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私は咄嗟にレイの頭の上に傘を傾ける。
彼は肩越しにこちらを振り返った。
深く考えずの行動だっただけに、近い距離で目が合った途端、気まずさがこみ上げた。
(なにやってるの、私)
わけのわからない後悔をしかけた時、レイが私の手から傘を抜き取った。
「え」
『入れてくれるんだろ。
そうやって背伸びしてたら歩けないじゃん』
そう言って彼が私の足へ視線を落とす。
はっとした私は、すぐにかかとを地面に下ろした。
(なんというか……)
やっぱりこの状況はいろいろと早まった気がする。
けれどそう思っているのは私だけなのか、レイはなにも言わず先を歩きだした。
それからしばらく無言で歩いた。
商店街は定休日ばかりで、人の姿はない。
曲がり角を曲がったところで、ぽつりとレイが尋ねた。
『ミオがそんな恰好してるところ、初めて見た。
あいつとデートだったの?』
突然の質問にドキッとした。
「YES」と答えるのは恥ずかしいけど、レイからすればちゃんと「デート」に見えたのかもしれない。
そう思うとにやける私を、レイがふいに覗き込んだ。
(―――わっ)
あまりの近さに、私は驚いて立ち止まる。
彼はなにかを確認するように、綺麗な目を少し眇めた。
それから身を起こした彼は、今まで気付かなかったけど、体の半分がかなり濡れていた。
『ちょっとレイ、もう少し傘を……』
『あんたがあいつを好きなのはわかった。
けど、あいつはあんたを好きじゃないよ』
その言葉は、喉を通りかけた私の声を奪った。
「え」
思わず目を開くけれど、レイの瞳にはなんの色も浮かんでいなかった。
『なにそれ……なんで……』
『あいつがあんたを見る目、ずっと見てればわかるよ』
雨が強くなり、彼の体はさらに濡れていく。
レイはため息をひとつついた。
その瞬間、得体のしれないなにかに、頭を揺さぶられたような気がした。
ふっと、佐藤くんの顔を思い出す。
まさかと不安が胸をもたげそうになったけど、私はすぐに否定した。
そんなはずはない。
レイが私たちのなにを知っているというの。
佐藤くんが告白してくれたことも、デートプランをたててくれたことも知らないじゃない。
服を褒めてくれたことも、優しく笑ってくれたことも、なにも知らないくせに、勝手なこと言わないでよ。
『レイに……なにがわかるの。
……本当に最っ低!』
私は思い切り叫ぶと、傘の中から飛び出ようとした。
けれどすんでのところで思いとどまったのは、自分が着ているのが白いシャツだと思い出したからだ。
濡れれば下着が透けるし、彼から傘を奪い返して走るタイミングも失ってしまった。
(なによ、なによ……)
悔しくて真下に視線を落とす。
そうしているうちに涙が出そうになり、唇をかんだ。
レイは小さな息をつき、私の手を取る。
反射的に顔をあげれば、彼は傘を掴ませ、視線を遠くに向ける。
(え……)
次の瞬間、レイは雨の中を走り出した。
私は呆然と遠ざかる背中を見つめる。
だけど彼の姿はすぐに見えなくなり、灰色の風景だけが残った。