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人は幸せを求めて次から次へと場所を変えては人を変えていくことでここがきっと幸せなんだと探し求めて生きていく。
青い鳥の症候群。
今の若者でにわかに考える思想。
ここじゃないどこかに行けばきっと僕、私たちは幸せになれるという。
でも生きていく中で楽園のような常に幸せになれるところなんて存在しない。
自分自分がどんなに辛くても幸せなんだと言い聞かせないと幸せになれる場所なんて存在しないのだ。
絵里香は、身に染みて感じることとなったのは実家に帰って来てからだった。
「ただいまぁー」
アポイント無しに榊原一家は絵里香の実家の里中家に到着した。瑠美と塁を後ろに最後は、晃が荷物を思って実家の玄関に入った。たまたま今日は絵里香の母は仕事休みだった。
「一家お揃いでどうしたの? 何も買ってきてないからおもてなしもできないよ? 東京にいるかと思うくらい連絡も来ないし、家に来ることもないあんたは一体どうしたの?」
絵里香はグサグサと刺さる棘のある言い方に気にせず対応する。
「そうだねぇ。孫の顔を見ないと忘れちゃうと思って連れて来てみたの。ダメだった?」
「仕事の優雅なお休みの時に孫の相手なんてできないけどそれでもいいならいいわよ」
「はいはい。どーせ期待はしてないわよ。母さんは体力ないですものね」
こちらも棘のある言い方を返してやった。
「そうね。体力全然ないから」
ありのままを言う絵里香の母|里中美那子《さとなかみなこ》。
68歳。今でも現役でお弁当屋さんでフルタイムの仕事を
やりこなしている。調理をすることは昔から好きだったらしい。
絵里香の父|里中耕太郎《こうたろう》は70歳になった今でも地元のスーパーで雑用業務でパート勤務している。
「おー、瑠美と塁。来たか来たか。じいじと一緒にお風呂入るか?」
「えー、じいじ、まだ昼間だよ。入るなら、夕方でしょう」
塁につっこまれる。瑠美は嫌がる顔を見せた。
「私はばあばと一緒にお風呂入りたいな」
「えー、ばあばは1人で入るから無理。絵里香、一緒に入りなさい」
実家に帰るといつもこの調子。満足にじいじばあばは孫の面倒を見てくれない。実家に帰ることが少なくても孫の世話をあからさまに嫌がる。いやいや、孫と接する時間少ないんだから少しくらい頑張ってくれても。
孫である瑠美と塁も顔の表情や話す言葉で雰囲気を読み取るのか、絵里香とお風呂に入りたいと言う。
(いやいや、久しぶりなんだから、普通、おばあちゃん、おじいちゃんって近寄っていくでしょう。なんで拒否るのよ。そもそも、嫌がるなよ。孫を)
腹が立って仕方ない絵里香。ため息をつきながら、結局、絵里香は瑠美と塁と一緒にお風呂に入る。
なぜか、婿である晃は重宝されて1人でゆったり浸かりなよと声をかけられている。
(私の方が1人で入りたいのに。子どもの世話からリフレッシュするのがお風呂だったりするのに理解してくれない。義理息子だからって何がえらいのよ)
絵里香は実家に帰ってきても不満ばかり募る。
「夕飯、食べていくの? 出前でいいわよね。来るって聞いてないから何も用意してないし。これから買い物なんて無理だからさ」
「え、瑠美と塁、結構、偏食だから何食べてくれるだろう」
「ほら、メニュー表。それか、近所のファミレスでもいく?」
上げ膳据え膳で食べたいのが見え見えの美那子。長旅で子どもたちも疲れているため、これから外食は厳しいと判断した絵里香は。
「ごめん、洗い物とかするから出前でもいい?」
「ああーそう。はいはい。好きなもの言って注文するから」
出前の店は地元で流行っている中華の店だった。酢豚のメニューが里中家の定番だったが、お肉を食べるのを嫌がる瑠美と塁は中華そばを頼んだ。
「好き嫌いが多いんだな。困ったな」
じいじが言う。
「まぁ、中華そばは好きだから大丈夫。晃は好き嫌いないんだけどね。子どもだから舌が敏感なのかも」
「遺伝とかじゃないのね」
「そうそう」
「あ、晃くん。お酒飲むだろ。ビールいける?」
「え、飲むの?」
「いいだろ。別に」
「はいはい。わかりました」
「今日はどこか泊まるところ決まってるの」
「一応、ホテルは予約してたよ。だって、泊まって欲しくないんでしょう。他人を泊めるのは嫌がるもんね」
「そうね。神経質だから、私」
美那子はぼそっという。瑠美と塁たちにとっては祖父母なのに、気軽に泊まって行きなよとは言ってくれない。こんなに受け入れられない実家への帰宅。悲しすぎて今にでも逃げたい気持ちになる絵里香。演技でも良いから帰ってきたね。良かったとか。孫の顔見てて嬉しいわとかなんで言えないのか。
絵里香は母に何を求めているのか。
周りのママ友に聞くとしょっちゅう実家に行っては泊まってくるよって言われるとうちでは違うことに現実を知ると心なしか自分が存在してはいけないのかと思ってしまう。
毒親。漫画やネットニュースなんかで良く見るワード。絵里香の母もきっとそうであろう。
自分もそうなってしまいそうで仕方ない。
子どもを受け入れない。孫を受け入れない。誰なら受け入れるのか。
「ごめん、晃。お風呂入らないでご飯食べたら、ホテル行こうか」
廊下の隅に晃を呼び寄せて絵里香は小声で言う。
「え、じいじが喜んでお風呂入るって言ってるけど帰ってしまって大丈夫? いいの? 久しぶりに帰ってきたのに」
「……ごめん。私がここにいるのが耐えきれないの。無理。ご飯も一緒に食べられるか微妙」
「そっか。わかった。俺も、会社に顔出しするの忘れてたからその用事あるってことでご飯食べたら行こうか」
「うん。そうしてくれると助かる」
絵里香は胸を撫で下ろした。義理関係はむしろ、晃の方なのに気を使うのが娘の方であるのはなんか違うんじゃないかと
思ってきた。耕太郎は引き出しの中にあったシャボン玉液を取り出して、ストローで膨らまして見せた。瑠美と塁も喜んで、シャボン玉に盛り上がりを見せていた。耕太郎は孫のことを少しわかってくれる方ではあった。遊び道具を物置から出してくれた。サッカーボールやキャッチボールを出して、遊んでくれた。いつもこうであればいいのに仕事で忙しいと言って、相手してくれるのは休みの日くらいでこちらの都合の良い感じではなかった。
それでも実家があるって安心感と思っていたが、核家族で過ごしていた方が楽だったと思い出した。
辛いことがあるとそれさえも忘れてしまうようだ。
絵里香は福島に引っ越しても過去から逃げることはできても育児の大変さは変わりないだろうと改めて感じた。
頼みの綱である両親に孫を見るという気持ちはこれっぽっちも持ち合わせていないのだ。