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切ないお話だと分かって覚悟していてもやっぱ泣いてしまいます…! みんと様は感動系もお上手ですよね… 名前の仕掛けとかめっちゃ凝ってて好きです! 感動で涙がどばどばだったんですけど、語彙力にも感動して涙出てきました…😭
あの🐰ちゃんの配信を見てからこの物語だけは何回みても泣けてきちゃってダメですね…笑 すごく感動しました。あの配信の時と同じように泣いちゃいました😭
ワンクッション
Iris様二次制作小説
主人公(男:秋文)→紫
ヒロイン(女:セツナ/トワ)→桃(※女体化)
※キミのニセモノに恋をする/ニケ 様の二次制作小説
※そのキャラクターに合わせるため、こちらの都合よく口調やとあるシーンの追加などがあります
※アレンジバリバリしてます要注意です
※誰が喋っているかを表す、
○「ーーー」
の○の部分に”桜”と表示される部分があるがsknf(シクフォ二)様の桃(LAN)様ではなくIris(いれいす)様の桃(ないこ)様である
※文の間に挟まれている【ーーーーー】は違うENDでの続きからを表している
※TRUEEND(物語の真の結末、あるべき終わり)
紫「はーッ…寒いな…」(手擦
吐く息の色は白く
降り積っている雪には少し嫌気をさしてしまう
紫「はぁッ…ほんま毎日おもんないな…」
雪が降り積もっているため少し歩きずらく、今もひらひらと落ちてくる小さな雪が顔に当たって冷たく、痛い
今日もいつもと変わらないため、スーツを着、その上から分厚いコートを羽織っている
雪に似合う真っ白なマフラーも巻いており、手には今日使う資料諸々が入った鞄
重たい足取りで1歩…1歩と前へ進む
“ふわっとした幼子のような笑顔”
紫「………9時から取引先との打ち合わせで、」
“いつも元気に喋る可愛らしい声”
紫「10時からは後輩の資料の確認…」
“僕といれるだけで幸せだと微笑んでくれた”
“泣き顔なんて、滅多に見たことがなかった”
紫「……また、余計なこと考えとる…」
だからこんな街、僕は大嫌いなんだ
思い出したくないのに、どうしても思い出してしまう
なのにこの街を出ていかないのは
もしかしたら、またキミが戻ってきてくれるかも…
なんて、そんな浅い期待を抱いているからだろう
紫「………」(時計見
時計を見てみると、意外とまだ時間に余裕があった
紫「…ふぅ、」
せっかくだし…と思い少し遠回りして会社へ向かうことにした
駅前近くにあるケヤキ並木の続く通りへと足を運ぶ
3~4分歩いたところで、懐かしい光景が目に映る
つい2年前まで僕がアルバイトをしていた小さなカフェ
そこにお客さんとして現れたのが”ないこ”こと、”ないちゃん”だった
紫「初めて会ったとき、ないちゃん泣いとったんやっけ…w」
少しでも彼女との思い出を後悔のものではなく、楽しかった思い出にしたい
昔のことを思い出しながらも少し微笑する
そして自然と店内の中を覗き込む
店員の中に知っている顔はなく、僕が働いていた時お世話になった店長も体を壊し病気治療中なんだとか
そのため今は店員の弟さんが代わりをしているのだそう
ぼんやりと眺めていると、かつて彼女が座っていた席へと視線がいっていた
紫「………は?」
何気なく眺めてただけだった
けれど何気なく…では終われないような光景が、僕の瞳に釘付けになる
紫「嘘…..やろ、?」
本当にここが現実なのかどうか疑うほどの事実に、思わず声が漏れていた
もう見るハズのない姿、あるハズのない姿、そんな姿が、
待ち焦がれ続けた横顔が、
そこにあった______。
僕は高鳴る鼓動とともに駆け足で店内へ入った
店員「ぁ、いらっしゃいませー」
店員「何名様でしょうか、?」
店員「…ぁれ、?あのー、?」
店員「ぇっ…と、、ぁッ、!?ちょ、ちょっと!!」
俺は店員の存在さえも無視して、彼女のもとへと早足で進む
スマホを見つめている彼女へ向かって声のボリュームも気にせず叫ぶ
