テラーノベル
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「おひさま」の広間は、色とりどりの飾り付けが施されていつもよりずっと賑やかな空気に包まれていた。
司会のスタッフが弾むような声を響かせ、あちこちから利用者たちの拍手や家族連れの笑い声が聞こえてくる。柊吾は真理子の車椅子のすぐ隣にパイプ椅子を置き、そこで膝の上で組んだ手をぎゅっと固く握りしめていた。
(……大丈夫かな。ちゃんと、声出るかな……)
不安の波が胸の奥でぐるぐるとうずまく。そんな強張りをすぐに見抜いたのか、少し離れた位置から見守っていた瑞樹がスッと近づいてきて、後ろからそっと柊吾の肩に手を添えた。
「大丈夫ですよ。お母さんも、隣で楽しみにしていますから」
瑞樹の言葉に促されて隣を見ると、真理子は配られたプログラムをめくりながら、「何が始まるのかしらねぇ」と嬉しそうに目を細めて微笑んでいた。大好きな母の温もりを間近に感じたことで、柊吾の肩に入っていた余計な力が少しだけ抜けていく。
やがて、手作りのカラオケ大会が幕を開けた。
デイサービスの常連だという気さくなお爺さんが、少し調子外れの演歌をこぶしを利かせて朗々と歌い上げると、会場全体が温かい笑いと拍手に包まれる。
孫と一緒に参加しているらしい女性が、照れくさそうにしながらも愛らしい童謡を歌い切れば、あちこちから微笑ましい歓声が上がった。
上手い下手なんて関係ない。誰もがただ純粋に、この時間を楽しんでいる。
その和やかな光景を眺めているうちに、柊吾の中でずっと凍りついていた何かが、ふっと柔らかく溶けていくのを覚えた。
(……そうだ。歌うことって、本当はこんなに楽しいものだったんだ)
かつて自分が背負い込んでいたのは、一ミリのミスも許されない、完璧さだけを求められる冷たいステージだった。けれど、目の前にあるのは、ただ音楽を愛し、お互いの下手くそな歌に笑い合い、慈しみ合うだけの優しい場所だ。
胸の奥に、じわりと熱いものが込み上げてくる。
「柊吾さん、次みたいですよ」
瑞樹が、優しく背中を押してくれる。
「……っ、う、うん」
強張る足を必死に叱咤し、柊吾は真理子の手を一度キュッと握ってから、ゆっくりとステージの方へ歩み出した。
その時だった。
「悪い、遅くなった! まだ間に合うか!?」
突然、会場の入り口付近から響いた聞き覚えのある大声に、柊吾はびくりと肩を跳ねさせて足を止めた。
両手いっぱいに大きな紙袋を抱え、ゼイゼイと息を切らしながら勢いよく駆け込んできたのは――大樹だった。
「なっ……なんで大樹がここに!?」
瑞樹が心底驚いたといった顔で目を見開く。
「なんでって、朝倉が歌うっつーからよ! 万全の準備をしたに決まってんだろ」
得意げにフンと鼻を鳴らした大樹は、持ってきた紙袋からガサゴソと何かを取り出し、高々と掲げてみせた。中身は、派手な色のペンライトの束だった。
「ほら、お前も配れ配れ! こういうのはノリと勢いが大事だろ!」
居合わせた職員たちに次々とペンライトを押し付けていく大樹を見て、柊吾は思わずその場で頭を抱えたい衝動に駆られた。
(大樹さんっ! そんな目立つことしないでよ……っ!)
冷や汗が流れたが、もうここまで来たら引き返せない。覚悟を決めてステージの中央に立ち、そっとマイクを握りしめた。
会場中の視線が一斉に自分へ注がれるのを感じ、心臓が痛いくらいに激しく脈打つ。
さんざん迷った末に選んだのは、誰もが一度は耳にしたことのある、温かくてまっすぐなバラードだった。
イントロの伴奏が、静かに流れ出す。
(……大丈夫。すぐ隣には母さんがいて、客席には黒瀬さんもいるんだから)
大きく息を吸い込み、柊吾は震える唇を開いた。
#三角関係
霞花怜
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#イラスト部屋
寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
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コメント
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お疲れさま、かんなさん! 第108話読んだよー。 ああもう、このエピソードめちゃくちゃ沁みた……。柊吾くんの緊張と不安がすごく伝わってきて、隣で真理子さんが楽しそうにしてたの見て肩の力抜ける流れ、泣けるわ。そして大樹さん登場でペンライト! 笑ったけどめっちゃあったかいし、何より「上手い下手関係ない」って空気が柊吾くんをちゃんと包んでて、本当に良かった。次、どんな声が出るのかドキドキしながら待ってる🔥