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「――これで整った。では行くぞ!」
「待て、これで全てか? グライスエンドの中心には多くの人がいたはずだぞ? 彼らを連れて行くことも出来るんじゃないのか」
時空魔道士ウルティモの協力の下、おれたちは大規模転送魔法を使ってイデアベルクに戻ることになった。もちろん彼だけでは魔力が厳しいのでおれも助けるのだが。
戦闘魔導士はほとんど離散し、グライスエンドには残っていない。彼曰く、純粋な仲間は名前を呼んでいた者だけに過ぎなかったようだ。それ以外の者はあくまで戦闘する為だけの存在だったらしい。
連中を除きイデアベルクに連れて行くことにしたのは、純粋なグライスエンド人だけとなった。しかし今ここにいる者たちは、町の人間たちでは無く末裔の者たちばかり。町の規模が大したことは無いのに何故少数なのか。
「……その言葉は有り難いが、君は望んでいるのかね?」
「何をだ?」
「エルフ族もそうだが、獣が人間を許せるのかについてだ」
「なるほど……」
「そういうことだ。公国の再建はかなりかかるだろう。そんな状況下にあって、果たして獣たちは歓迎するかと言われればそうではないと言えるはずだ。君主はアックくんなのだからな」
ウルティモの言うことはもっともなことだった。イデアベルクに他の人間を住まわせるとなると、過去のことでやはり警戒してしまう。
「だがあんたがいなくなったら、ここに立ち入る奴らが出て来るんじゃないのか?」
「案じてなどいない。精霊竜も末裔も君の国に移るのだからな! それゆえ特徴など無くなるが、冒険者が町を訪れるだけなら何も問題はなかろう」
――そういうことか。
今までここを厳しく閉ざしていたのは末裔と竜の存在が関係していた。それが無くなり町だけが残れば、ここに脅威を感じる者はいなくなる。
「分かった。そういうことなら転送魔法を発動させていい」
「うむ」
転送魔法は元々時空魔道士の得意な魔法の一つらしい。不安定なおれがやるよりも、彼が発動させる方がいいということで一か所に集わせた。
「アック様、ドキドキしますです……」
「心配するな。すぐにイデアベルクに着く」
◇◇
イデアベルクに戻って来てから数日が経った。
戻って来てすぐに再建具合を確かめるつもりだったが、居住区に留まったままでまだ動いてもいない。ここにはエルフ族とドワーフ、そしてネコ族に獣族といった異種族ばかりが暮らしている。特に意識はしていなかったが人間族は極端に少ない。
グライスエンドにはそれなりに人間たちがいたのだが、彼らのほとんどはあの地に残ってしまった。ウルティモの説得もあったものの、イデアベルクに来たのは結局末裔の人間だけだ。
そして今は――。
「はへぇぇぇ~……アック様、わたしはもう十分頂きましたからこれで~」
「遠慮するなよ、ルティ。いつもお前にご馳走になってるのはおれなんだぞ?」
「で、ですけどぉぉ~」
ルティのこぶし亭が正式にオープンした。その祝いとして、もてなす側のルティを座らせたうえで彼女にたらふく食べさせている。
こういうことが容易に出来るのも君主としての務め。ルティと彼女たちに度量と心の広さを見せつけなければならないし、いい機会にもなり得る。
――ということで、おれは山のように盛り上げた料理を並べさせた。こぶし亭のスタッフたちはネコ族ばかりだが、ルティを慕っているし丁度いい。
そのおかげでおれの言うことを素直に聞いてくれた。
「あるじ様の優しさに、ルティシアさまも大喜びですニャ!」
「そうだよな! 沢山食べてもらうのはいいことだし、店も盛り上がるってもんだ」
ネコ族のスタッフたちは「ニャ~ニャ~」と言いながらとても嬉しそうにしている。大分おとなしいがルティのことだ。食べ放題で涙を流しまくりに違いない。
「うううう~……はぇぇ~。アッグざば、アック様~ぐすっ……」
「おっ? ルティ! 嬉しすぎて泣いてい――ど、どうした!?」
「わたしは大食いじゃありませぇん~……とてもじゃないけど食べられないですよぉぉ~」
「えっ……? そ、そうなのか!? それなら無理しなくていいから! だからそこまでで……」
てっきり沢山食べてくれると思っていたのに、ルティは泣きながら無理して食べていたようだ。ネコたちも心配そうに眺めている。
「ごめんなさぁいいい~」
「おれが悪かった。ごめんな、ルティ」
まさか食べられずに大泣きしているとは。
「泣き止んだらわたしにしばらく付き合ってください~ぐずっ……」
「何でも付き合うから、だから――」
「ではではっ! これからミルシェさんのお手伝いに行ってもらえますかっ?」
ルティはすぐに泣き止み、意外なお願いをしてきた。おれもそうだが、彼女の膨れたお腹をへこませる為にも歩いたほうがいいか。
「分かった。いいぞ!」
「それではっ、行きましょう~!! ――っととと」
「……バランスが悪そうだし、おれに掴まっていいぞ」
「はいっっ!」