紫「ないちゃん…!!」
?「ッ…!?、、っ、っ…、?」
急に隣で叫ばれたことにびっくりしたのか、肩を跳ねさせながらも僕の方向へ顔をくるりと変えて目を合わせてくる
紫「…….!」
スーツを着ているからだろうか
あの頃のあどけなさが感じられず
最初にあった時よりも髪が随分と長くなっている
今の彼女の姿は、自分の知らない、綺麗な大人の女性のように見えた
紫「ないッ…ちゃん、僕、ないちゃんのことずっと探しとったんやで…!?」
紫「今までどこに行っとったん、!?」
紫「急におらんくなっちゃったりして…」
彼女を目の前にしているせいか、自分でもびっくりするほど想いが言葉になって溢れ出てくる
?「………」
その彼女はというと、先程の驚いているような表情ではなく、不思議そうな顔で表情を変えず、ボンヤリとこちらを見ていた
多少雰囲気が変わっていたとしても、今、僕の目の前にいる彼女は2年前にこの場所で会い、
付き合うことになった女の子だ
1年前、なんの前触れもなく目の前から姿を消した、僕の彼女
ないちゃんに違いなかった
店員「あの、すみませんお客様」
店員「周りのお客様の迷惑になりますので、店内ではお静かに」
店員「とりあえず、受付まで戻ってくれますか?」
僕が彼女に夢中になっていると横から店員であろう人物から声をかけられ少し驚いてしまう
店員はイライラしながら僕に話しかけていた
紫「ぃや、、今はそれどころじゃ」
他人に構っている暇なんて今は無い、
この機を逃せば、今度こそ彼女に会えなくなるのかもしれないのだから
嫌な焦燥感に駆られる僕の耳に、
?「すみません」
?「この人、私の知り合いです」
懐かしく、優しい声が透き通った
店員「ぁ、お連れのお客様でしたか…」
?「はい、、ご迷惑をお掛けしました」(ペコリ
彼女が店員に向かって一つ、礼をする
紫「…っ、?」
その丁寧な仕草は僕の知ってる彼女とはかけ離れていて、その事に少し違和感を覚える
?「とりあえず…..座って、?」
彼女が目の前の席へと座るよう声を掛ける
紫「…ぁ、うん、、ありがとう」
僕はぎこちなさと共に席へと着いた
店員「……では、ごゆっくり」
店員「…連れなら最初からそう言えよ」(ボソッ
店員の小さな不満が僕の耳に入ってくるが、そんなこと、僕にはどうでもいい
紫「ぇ…っと、、さっきはごめんな」
紫「ほんまに久しぶりやったから、ちょっと動揺しちゃったわ…」
僕はつい先程のことについて謝る
紫「でも、、ほんま久しぶりやね」
紫「1年ぶり…やんな?」
?「………」
僕が淡々と言葉を発していると、ないちゃんは少し考える素振りを見せ、口重たそうに話を切り出した
?「…ぁの、、」
?「どちらさまですか、?」
紫「……」(止
彼女の言葉に、僕はカップを取ろうと伸ばした手が止まる
紫「どちらさま…って、、」
紫「っ…なんの…冗談やねん、、w」
紫「僕は…」
紫「君の彼氏やで…、?」
?「っ、!?…、」(警戒
僕の言葉を聞いた瞬間、彼女の表情は一瞬にして曇る
?「…私の、、彼氏、?」
?「それ、なんの冗談ですか?」
?「これって、流行りのナンパかなにかですか?」
?「だとしたら、最低ですね」
冷たい目で僕を睨みながら淡々と言葉を発する彼女
?「お店の中で、周りの人に迷惑かけて」
?「そのうえナンパ…って、人として終わってますね」
紫「なに、、言ってるんよ…」
?「あなたこそ何を言ってるんですか?」
?「だって私たち…」
?「初対面ですよね?」
紫「…………は?」
彼女のよそよそしい態度に、僕は嫌な胸騒ぎのようなものを感じていた
1年という歳月で、人はこんなにも変わってしまうものなのか、そう疑ってしまうほどだった
喋り方も、雰囲気もあの頃とは全く違う
こんなのまるで、本当に他人のようなものだった
紫「っ、初対面なら…さっきのはなんやったん、?」
?「さっきの、?」
紫「知り合いやって…話してくれとったやん、」
?「……あぁ、」
僕は信じたくない思いで必死に彼女に問い詰める
