。
その笑顔を見ると、なんとなく安心する。
買ったお菓子を持って、俺たちは川沿いへ向かった。
夕方の風が少し涼しい。
川の音を聞きながら、並んで座る。
🩷「もうすぐ夏祭りだな」
🤍「7月31日だっけ」
🩷「そうそう!」
勇斗は嬉しそうに笑った。
🩷「今年も一緒に行こうな」
🤍「毎年行ってるじゃん」
🩷「でも今年はなんか特別な気がする」
🤍「何それ」
🩷「分かんない。でも、なんとなく」
勇斗らしい曖昧な答え。
俺は笑った。
🤍「変なの」
🩷「いいだろ、そういう予感って大事なんだよ」
その時、遠くで夏祭りの準備をしている人たちが見えた。
風に揺れる飾り。
まだ少し先の花火。
俺はぼんやり眺める。
この時間がずっと続けばいいのに。
そう思った。
口には出さなかった。
そんなことを言ったら、勇斗はきっと笑うから。
🤍「ずっと一緒にいよう」
なんて。
子供みたいなこと、言えるわけがない。
帰り道。
スマホを見ていた勇斗が声を上げた。
🩷「あ」
🤍「何」
🩷「知ってる?今年の夏祭りの噂」
🤍「噂?」
🩷「7月31日の一番大きな花火が上がった瞬間に、好きな人へ告白すると……」
勇斗は少し間を置いて、
🩷「恋が叶うんだって」
と言った。
🤍「そういうの信じるタイプだっけ」
🩷「いや、信じてないけど」
🤍「けど?」
🩷「……ちょっと憧れるじゃん」
勇斗は笑った。
俺も笑った。
その時はまだ知らなかった。
この夏が、俺の人生で一番長い夏になるなんて。
何度も同じ日を繰り返すことになるなんて。
そして
最後の瞬間まで、君を探し続けることになるなんて。
コメント
4件
めっちゃ空気感好きですっ😍💘 続き楽しみにしてます✨️
読了しました〜!🌙🤍 柔太朗くんの「ずっと一緒にいよう」って言えなかった気持ち、すごくわかる…。勇斗くんの明るくて無邪気な感じが、逆に切なさを引き立ててるなって思った。夏祭りの花火の噂とか、最後の「何度も同じ日を繰り返す」って伏線、もう続きが気になって仕方ないです…!🥀 日常の描写が丁寧で、心にじんわり染みました。ミクさんの優しい文章、好きです。