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エヘヘと気持ち悪く笑うコユキに対して、そう言えば、と前置きした善悪が、
「ところで、でござる。 一つ疑問があるのでござるが、聞いても?」
「うん? なんでしょうか?」
いつになく改まって聞いた。
「ほら、僕ちんが目潰しで砂を撒いたでござろ? あの時目を瞑(つぶ)っていたと思うのでござるが?」
「ああ、確かに砂が入って目が開けられなかったですね。 あの時は焦りましたよ~」
「やっぱり、そうでござるか。 んで、その後のラッシュ、どうやって避けたのでござる?」
「……えーっと……」
コユキは答えようと首を傾げているが、どうやったのかイマイチ分かっていないようだった。
暫(しばら)く時間が掛かりそうだと考えた善悪は、痛めた側頭部を擦りながら、何気なく目を瞑った、その時、
『オ、オルクス……』
頭の中に直接囁くような声が届いたのだった。
「っ!」
驚いて目を開いた善悪の視界に、同じ様に驚いているコユキの顔があった。
そして、コユキは間を置かずに口にした。
「オルクス? って何だっけ? ええと……?」
コユキの呟きに反応して善悪は堪(たま)らず声を掛けた。
「ええっ! コユキ殿にも聞こえたでござるか? オ、オルクスって! 聞き覚えがあるのでござるか?」
「え、って事は善悪、先生にも聞こえたんですか? えーっと、確か…… そうだ! ヤギ頭を倒した時に! ……もしかして! 先生、あの石は今どこに?」
「お、おうっ! 何か思い当たるのでござるな! 今持って来るのでござる!」
そう言うと善悪は昼間の疲れもなんのその、シュババババっと台所を飛び出して行き、速攻で戻って来たその手には一体のソフビフィギュアが握られていた。
いつもどんな事でも一所懸命で真面目に取りくむタイプの善悪ではあったが、この一連の動きは常を越えて真剣そのものであった。
何故なら、善悪には覚えがあったからである。
――――似ている、昔、共に過ごした彼らが頭の中に直接語り掛けてくる時の感覚とそっくりでござる! 若(も)しかして……
ソフビは日本人なら知らない人は殆(ほとん)どいないであろう、七つの球を集めて竜を呼び出す話に出てくる、野菜の星出身の主人公が怒れる戦士になった姿をしていた。(初出時)
見つめるコユキの向かいに腰掛けた善悪は、コユキの目を見て頷き、コユキも同様に頷き返す。
徐(おもむろ)に、ソフビの胴体を捻り、上半身と下半身をセパレートした善悪は、上半身をひっくり返して、テーブルの上に例の赤い半透明の石を転がしたのだった。
覗き込み観察する二人。
赤く透きとおった石は、大きさやその物自体の色や形に変化した様子は認められなかった。
しかし、昨日コユキが善悪に手渡した時には見られなかった特徴が、はっきりと見て取れたのである。
石の周囲五ミリ位がボウっと輝き、純白の光りがオーラの様に包みこんでいるでは無いか。
ヤギ頭を倒した後に残っていた物にしては、その色目も相まってやけに神々しい印象を受ける。
「コユキ殿、これがオルクスって言葉と関係が有るのでござるな? どう言う事でござるか?」
善悪の質問にコユキが答える。
「うん、ヤギ頭をかぎ棒で刺した時に、なんか頭の中にイメージって言うか想念? 的な物が流れ込んできて、その中でなんか真っ白くて光ってる相手に対して、声を掛けてたんです。 『オルクス』って……」
「んん? 声を掛けてたって、コユキ殿がでござるか?」
「うん、アタシ? かな? あれ、先生? じゃないか? あれぇ?」
コユキは必死に思い出そうとしているが、何やら混乱しているようだった。
オルクスと言うキーワードの事も先程まで失念していたようであったし、それも仕方が無い事であろうと善悪は思った。
しかし、『オルクス』と聞こえた声と、この白く発光した石が無関係だとは、到底思えなかった。
どういう事なのだろうと考えを巡らせている中で、一つの憶測が善悪の口を吐(つ)いて出る。
「……この石がオルクスなのであろうか?」
瞬間、石を包んだ光が、一度だけ強く輝いてすぐに元の明るさに戻った。
善悪はギョっと目を見開き、一緒に見ていたコユキが驚きの声を上げた。
「今、答えましたよ! 先生! この石生きてるんですよ!」
「むうぅ」
「この子の名前がオルクスなんですよ。 きっと! うわぁ、なんか感動しますね!」