?「だって、あぁでも言わないと店員さんが納得しなかったでしょ?」
?「下手すれば、迷惑な客がいる…って、通報されてましたよ?」
紫「ぃやッ…、、っ、」
やっと会えたというのに、こんな仕打ちを受けるなんて、思ってもみなかった
でも、1年前の出来事を思い返してみると、仕方の無いことなのかもしれない
あの日、僕の目の前から姿を消した前夜、
彼女から、珍しく電話があった
あの時僕は仕事の忙しさから、彼女に対して不誠実な態度を取ってしまっていた
その事が、彼女を傷つけてしまったのではないかと、僕はしっかりと心当たりがあった
紫「ないちゃんが最後に電話くれた時、仕事の忙しさで僕はないちゃんの話ちゃんと聞けてへんかった」
紫「その事は…..ごめんな」
紫「ずっと、謝りたいと思っとってん」
?「………あの、、なんの話をしているのか、本当に分からないんですけど、、」
紫「ぇッ….?」
尚、彼女の表情からは警戒の色が伺える
その彼女の表情から、嘘や冗談を言っているようにはとても見えなかった
紫「ゃって、、キミは…ないこ、、やんな?」
あえて愛称ではなく本名で彼女に聞く
馬鹿な質問だとは思わなかった
むしろ、望まない答えが返ってくるような気がしていた
?「…….?いいえ、」
?「私の名前は、”桜永(みお)“、ですよ?」
桜(桃※以下略)「ないこさん…って、誰ですか?」
紫「ぁッ…..」
彼女と話をはじめてから抱いていた不気味さや違和感、その正体に僕は気づいた…気づいてしまった
この子は…僕の知るないちゃんとはあまりにも中身が違いすぎている
でも、容姿は彼女そのものだ
それは間違いない、
が、それでも違うのならば、まるで彼女のドッペルゲンガーに出会ってしまったような、
僕はそのことから、新しい薄気味の悪さを覚える
紫「ミオ…さん、」
桜「…….はい」
桜「なので、、人違いだと思いますよ、?」
紫「ッ…..」
こんなことが、本当に有り得るのだろうか
紫「人…違い、、」
ーーーーー(BADEND[①]ではここから続く)
でも、僕はまだ信じられない
紫「しょッ…証拠、!証拠、見せてくれへん、?」
桜「はい、?」
紫「キミがほんまにないちゃんじゃないってことを、証明してくれへんかな、?」
紫「そうしたら…諦めがつくから…」
桜「なんで…私がそこまでしないといけないんですか?」
紫「ほんまに、、人違いやったら…ごめん」
紫「けど、どうしても納得いかへんくって…」
桜「………はぁ、」
彼女が短くため息をつく、
すると、観念したような表情で口を開いた
桜「わかりました」
紫「…っ、!」
桜「でも、その前に…」
紫「….?」
少しほっ、としていると彼女の口からはまだ言葉が続いている
桜「あなたがタチの悪いナンパ野郎じゃないという証拠を見せてくれませんか?」
紫「たッ…タチの悪いナンパ野郎…..」
紫「そんなふうに思われとったんか…」
桜「あっ…」
彼女に言われた言葉が少し刺さってしまう
桜「ごめんなさい…」
桜「さすがに言い過ぎちゃったかもです…」
すると彼女はすぐに謝ってくれる
でも、この状況から考えるとそう思われても無理は無い
紫「いや、、えぇよ、」
紫「確かに、ミオさんの立場からしたらその通りかもしれへんし…」
彼女の謝罪の言葉に俺もすぐさまカバーする
でも、ナンパじゃない証拠…か、
紫「……ぅーーん、、」
桜「…なんでもいいですよ?」
桜「例えば…そうですね、、」
桜「ぁ、!写真なんか、どうですか?」
桜「見間違うくらいだから、私に顔そっくりなんですよね?」
僕が迷っていると彼女が一つ提案をしてくれる…が、
紫「写真は…ない、、んよね」
桜「…え、?」
ないちゃんは不思議と写真を撮ることを嫌った
何度か無理にツーショットを撮ろうと試みたことはあったが、僕がデータを消すまで、決して許してはくれなかった
その理由については今も僕は分からない
桜「ないん…ですか?彼女なのに?」
紫「…..っ、….」
桜「じゃ、じゃあ、LINEは?」
桜「何か恋人らしいメッセージを送りあったりとかは…」
