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今からレイと出かけるね。
少し遅くなるかもしれないから、
先にごはん食べてて。
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放課後、けい子さんからのメッセージを受け取った。
外は弱い雨が降っている。
あけっぱなしの教室の窓からは、湿った空気が流れこんでいた。
メッセージを眺めつつ、今朝のやりとりを思い出す。
もうじき七夕だ。
けい子さんは今日、活動している英語ボランティアのイベントで、生徒たちと短冊やかざりを作ったりしている。
そのお手伝いをしてくれないかと、レイを誘っていた。
彼は少し考えてから頷いた。
どうせ毎日東京をぶらぶらしているだけだろうし、暇なんだろう。
私たちはあれから口をきいていない。
……いや、正確には少しは話すけど、けい子さんの前か、掃除の時以外はなかった。
気まずいけど、私は絶対に謝らないし、レイもそのつもりはなさそうだ。
ため息まじりにスマホをしまったところで、杏の声がした。
「みーお! 一緒に帰ろうー!」
鞄を手に私を呼ぶ杏を見て、私は少し困った顔をした。
「ごめん杏ー、ちょっと今日は……」
テスト前はいつも杏と帰っていた。
だけど今日は―――。
私は弱った目で斜め前を見る。
杏の声に気付いたのか、佐藤くんがこちらを振り返った。
「あのね、今日佐藤くんと勉強する約束してるんだ。
……そうだ、杏!
杏も一緒にやらない? 終わったら一緒に帰ろう」
言いながら名案だと思った。
もともと教室で勉強する予定だったし、それなら杏と一緒に帰れる。
だけど杏の顔がすぐに翳った。
「なに言ってるのー。そんなの私、お邪魔虫じゃん!
それならふたりで頑張って」
眉を下げて笑う杏が寂しそうで、私は慌てて席を立った。
「ちょっとなに言ってるの、邪魔なわけないじゃん……!」
「ちょっと澪、冗談だってば。
いいからいいから。また明日ね!」
杏はひらひらと手を振って教室を出て行く。
(杏……)
杏は大勢で勉強するのが好きだから、笑って頷くと思っていた。
なのに帰っちゃうなんて、すごく気を使わせた気がする。
(……あとでLINEしなきゃ)
こんなはずじゃなかったのに、恋と友情との両立って難しい。
ため息を押し殺して前を向けば、佐藤くんは杏が出て行ったほうを見つめていた。
「佐藤くん、始めよっか」
私は笑って声をかけた。
だけどおぼつかない不安がぬぐえない。
振り向いた佐藤くんは笑ったけど、その微笑みはどこか悲しげだった。
テストは次の週に始まった。
あの日以来、杏とは少しぎくしゃくしている。
「佐藤くんと帰って」と、気をつかって先に帰ってしまうからだ。
杏との距離がどんどん開いていくのは怖い。
(……テストが終わったら、杏と話そう)
どう話せばいいかわからないけど、杏ときちんと向き合わないと。
そう決めて迎えたテスト最終日。
私は選択授業のテストを終えるとすぐ鞄を掴んだ。
私と別の選択授業をとっている杏は、ふたつ先の教室にいる。
佐藤くんも杏と同じ選択授業だから、彼には今日は杏と帰ると伝えて、先に帰ってもらおう。
ドキドキしながら教室を覗くと、杏の姿はなかった。
それに佐藤くんも見当たらない。
(……おかしいな)
きょろきょろしつつ、私は近くにいたクラスメイトに尋ねた。
「ごめん、杏見なかった?」
「あー、部室に忘れ物したとかで、取りにいったよー」
「ありがとう!」
友達にお礼を言い、私は演劇部の部室へと急いだ。
(そうだ、佐藤くん……!)
彼にも連絡しておかなきゃと、スマホを鞄から取り出し、階段をあがりながらLINEを打ち込む。
その時、廊下の向こうでふいに声がした。
「待てよ二ノ宮! まだ話は終わってない」
切羽詰まった声は佐藤くんだった。
(え、なに……)
思わず足が止まり、鼓動がどくどくと波打ち始める。
「二ノ宮!」
「もうやめて……!
澪が言ってた。佐藤くんに告白されたって。
それなのに今更間違いだったなんて……。
私を好きだなんて、言わないで……!」