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蘇枋視点
昨日、自分で口にした言葉が、ずっと頭の中に残っている。
――俺ね、昔、家族がいたんだ。
あんなことを、自分から誰かに話したのは久しぶりだった。
いや。
もしかしたら、初めてだったかもしれない。
蘇枋「……家族、か」
朝の廊下を歩きながら、小さく呟く。
窓から差し込む光が眩しくて、少しだけ目を細めた。
風鈴に来てから、こういう朝にも慣れてきた。
騒がしい声。
廊下を走る足音。
誰かの笑い声。
以前の俺なら、こんな場所に自分がいるなんて想像もしなかっただろう。
それでも。
今は、不思議と嫌じゃない。
桜「蘇枋!!」
後ろから声がする。
蘇枋「おはよう」
桜「おはよ」
振り返って笑う。
いつも通り。
何も変わらない朝。
……そう思っていた。
桜「昨日さ」
蘇枋「うん?」
桜「家族の話、してたろ」
足が止まりそうになる。
けれど、俺はそのまま歩いた。
蘇枋「……覚えてたんだ」
桜「そりゃ覚えてるだろ」
蘇枋「ふふ。そうだね」
少しだけ笑う。
でも、何を言えばいいのか分からない。
家族。
その言葉を考えるだけで、胸の奥が妙にざわつく。
桜「どんな家族だったんだ?」
蘇枋「……」
答えようとして。
口を閉じた。
どんな家族だった?
そんなの、簡単に答えられると思っていた。
でも――
蘇枋「普通の家族だったよ」
やっと出てきたのは、それだけだった。
桜「普通?」
蘇枋「うん」
父親がいて。
母親がいて。
俺がいて。
たぶん、笑ったり。
一緒に食事をしたり。
そんな、ごく普通の毎日。
蘇枋「少なくとも……俺は、そう思ってた」
最後の言葉だけ、少し声が小さくなった。
桜「……?」
蘇枋「なんでもないよ」
笑ってみせる。
蘇枋「昔の話だからね」
そう言って、前を向く。
けれど。
頭の中には、さっきまでなかった光景が浮かんでいた。
――食卓。
湯気の立つ料理。
誰かの笑い声。
小さな俺。
その隣にいる誰か。
蘇枋「……」
懐かしい。
そう思った。
なのに。
胸の奥が痛い。
どうしてだろう。
幸せだった記憶のはずなのに。
そこから先を思い出そうとすると、頭の奥に霧がかかったみたいになる
そして、その霧の向こうには――
赤い色。
煙。
熱。
蘇枋「……っ」
思わず、足を止めた。
桜「蘇枋?」
蘇枋「……大丈夫」
反射的に答える。
まただ。
俺は、何かあるたびにこの言葉を使う。
「大丈夫だよ」
笑う。
笑えば、きっと大丈夫。
そうしていれば、誰も余計なことを聞かない。
……そう思っていた。
放課後。
俺は一人で屋上にいた。
風が少し冷たい。
フェンス越しに街を眺めながら、昨日のことを思い返す。
「……俺、何を覚えてるんだろうね」
誰もいないから、独り言が漏れた。
家族がいたことは覚えている。
楽しかったことも。
温かかったことも。
なのに。
最後の記憶だけが、どうしても繋がらない。
右目に手を伸ばす。
眼帯の上から、そっと触れる。
この傷ができた理由も。
この眼帯をつけるようになった理由も。
もちろん知っている。
……知っているはずなのに。
蘇枋「……」
指先が止まる。
思い出そうとすると、怖い。
何が怖いのかも分からない。
ただ。
心の奥に、ずっと引っかかっている言葉がある。
――待って。
誰かを呼んでいる。
小さな俺が。
必死に。
誰かに向かって。
蘇枋「……誰を呼んでたんだろう」
答えは出ない。
その瞬間。
風が吹いた。
眼帯の端が、ほんの少し揺れる。
蘇枋「……」
俺はすぐに押さえた。
昨日、外れてしまった眼帯。
あのとき見られた右目。
あの傷を見られた瞬間。
どうして、あんなに怖かったんだろう。
傷を見られることが嫌だったわけじゃない。
たぶん。
あの傷を見られると――
その奥にあるものまで見つけられてしまいそうだった。
蘇枋「……嫌だな」
小さく笑う。
蘇枋「俺らしくない」
いつものように、軽く笑ってみせる。
そのとき。
ふと、遠くから夕焼けが見えた。
空が赤く染まっている。
その色を見た瞬間――
蘇枋「……っ」
右目の奥が、鋭く痛んだ。
赤い。
熱い。
煙。
そして――
『……待って』
誰かの背中。
離れていく。
蘇枋「……待って」
気づけば、俺自身が呟いていた。
誰に言ったのか。
分からない。
ただ、胸の奥が苦しくなる。
蘇枋「……お願い」
そこまで口にして、俺は目を閉じた。
――何をお願いしたんだろう。
その答えだけは、まだ思い出せなかった。
しばらくして、俺はゆっくり目を開ける。
蘇枋「……大丈夫」
誰もいない屋上で、そう呟く。
いつもの言葉。
でも今日は。
自分に言い聞かせるように、もう一度繰り返した。
蘇枋「……大丈夫だよ、俺は」
夕焼けを見つめる。
赤い空の向こうに、何かがある。
俺が忘れてしまった、あの日の記憶。
そして。
その記憶の中にいる――
俺を置いていった誰か。
ここまで見て下さりありがとうございます!!
長くなってすみません。
あと、書き方見ずらかったらすいません m(*_ _)m
次も見てくださると嬉しいです!!
では안녕!!
コメント
1件
ああ、蘇枋くんのこの回、すごく良かったです……。「大丈夫」って何度も繰り返すところ、読んでるこっちの胸がぎゅっとなりました。本当は大丈夫じゃないのに、笑ってやり過ごそうとするのが蘇枋くんらしくて切ない。あと夕焼けの赤を見た瞬間のフラッシュバック、映像が浮かぶようでぞっとした……あの「待って」は誰に言ったんだろう。次の話が気になって仕方ないです!
1,432
どっかの誰かさん。
154
ℝ𝕒𝕟
79