桜「ぁッ…でも、他人にLINEを見せるのは嫌ですかね」
僕が写真のことを否定してから、また少し険しい顔を見せたが、何かを察してくれたのか、また、優しい顔に戻って違う提案をしてくれた
でも、
紫「ないちゃんは…」
紫「ないちゃんはスマホ持ってないんよね…」
これもまた、彼女は履歴が残る行為を嫌った
だから、僕らが普段会う時は必ず時間を決めて待ち合わせをしていた
僕は一応彼女に連絡先を伝えていたが、実際、電話をかけてくれたのはいなくなる前日の1度きりだった
本人は『アナログ人間だから〜w』と笑っていたが、今改めて考えてみると、少し妙でもあったと思う
桜「…証拠、何もないんですね」
目の前にいる彼女がキリっと表情を変えて言ってくる
桜「やっぱり、ただのナンパじゃないですか」
ミオがむっ、とした表情でこちらを見ている
桜「私、今就活中であまり時間がないんですよ?」
紫「ぁ、、だからスーツ着て…」
桜「…なので、用がないならもう行きますね」
彼女は自分の支払い分をテーブルに置くと、スっと席を立とうとした
紫「ぁえッ…ちょ、ちょっと」
どうしたらいいのだろうか
今呼び止めなければ、もう二度と彼女には会えないかもしれない
ーーーーー(BADEND[②]ではここから続く)
その焦りから咄嗟に僕は彼女の肩を掴もうとする…
が、その伸ばす手をぎゅっと止め、1度冷静に考えてみる
紫「時間取っちゃってほんまにごめん」
紫「その…やっぱり僕の勘違いやったんやと思う…」
紫「ごめん…」
僕の態度に、ミオが少しだけバツの悪そうな顔をする
桜「……ぃえ、」
桜「私の方こそ、初対面で色々と失礼な事言っちゃいました」
桜「…ごめんなさい」
桜「……えと、それじゃあ…あの、」
桜「私、本当に時間がないので…」
紫「そぅ…やんね、、ごめん」
正直なところ、まだ彼女を帰したくない
聞きたいこと、確認したいことは山ほどある
それに何より、また会える保証がどこにもない
それでも、今これ以上に引き止めると彼女を不快にさせるだけな気がしたから、
紫「就活…頑張ってな」
自分の本当の気持ちを心の奥へしまう
桜「…ありがとうございます」(微笑み
桜「それじゃあ、さようなら、!」(微笑み
紫「…っ、!」
帰り際、ミオが微笑んでくれた
その表情は、少しだけ、ないちゃんに似ている気がした
紫「…今日も疲れたなぁ〜…」
夜の20時過ぎ、仕事が終わり、帰り道を1人で歩いている
相変わらず外は肌寒く、朝とはまた違った寒さが襲う
今日の仕事ぶりを思い返してみると、正直あまり仕事に集中出来なかった
上司にはともかく、後輩にも上の空だと注意される始末だった
でもこれに関しては自分でもしょうがないだろうと思ってしまう
1年間待ち続けた恋人と瓜二つの女性に突然あってしまったのだから
今更だが、やっぱり彼女はないちゃんやったんじゃないかと、信号が青に変わるのを待ちながら今朝の出来事について思い出す
紫「…連絡先ぐらい、聞いとけばよかったわ…」
街の明かりをボンヤリと見つめ、後悔を口にする僕
?「…ぅわっ、!?」
紫「……、?」
突然、彼女の声が聞こえた気がした
ついに幻聴まで聞こえるようになってしまったのかと思いながらも一応声の聞こえた方に顔を向ける
桜「また…あなたですか」
紫「ぇっ、」
するとそこには、今朝あった彼女が隣にいた
桜「やっぱり、ストーカーなんじゃないですか、?」
就活終わりであろう彼女に僕はしばらく目を奪われている
まさかほんまにまた会えるなんて…
紫「ぇっ…と、、偶然やね、、w」
桜「本っっ…当に偶然ですか?」
桜「まさか…待ち伏せしてたんじゃ…!?」
彼女に大袈裟に疑われ、僕は慌てて破りを振る
紫「ちゃうって!ほんまに偶然やから!」(焦
紫「ここ、!僕も帰り道やから!」
紫「それに、こんな寒い中待ち伏せなんてさすがにせぇへんよw、」
紫「僕寒いの苦手やし〜…w」
桜「まぁ、それもそう…ですね」
桜「…ごめんなさい」
紫「……、?」
