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「忘れものない?」
晃は車のトランクを閉めた。
2泊3日の小旅行。榊原家とっての生まれて初めての旅行だった。いつも忙しくて、夏休みの長期休みは日帰り温泉やプール、海水浴で済ませていて、ゆっくり泊まりなんてできなかった。旅行ではないが、泊まったと言えば、塁が生まれてすぐに黄疸の検査にひっかかり、入院した時は、さすがに長女の瑠美は一緒に病院に入院は難しかったため、福島にいる絵里香の実家に頼り、瑠美だけ泊めていた。晃は単身赴任のような形で自宅にひとり過ごしていた。瑠美は、おばあちゃんの家に1人送り込まれ、寂しい思いをさせた記憶がある。
その時以来、実家に帰っていなかった。年末年始もお盆も普通に仕事で高齢でも仕事している母の予定と合わないことが多く会う機会を失っていた。今回、連絡なしに驚かせようと仙台の菓子折りを持って、実家に行ってみようということになった。
絵里香の母は、抹茶クリーム味の大福が大好物だった。
きっと喜ぶだろうと心躍らせて、車に荷物を積む。
大きなキャリーバック2つと瑠美と塁の好きなおもちゃやゲーム、スマホやゲームの充電器をバックに入れた。
「瑠美と塁の着替え袋入れた?」
「どこにあんの?」
「クローゼットにいつもまとめて置いてるよ。中身確認してないから見て。上のシャツとインナーとパンツと靴下。
あと、粗相した時用にビニール袋をたっぷり入れておいて」
「……マジ、要求多すぎ……自分で用意しろよ」
「はぁ?! それくらいしてくれてもいいでしょう。いつも外出や通院するとき私、全部やってるんだから、休みの日くらいやってもバチ当たらないよ?」
「はいはい。んじゃ、着替えのものは入れるからトランクに運ぶくらいはできるでしょう」
ブツブツ文句を言いなから、晃は必要なものを袋に詰め込む。結局、絵里香の言いなりだ。文句を言っても却下されることがほとんどだ。だから、話すのも疲れて黙っておくと今度はずっと黙っているのはずるいって言われる。
女ってわからない。ああいえば、こういう。
何をしても何を言っても満足しない。
どうしたらいいんだよと腹が立つ。
ずっとスマホ画面でゲームや、小説、漫画YouTubeのゲームやパチスロ実況、
ネットニュースを見て、現実から逃げている晃。
絵里香が注意すると今度はタバコを吸いに行く。
そういうことじゃない。
子どものこと見てほしいのにぼーとするだけで何も対応しない。その“見てる“ではない。ずっと母親の絵里香ばかりの対応。やっと意味がわかって相手したかと思うとスイッチが入ったように子どもたちに脇や足をこちょこちょ攻撃をして、
子どもに本当に嫌がられている。はじめは面白くてもっとやってって度がすぎて泣き始める。
相手するって他にもあるでしょうがとツッコミどころありすぎている。
ため息をつきながら、絵里香は忘れていた荷物をトランクに積んだ。
「ほら、そろそろ行くよ。本当に今度こそ、忘れ物ないよね?」
「うん、大丈夫!」
塁が返事する。瑠美は好きな本を読みながら、後部座席に乗り込む。
「瑠美は? 歩きながら本読むと危ないよ?」
「うん、もう車にあるよ」
「大丈夫なら、いくよ?」
晃が声をかける。車を進めて、高速インターに差し掛かろうとした頃、絵里香は叫ぶ。
「あ、財布忘れた!! リビングの机におきっぱなしだ」
「マジかよ。今ならギリギリ戻れるよ」
「んじゃ、今回の旅行は晃の財布からってことで」
「俺、財布に3千円しか入ってないよ?」
「んじゃキャッスレス決済ってことでクレジットカードとか、バーコード決済しちゃお」
「いや、現金も必要だよ。多少ガソリン入れるときポイント貯めてるって言ってたでしょう。そのカードも財布じゃないの?」
「うん。そうだよ」
「だって面倒なんだもん」
「ほら、戻るから、取りに行こうよ」
「仕方ななぁ」
「てか、運転するのは俺だけど……」
晃は助手席に腕を回して車をバックさせ、来た道を戻った。
「これこれ。車運転するときのなんかモテる仕草らしいよね?」
「はいはい」
拍子抜けして、ため息をつく晃。忘れものをして、がっかりなのか嬉しいのかよくわからない絵里香に呆れていた。
美と塁はワイヤレスイヤホンをつけて早速携帯ゲームを堪能していた。
「お母さん!! インターネットをつないでよ。ケータイの設定変えてー」
「えー。お母さんの電池すぐ無くなっちゃうよ?」
「私もつないでほしい」
そう言いながら、絵里香はスマホのインターネット共有をオンに
設定した。外出先でテザリング設定をしながら
ゲーム機の通信機能を繋げる。世界のお友達と遊ぶのが2人にとっては必須のようだ。
必ず4人パーティを作ってやらないといけない色塗りバトルにハマる2人。
もちろんそれは、車の中でも同じ。
もう、昔のように家族全員でのしりとりや連想ゲームでは飽きてしまう。
ゲームに飽きると晃と同じでYouTubeを見て楽しんでいる。
「親の声より、画面から出てくる声の方が興味あるって何か切ない。
小さい頃は、何がなんでもママ、パパ言ってたのにな」
「そんなこと言って、スマホやYouTubeを預けたのは誰だよ」
「確かに……私だけどさ。親だってスマホばかり見てるからダメとか言えないもんね。ラインとかネットニュースとか見ちゃうし」
「いいんじゃないの? 昔みたいにご近所の友達集まって遊ぶって少なくなってる世の中なんだから人間同士繋がれるところがあるだけでも、助かるっしょ。やりすぎはよくないけど、いつかは飽きが来るって。なんでもそうじゃん。ゲームだってずっとしてるわけじゃないから。」
「……もっと遊んであげたいって思うの。公園連れてくとか、遊園地とかさ。親心子知らずなんだけどさ。私の体力が続かないってこともあるけど。仕事しながらは無理だわ」
「仕事やめたんだから、いいだろ。好きなところ連れて行けよ。そういや、スイミングどうするの? 習い事させてたよね。瑠美の方」
「あー、もう、辞めさせないとね。手続き取らないと。忘れてた。引っ越ししたら、学校に慣れるで
時間かかるだろうから習い事は落ち着いたらでいいよね」
「それは瑠美次第じゃないの」
運転しながら、晃は答えた。絵里香は手持ち無沙汰で普段言えないことを次から次へと滝のように話し出す。
普段どれだけ夫婦会話をしていなかったんだと思い出した。
会話不足だったんだろうな。
1日の流れのミッションをこなすだけで手一杯であれやってこれやってしか言っていない気がする。
まともな会話って子どもたちが生まれるくらいは2人の時間がたっぷり合ったから、仲睦まじい関係性を築けていたのかもしれない。実家近くに引っ越して果たして家族を平穏に過ごせるのかと考えてい