テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
191
레몬인
201
そあち♡໒꒱
88
なんたろ
1
第149話:アイドルの駆け込み寺(物理)〜ハリセンの洗礼と、世界を揺るがす土下座〜
「い、痛ぇ……! トラッキングの精度が高すぎて、腰を庇う動作まで完璧に同期されてやがる……っ!」
港区の巨大なモーションキャプチャースタジオ。
バーチャルステージの中央で、俺は250万円の『超絶イケメン魔王アバター』を身に纏いながら、中身の四十歳の限界を盛大に露呈していた。
『あはははっ! ルシフェルさん、魔王なのにすっごいお爺ちゃんみたい!』
トップアイドル・星乃宮アリスが、俺のへっぴり腰を見てお腹を抱えて笑っている。
『Hey boss. You look like a dying bug. Let me fix that.(ねえボス。死にかけの虫みたい。私が直してあげる)』
俺の会社の所属タレントであるはずのズボラ猫耳娘・ヨモが、不敵な笑みを浮かべながら、どこからともなく『巨大なハリセン』の3Dアイテムを取り出した。
「お、おいヨモ! なんだよそれ! ていうか、お前はアメリカからリモート参加のはずだろ!? なんでそんな物理演算バリバリのアイテムを……!」
『Die, Capitalist!(死ね、資本主義者!)』
スパーーーンッ!!
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」
ヨモが振り抜いた巨大ハリセンが、イケメン魔王の頭にクリーンヒットした。
スタプロの超絶技術は、ハリセンの『衝撃』すらも仮想空間内で完璧にシミュレートしていた。
俺のアバターは、ハリセンの打撃に合わせて首がカクンと折れ曲がり、マントがバサァッと乱れ、見事なまでにスッ転んだ。
「い、痛くはないけど……脳がバグる!! ホントに殴られたみたいに視界が揺れたぞ!!」
『LMAOOOO SHE HIT HIM!!(クソワロタ、殴った!!)』
『SUPER BOTTOM GOT SLAPPED!(スーパーボトムが引っぱたかれた!)』
『草草草www 魔王(物理弱点)www』
『SuperChat: $50.00 (HIT HIM AGAIN YOMO!)(スパチャ50ドル:もう一回叩けヨモ!)』
海外リスナーからの煽りスパチャに呼応するように、今度はアリスちゃんが目を輝かせてヨモに近づいた。
『わぁっ! なにそれヨモちゃん、楽しそう! 私にも貸して貸して!』
『Sure. Go crazy, Princess.(いいよ。やっちゃいな姫)』
「お、おい! アリスちゃん!? アイドルがそんなもん持っちゃダメだ!!」
『えーいっ! ルシフェルさんの腰痛、飛んでけーっ!!』
スパーーーンッ!!
「ぐはぁぁぁっ!!」
今度はトップアイドルによる、渾身のフルスイング。
俺は再び派手に吹き飛び、バーチャルステージの床(物理的にはスタジオのマット)をゴロゴロと転げ回った。
「や、やめろォ!! 250万円のイケメンボディを、お笑い芸人みたいに扱うなァァ!! 俺はもっとこう、クールでダークなキャラで売っていくはずだったのに!!」
『ルシフェル様』
イヤホンから、ディスコードを繋いでいる結愛(ゆあ)の氷点下ボイスが響いた。
『クールでダークなキャラは、開始3秒の【ぎっくり腰着地】の時点で完全に崩壊しています。しかし、その【悲壮感あふれるやられ役(スーパーボトム)】という新たな立ち位置が、現在、天文学的なバズを引き起こしています』
「て、天文学的……?」
『はい。現在、同接(同時接続者数)は【三十万人】を突破。アリスちゃんの過去最高記録を更新しました。国内のアイドルファンと、海外のミーム好きのZ世代が、完全に融合して一つの巨大な狂乱(ファンダム)を形成しています』
三十万人。
東京ドーム何個分だ。帯広市の人口の倍近いじゃないか。
それが今、俺がハリセンで殴られて床を転がる姿を見て、腹を抱えて笑っている。