僕の気の所為やろうか?、今朝に比べてあまり元気のないように見える
もしかしたら…
紫「…おこなん?」
桜「………はい?」
紫「ぁ…/」
思ったことをそのまま言ってしまうと、ギャル語のような口調になってしまった
紫「ぁいや違っ…その、今朝のことやっぱり怒っとるんかな〜…って、、w//」
桜「ぁ、う〜〜ん…」
桜「私、そもそも怒ってなんてないですよ?」(微笑み
桜「どちらかと言えば…びっくりした〜…って感じで…w」
紫「ぁ、そっ…そうやんな、、ほんまごめん」(焦
桜「もうw…何回も謝らないでください!w」
桜「事情は…よく分かりませんけど…あなたが一生懸命なことは伝わりましたから!」(微笑み
桜「だから、ほんとにもう平気ですよ」(微笑み
桜「それに…今はそれよりも凹んでると言うか…」
紫「……もしかしてやけど、就活が上手くいってへんとか、?」
桜「っ!…はぃ、、ほんとその通りで…」
紫「そう…なんや…」
今朝の反省も踏まえ、彼女とはできるだけ普通に接することにしようと気をつけながら言葉を発する
僕は”ミオ”という一人の就活生と会話をしようと心に決めた
紫「ぁ~…余計なお世話かもしれへん…けど」
紫「僕で良かったら…全然相談乗るで?」
紫「これでもその…一応社会人…やし、」
桜「……えっ?」
彼女は驚いた顔で僕の顔を覗き込む
紫「…….ぁ、」
会ったばかりの相手にこんな提案をしたら、それでこそナンパ野郎なのではないか…?
紫「ぁ~…ぃやその…」(焦
僕の焦る気持ちとは裏腹に、彼女の小さな口が開く
桜「ぇっと…正直な話、就活を始めてから手応えのようなものが全くなくって…」
桜「けれど…周りに相談出来そうな年上の人もいなくて…」
桜「だからその…とっても助かります、!」(微笑み
紫「ぁよかったぁ~…」(ボソッ
彼女の言葉に、ほっと胸を撫で下ろす
運良くも僕の提案は彼女にとって好印象だったようだ
桜「何がよかったんですか、?」
紫「ぇ?」
桜「今、小さい声でよかった~…って言いませんでした?」
紫「ぁえっ…と、、」
まさか聞こえていたとは思わず少し動揺してしまう
紫「いきなり知らんやつからあんな提案されてもうたらそれこそまたナンパ野郎や~…って疑われへんかな、って、、」
桜「………、」
なんもまずいことなどないだろうと思い自分の思ったことを素直に言葉にする
桜「…っ、wあははっ、w」
桜「さすがに私もそこまでじゃないですよw」
紫「ぁ、えっ、やっぱり僕の考えすぎか…w」
いきなり彼女が声に出して笑い出す
その笑い方はどうしてもないちゃんと重ねてしまい、似ていると…思ってしまう
桜「……ぁ、そういえばお名前…」
少し考え込んでしまっていると彼女から言葉をかけられた
紫「ぁ、ほんまや」
いつの間にか彼女のことをないちゃんやと考え込んでしまっているためか、自分の話をすることをすっかり忘れていた
紫「僕の名前は秋月(あきづき)しょう!」
紫「しょうって漢字ははつうさぎって書いて初兎って言うで、!」
桜「….初兎さん、、ですね…!」
紫「ぁッ…ぅん!」
まだ会って間もないとはいえないちゃんと同じ顔と声で『初兎さん』と言われるのは少し違和感があった
ないちゃんは僕のことを最初からあだ名で呼んでいたし……
紫「………」
紫「……ぁ、、れ、?」
ないちゃんって、どんな声しとったっけ…
ないちゃんの姿が目の前のミオと重なっていき、彼女の存在が不透明になってゆく
桜「……初兎さん、?」
紫「……ぁ、ぅん、ごめん」
考え込んでしまっている場合じゃない…やんな
目の前の彼女は、ないちゃん本人ではないのかもしれない
けど……それでも、ないちゃんに何かすら関わりのある人物ではある気がする
ミオと接点が作れるチャンスを逃す訳にはいかない
紫「……っ、!」
僕は思いっきって彼女に提案してみることにした
紫「あの…もし、やねんけど、嫌じゃなかったら…連絡先、交換せぇへん…?」
桜「………」
桜「んふっ…w」
紫「…ぇっ、?」
彼女の反応が僕には意外で、少し動揺してしまう
