「やっ!」
アルベドのいきなりの行動に、私は鳥肌が立ち思わずアルベドの手を振り払ってしまった。
だが、アルベドはそれに怒ることなくただじっと私を見ていた。
(此奴、髪にキスした……!)
「んな、恥ずかしがることねえだろ。これから、たっぷり時間はあるわけだし、楽しもうじゃねえか」
「何その台詞、くっさ! TL漫画!? エロ同人誌!? 良く聞く台詞だけどさ! 現実で言われたら鳥肌もの!」
アルベドの言った台詞が、よく見かけるくっさい台詞で私は思わずえずいてしまう。
乙女ゲームってどきどきさせるとか、ちょっと現実ではあり得ない台詞とか、こういうシーン多いけど、実際言われると凄く気持ち悪い。
ゲームごしだったらキャーって言ってたかもだけど鳥肌が止らなかった。
そんな私を見てアルベドは目を丸くして首を傾げていた。
「何だよ、そのTL漫画……? エロ同人誌って」
「いや、知らなくて良いのよ、知らなくて……」
やっぱりこの世界にはそういう単語がないのかと改めて思った。いや、まあそうだろう。此の世界にきて漫画という文化はなかったわけだし、無理もない。というかあったとしても、貴族の文化ではないだろう。貴族ってそういうのを嫌う傾向があるというか、低俗なものって庶民の文化を馬鹿にしているみたいなの、どっかの漫画で見たし。って、それも漫画かと自分で突っ込みつつ、私は自分がごりごりのオタクであることを改めて思った。
臭い台詞と言ったが、私が勝手に言っているだけだから、意味を聞かれてもちゃんと答えられる気がしない。何より、説明するのが私は苦手で下手だから。
だから、これ以上聞くなといった顔をアルベドに向けてやれば、それには気づいてくれたのか、どーでもいいわ。と興味なさげに頭の後ろで腕を組んでいた。
「まあ、俺としてはエトワールと仲良くしたいと思っているからな」
「それは、どうもありがとうございます」
「……つれないねぇ、可愛い子猫ちゃん?」
「……誰が子猫ちゃんよ! そういう台詞が嫌なの!」
私の反応が面白かったのか、ふっと笑うとまた手を伸ばしてきて、アルベドは私の頬を撫でる。
(此奴、絶対分かってる!)
意味は理解していなくても、そういう女性が喜ぶような(私は全然現実で言われたら怖くて鳥肌ものなのだが)言葉を並べる所を見て、アルベドがわざと言っているんだと私は彼を睨み付けた。勿論、彼の手を叩いて。
だが、やはりアルベドは怒ることなくただじっと私を見ていた。好感度も少し上がっているし訳が分からない。
(ああもう、なんなんのよ……!)
そう一人、肩を落としていると急に冷静になったアルベドがぽつりと言葉をこぼした。
「でも、あれ本気だぜ? エトワールに会いたかったって言うのは」
「どういう」
「だから、一日でも早くお前の顔見たかったって言ってんだよ」
先程のふざけた様子とは違い真剣な表情を浮かべてこちらを見つめてくる彼に思わず言葉が詰まる。
いつもこうやって真面目にしていれば、かっこいいのにと思うが、口が裂けても言えない。
いや、言いたくない。だって調子に乗るし。
まあ、そんなことはさておき、いきなりそんなことを言うもんだから私は頭を打ったのかとアルベドに尋ねる。勿論、彼の答えは打っていないだったが。
「いや、嘘でしょ。アンタがそんな……」
「俺が嘘つくと思うか?」
「思わないけど、いや、でも……そんな」
まさか、そんなわけないじゃない。
でも、アルベドは嘘をつくタイプじゃないしと思考を巡らせているが、彼の好感度は42だし、そもそも彼が私に恋愛感情を抱いてるわけもないと。だって、彼が私に向ける表情はいつも好奇心に溢れているものだったし、でもまあ時折真剣な表情を向けることもあったけど。
(42よ42! 70台でもよく分からないんだから、42とかまず恋愛感情でもないでしょ!)
そう、コレは友達に会いたかったと同じなのだ。と私は結論づけ軽く長そうとした。
「アルベドってぼっちだもんね。私に会えるのが楽しみだったってのも分かるわ」
「おい、俺をぼっちっていうな」
「じゃあ、何なのよ」
「……好きな女に会いたいって思うことくらいあるだろうが」
えっ、と小さく声を漏らすと彼は顔を真っ赤にさせながら私から視線を逸らす。その反応を見て、私は何と言えば良いか分からなかった。
(待って、アルベドが照れてる!? そういえば、ツンデレっていう設定が彼にはあったような!)
