テラーノベル
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____ jnt ____
『……眩しい』
どのくらい気を失っていたのだろうか…
開かない瞼を無理やり押し上げると、視界に入ったのは事務所の天井じゃなく、真白な光に透けるカーテンだった。
勇斗ん家か…?
身体中が、大型トラックに轢かれたみたいに痛い。
喉はひび割れた地面のように渇いて、指先一つ動かすのにも、途方もないエネルギーが必要だった。
右腕に、重みを感じる。
視線を落とすと、そこには俺の腕を枕にするようにして、床で眠りこけている勇斗がいた。
勇斗の大きな手は、寝ている間もずっと俺の左の手首を、壊れ物を扱うように優しく、けれど絶対に逃がさないという意志を込めて握りしめていた。
『…生きてる。』
昨夜のことは、断片的にしか覚えていない。
カミソリの冷たさ
喉を焼く薬の苦味
そして、泣きながら俺を殴り、抱きしめ、何度も名前を呼んだ勇斗の声
俺は自由な方の手で、勇斗の寝癖のついた髪に触れた。
熱い…こいつの体温が指先から伝わってきて、凍りついていた俺の芯が、少しずつ溶けていくのが分かった。
『…バカだな、勇斗。…こんな俺、捨てれば楽になれるのに…笑』
「…捨てねーよ、ボケ」
突然、掠れた声が返ってきた。
勇斗がゆっくりと目を開ける。
充血したその目は、一晩中俺を見守っていたことを物語っていた。
「起きたか、仁人。…どうだ、気分は。」
『…最悪。…勇斗が暑苦しいせいで、汗かいた。』
俺がいつものように憎まれ口を叩くと、勇斗は少しだけ安心したように、ふにゃりと笑った。
その笑顔を見た瞬間、俺の視界が急激に歪んだ。
『…ごめん、…勇斗……ごめんっ,,』
涙が止まらない。
あんなに切り刻んでも出なかった感情が、勇斗の体温に触れただけで、こんなにも簡単に決壊したダムのようにに溢れ出した。
____ hyt ____
「…謝んな…俺が勝手にそばにいたいだけだから」
俺は泣きじゃくる仁人を、シーツごと抱き上げた。
細い背中が、俺の胸の中で激しく上下している。
こいつは、ずっと一人で泣くことすら我慢してきたんだ。
俺は、仁人の包帯だらけの腕を自分の首に回させた。
「仁人…これからも、きっとお前はまた消えたいって思う日が来ると思う。…俺がそばにいても、傷を増やしたくなる夜があるかもしれない」
『…うん。』
「それでもいい。…その時は、俺に言え。俺の前で切れ。俺が、その血を全部拭ってやるから。…一人で地獄に落ちようとすんな。俺も一緒に行くから」
俺の言葉に、仁人は驚いたように顔を上げた。
普通なら「もう二度とするな」とか「前を向こう」とか言うべきなんだろう。
でも、そんな綺麗な言葉は、今の仁人には届かない。
俺たちは、綺麗事じゃ救えない場所にいる。
「共依存でも、病んでるって言われても、何でもいい。…俺は、仁人がいない世界で正気に生きていく自信なんてねーんだわ」
仁人が、俺の首筋に額を押し当てた。
『…勇斗…俺、最低だな。』
「何言ってんの、最高だよ。…世界で一番、俺が愛してる男なんだから」
俺たちは、狭いベッドの上で、昇ってきたばかりの朝日に包まれた。
外では、世界が何事もなかったかのように動き始めている。
でも、この部屋だけは、昨日までとは違う空気が流れていた。
仁人の傷は、すぐには消えない。
俺の不安も、明日にはまた襲ってくるかもしれない。
だけど、今、この瞬間に重なっている体温だけは本物だ。
「…仁人、腹減った。なんか作って。…あ、無理か。俺がコンビニで買ってくる」
『…勇斗が作ってよ。……不味くても、食ってやるから、、笑』
仁人が、ほんの少しだけ、本当に微かに笑った。
その小さな変化が、俺にとっては、どんな難事件を解決するよりも価値のある報酬だった。
「よし! 俺特製、最強の卵焼き作ってやるからな!」
『……絶対、殻入るじゃん。……やっぱ、俺がやる。』
ふらつきながらも立ち上がろうとする仁人の腰を、俺は支える。
繋いだ手
伝わる拍動
俺たちは、ぬかるみのような日々を、二人で足をもがきながら、少しずつ歩き出した。
ハッピーエンドなんてまだ先の話でいい。
今はただ、隣にこいつがいて、温かい。
それだけで、俺は何度でも夜を越えられる。
「愛してるぞ、仁人」
『…知ってる』
窓の外からは、新しい一日を告げる鳥の声が聞こえていた。
end.
コメント
4件
いやほんとにありがとうございます。もうこの作品の世界ごと捕食したい気分です(さいあく

本当に好きですまじで好きですありがとうございます😭😭続きみたすぎて夜しか眠れないです^ - ^