紫「ぁ、、ご、ごめん、!やっぱり嫌やった…?」
桜「…ぅうん、そうじゃなくて、」
桜「初兎さん、今朝は物凄い勢いで迫って来てたのに今回はやけに慎重だなー…って!w」
桜「なんだかそれが…おかしくってw」
紫「ぁ、いやあの時はアドレナミンがほんまドバーっと出てたというか…!、」(焦
桜「あっははw、なんですかそれ〜w」
桜「ぁ~…っと、LINEで、、いいですよね、?」
彼女はスーツの中からスっとスマホを取り出す
桜「…実はですね、?」
紫「……?」
彼女はスマホに視線を向けたまま呟いた
桜「初めに初兎さんに声をかけられた時、この人は何を話してるんだろ〜…って、疑問はあったんですけど…..」
桜「嫌悪感とか、嫌だな〜…って気持ちはあまりなかったんですよね、」
桜「いきなり声をかけられたのに…それって…..」
桜「なんだか、不思議ですよね、!」(微笑み
今日はカフェでミオに就活のアドバイスをする約束をしていた
店員「…ぁ、空いてる席へどうぞ〜、!」
特に意識するまでもなく、僕の足はあの席へ向かっていた
席に座ると、窓の外をボンヤリと眺めながらミオが来るのを待つ
紫「……」
約束したはえぇけど、、もしかしたら…彼女は来ぉへんかもしれへん
いや、もしかしなくてもや、常識的に考えてみると昨日会ったばかりの男から就活のアドバイスやなんて…
紫「……ほんまに、、余計なお世話やんな…」
紫「…………はぁ、、」
?『ごめんなさぃ…..』
初めて会った時のないちゃんは、まるで子供が叱られたみたいに、瞳に涙を溜めていた
紫『ぇ…っと、、キミが食い逃げしようとしてた子、?』
桃『なっ”!?…食い逃げだなんて!そんな人聞きの悪い…!』
この日は、店長不在の職場でちょっとしたトラブルが起きていた
高校生…くらい、だろうか、?
目の前の彼女が支払いをせずに店を出ていこうとしたらしい
困り果てた同僚はバイト歴の長い僕に判断を任せたというわけだった
紫『…ぇ、、っと、財布は?』
桃『……?持ってないです!』
紫『ぇ、ぁ、財布がないことにはいつ気づいたんかな?』
桃『最初から知ってました!』
紫『ぁえッ…じゃぁ、最初から知っとったのに、ランチセットを頼んだっ…てことやんな?』
桃『はい!美味しかったです!』
紫『ぁうん、、ありがとう…』
紫『…やなくて、!食べた後、!支払いはどうするつもりやったん?』
桃『食べ終わるまで考えてませんでした!』
紫『…..それ、、を、食い逃げと言うんやない…かな、?』
桃『…はっ!』
桃『うぅ、、はめられた…指導訪問だよ…これ…』
彼女は再び悲しげな表情で俯く
表情がコロコロと変わる子だ
桃『でも…まだここにいます』(拗
紫『…………ん?』
桃『逃げてないので…食い逃げでは無いです…』(拗
紫『そ、それは屁理屈では…』
桃『っ…..うぅ、、』(涙目
紫『ぁ~…まぁ、えぇわ』
紫『スマホで家族に連絡取れる?』
桃『スマホ、持ってないです!』
紫『ぇあ….そ、そう、、』
困ったわ…とはいえこのまま帰してしまうのは彼女のためにも良くない気がする
紫『と~…りあえず、この紙に住所と名前、書いてくれへん、?』
紫『そうしたら、今日はもう帰ってえぇから…..』
決めつけるにはまだ早いかもしれないが、彼女は嘘の連絡先を書いてその場をやり過ごそうとするような子では無いような気がしていた
桃『…ぁ、、』
彼女はしばらく考えこむと、紙に小さく文字を書きこんだ
桃『……、』(書き終
紫『ん~…えっと、、桃桜(ももざくら)ないこ…さん?』
それ以外は何も書かれていない
桃『…………』
紫『すぅー…ま~…じか、、』(ボソッ
この状況にとても困ってしまう
食い逃げをしたのが家族に知られるのはさすがに罰が悪いだろうか
もしくは、家族と連絡が取れない事情でもあるんやろうか…
例えば、家出をしてきたりとか……
なんにせよ、難しい状況ではある
紫『…ぅ~……』
僕が困り果てているとちょうどいいタイミングで店長が帰ってきてくれた