今はそれどころじゃないけど! と一人心の中で突っ込むと、ふと我に返ったのかアルベドも私の顔を見る不満ありありといった表情を向けてきた。
「何……?」
「いや、別に。お前には伝わってないのかと思って」
「聞えたわよ。好きな女に会いたいって、いやでも、私だよ?」
「エトワールだな」
やはり、会話がかみ合っていない。それどころか、益々アルベドの事が分からなくなってきた。
ゲーム内で、一度も嘘をつかなかったアルベド。だから、さっきの言葉も嘘じゃないだろう。けれど、私を好きって、好感度は40台なのにあり得ない。
これは、友達としての好きだな。と、言いたいけど女って言っている時点で異性として見ているわけで。
ああ、訳が分からない。
「分かった、分かった。今のは聞かなかったことにしてあげるから」
「なんでそうなるんだよ」
「あーあー何も聞えません」
両手を使って耳を塞ぎ、これ以上は何も聞きたくないという態度を取る。
すると、アルベドはああっと、紅蓮の髪をむしりながら「もうそれでいい」と諦めの声を漏らした。
「どーせ、エトワールは恋に疎いだろうしな」
「な、何よ! アンタだって、恋人いないくせに! 恋したことないくせに!」
人のことは勿論言えない。
だが、私は恋人がいたことはある。恋人らしい事はしたことはなかったが。
そう、私が言えばアルベドはむきになって反論してきた。
「俺だって、告白された経験ぐらいあるぞ」
「へぇ、それは凄いわね」
「お前、信じてないだろ」
「だって、興味ないし?」
私の返答にアルベドは呆れたように溜息をつく。そんな彼に私は笑みを浮かべてやるとアルベドは、落ち着きを取り戻したのか口を開いた。
「まあ、俺は一人だけを愛したいって思ってるし、政略結婚何てごめんだからな」
「……アルベドが言うと、何か怖いんだけど」
「お前ほんと俺の事どう思って……」
そう、アルベドがまたぐちぐち言い出しそうになったとき、部屋の扉がバンッ!とあき、リュシオルが夕食ののったワゴンを運んできた。
「わ、あ、リュシオル! ノックしてよ!」
「しても、返事がなかったからはいってきたのよ……って、お取り込み中でしたか、すみません」
「あー! 違う! 行かないで! お腹すいたの私!」
いつの間にか距離が近くなっていたアルベドと私を交互に見て、リュシオルはささっとワゴンを下げようとする。それを必死に引き留めれば、リュシオルはくすりと笑いながら、分かりましたとワゴンを引く手を止めた。そうして、夕食を机の上に置いてからごゆっくりどうぞと、部屋を後にする。
「ごはーん! お腹空いてたのよね!」
「食い意地ヤバいな……」
「ほんと、デリカシーない。嫌われるわよ!」
「へいへい」
軽く返事をしたアルベドを横目で見ながら私はご飯にありついた。
今日は、野菜たっぷりのスープとパン、メインの肉料理だった。
うん、美味しい。やっぱり、食事は大切だ。
「口、ついてる」
「ちょっ」
そういって、どこからともなく取り出した純白のハンカチで私の口元についたデミグラスソースを拭うアルベド。
その行動に驚きながらも、されるがままになっていると、彼はそのまま頬に触れてきた。
それにドキッとして、思わずアルベドの顔を見つめてしまう。すると、アルベドもこちらをじっと見ており、視線が絡んだ。
綺麗な紅蓮色の髪に切れ長の瞳……ああ、ほんと黙っていればイケメンなのに。
「エトワール、明日楽しみだな」
「全然楽しみじゃない」
「ひでぇなあ。ま? 星流祭の最終日、花火を一緒に見れば?結ばれるとか言うし、エトワールが俺の事好きになるのも時間の問題だと思うけどな」
「絶対にない!」
クスクス笑うアルベドを見ながら私はデザートに手を付ける。
(甘……っ)
口に運んだキャラメル味のケーキは、私の口には甘すぎたようで私はそれを流すように紅茶を飲んだ。
そうだ、明日はアルベドと星流祭を……
(もう、今から憂鬱なんですけど……)
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