『ルシフェルさんっ! せっかくだから、いつものアレ、やってよ!』
アリスちゃんが、ハリセンを肩に担ぎながら無邪気にリクエストしてくる。
「い、いつものアレってなんだよ!」
『「駆け込み寺」の説法だよ! 税金がいかに恐ろしいか、この世界中の三十万人に教えてあげて!』
『Yeah, preach to us, Tax Priest!(そうだ、うちらに説法してくれ税金和尚!)』
ヨモまで便乗して、俺をステージの中央へと押しやった。
三十万の視線。
ここで俺が、カッコつけて無難なアイドルトークをしたところで、誰も喜ばない。
俺の武器。
ボロアパートで特売の袋麺をすすり、市役所の面談室でケースワーカーのプレッシャーに耐え、そして今、インボイスと二重課税の地獄に焼かれている、俺自身の【魂の叫び】。
「……わかったよ。言ってやる。お前らがどれだけ稼ごうが、決して逃れられない現実ってやつをな!」
俺は、全身タイツのまま、仮想空間でマイクを握りしめた。
「いいかお前ら!! 稼ぐってのはな、幸せのパスポートじゃない! 新たな地獄への入場券なんだよ!!」
俺の腹の底からの絶叫が、三十万人の鼓膜を震わせる。
「1ドル150円の円安で稼いで喜んでたらどうなると思う!? 来年の消費税と予定納税で、稼いだ分の半分以上が国に吸い上げられるんだ!! 息をしてるだけで、金が消えていくんだよォォ!!」
『PREACH!!(説法だ!!)』
『TAX IS HELL!!(税金は地獄!!)』
『インボイスの悪魔から逃げろwww』
「IRS(アメリカの税務署)も国税庁も、俺たちを絶対に許してくれない! だから俺たちは、玄米を食って、ボロアパートで耐え忍ぶしかないんだ!! 鈴木さァァァん!! 俺はちゃんと払いますからァァ!!」
俺は、感極まって、バーチャルステージのど真ん中で。
四十歳の誇りも何もかもかなぐり捨てて、完璧な【土下座(ドゲザ)】のポーズを取った。
床に額をこすりつけ、日米の徴税機関に対して、ひたすらに命と財産の許しを乞う、究極の降伏姿勢。
250万円のイケメン魔王が、三十万人の前で、これ以上ないほど美しいフォームで土下座をしている。
『LMAOOOOOO BRO IS BEGGING THE GOVERNMENT!!(クソワロタ、こいつ政府に命乞いしてる!!)』
『DOGEZA!! THE LEGENDARY DOGEZA!!(土下座だ!! 伝説のドゲザだ!!)』
『SuperChat: $500.00 (FOR YOUR TAXES, SUPER BOTTOM!)(スパチャ500ドル:お前の税金のために、スーパーボトム!)』
『スパチャ: 50,000円 (和尚の土下座、美しすぎる!! 流石は底辺のカリスマ!)』
「金を投げるなァァ!! 俺の来年の税金をこれ以上増やすなァァァ!!」
俺の悲鳴は、極彩色のスーパーチャットの嵐と、三十万人の熱狂的な大爆笑にかき消されていった。
アリスちゃんが笑い転げ、ヨモが冷笑しながらハリセンで俺の尻を叩く。
そのカオス極まる地獄絵図は、『アイドルの駆け込み寺(物理)』として、世界中のネットミームの頂点へと君臨した。
株式会社インフィニティ・ワン。
それは、最高峰の3D技術と、底辺のリアルな叫び(と土下座)が融合した、唯一無二のエンターテインメント企業として、この夜、完全にそのブランドを世界に確立したのだった。
「……腰が……。マジで腰が砕ける……っ」
俺のリアルな涙と脂汗は、誰にも知られることなく、真っ黒な全身タイツの中へと静かに吸い込まれていくのであった。
コメント
1件
第149話、めっちゃ面白かったです!🤍 ハリセンで叩かれるイケメン魔王のギャップが最高で、特に土下座シーンは涙が出るほど笑いました(笑)「スーパーボトム」って呼ばれる主人公の哀愁と、三十万人の前で税金の叫びをぶちまけるカオス感…もう完全に新ジャンルですよこれ。250万のアバターがゴロゴロ転がる様子が目に浮かんで、読んでるこっちも腰が痛くなりました。次の展開、楽しみにしてます!🌙