紫『……店長、!あの、実は……』
僕は店長に事の顛末を説明し、そのまま彼女の対応を店長に任せることにした
これが、僕とないちゃんとの出会いやった
?「初兎さん…?」
気が付くと、ミオが不安そうに僕の顔を覗き込んでいた
紫「んぁ…、ぁご、ごめん」
どうやら僕はミオを待つ間に眠ってしまっていたようやったらしい
桜「仕事の疲れが取れてなかったんじゃないですか…?」
桜「大丈夫…ですか?」
紫「ぁうん、全然大丈夫やで~」
紫「そんなことより…今日はありがとうな」
桜「ぁ、いえ…!こちらこそありがとうございます」
紫「正直に言ったら…今日は来てくれへんのかと思っとった」
桜「ぁぇ、どうしてですか?」
紫「冷静に考えてみたら、僕ってだいぶ怪しいやつやった……し…w」
桜「あははっw確かに」
桜「でも、約束しましたからね…!」
桜「約束はちゃんと、守らなきゃ」
紫「………、!」
きっと、彼女は素直で誠実な性格なのだろう
紫「それじゃ…さっそく始めるか」
桜「はぃ!よろしくお願いします」
ミオは鞄からノートを取り出すと、僕に差し出す
紫「……す、凄いな」
ノートには現状面接を進めている企業や、業種などの詳細な情報が丁寧にまとめられていた
紫「こんだけわかりやすく情報がまとめられとって、ナンパ野郎の僕の対応も丁寧やったからきっと面接も問題はないやろうし…」
桜「ナンパ野郎…って」(ボソッ
桜「あはっw自分で言っちゃってるw」(ボソッ
これでは…僕の出る幕はないのでは?
僕は少しでも彼女の力になれないかとぱらぱらとノートをめくる
…寿司丸、総合職、三次面接まで合格
朝日電気、事務職、二次面接まで合格
空文庫、営業職、次が最終面接
紫村堂、総合職、三次面接まで合格
その他各種の企業の説明会に参加予定
紫「…なん、、というか、うん、職種がバラバラ、、やね」
桜「そ、そうでしょうか…?」
紫「この中で、第一志望はどこなの?」
桜「第一志望…ですか?」
ミオが首を傾げる
桜「…………」
そのまましばらく黙り込んでしまった
紫「ぁ…..」
考えが上手くまとまらい
しっくりくる言葉が見つからない、
そう、彼女からそんな雰囲気を感じられた
紫「ミオさんは、、さ…」
紫「自分のやりたいこととか、夢…ってないん、?」
桜「やりたい…こと」
桜「…………っ、」
紫「ぁ、っ、」
彼女の瞳から光が消えかけていることに気づいた僕は慌てて言葉を付け足した
紫「難しく考えんでも大丈夫やで、!」
紫「ぇっと、子供の頃何になりたかったんか…とか」
紫「誰といてる、何をしている自分が好き…だとか」
紫「そういう話で十分やから、!」(焦
ありきたりな話かもしれないが、就職活動の第一歩は自分が何をしたいのか、すなわち自己分析からはじまるのだと思う
自分のことが分からなければ、膨大な数の職種の中から自分の合った仕事を探すのは、とても、難しい事…やろう
桜「…分からないです」
紫「ぇっ、?」
桜「子供の頃になりたかったものも、何をしている自分が好きなのかも」
桜「よく…..分からないです」
紫「…っ、、、」
淡々と話をする彼女の姿は痛々しくもあり、彼女はもしかしたら、
“からっぽなのかもしれない”
と思った
桜「これまで全部他人が決めてくれたから、考えたこともなかったです」
桜「自分が何になりたいか…なんて、」
紫「そう…..なんや」
桜「はい…」
桜「やっぱり、このままじゃ良くないですよね、?」
紫「…うん、、そうかもな、」
会社は、新しく入る人のやる気や熱量を面接で見ている
そういう意味では、彼女は他の就活生に比べると不利な状況にいるのかもしれない
桜「初兎さんの仕事の話を聞かせてくれませんか?」
紫「ぇっ…僕の話、?」
桜「はい、!」
桜「初兎さんが、今されているお仕事に対してどう思っているのか…どうやって、その会社を選んだのか、」
桜「参考に教えて欲しいです、!」
紫「………」
“深夜残業” ”急な依頼のキャンセル”
“手戻り” ”上司の怒鳴り声”
仕事という言葉を聞いて、僕の脳裏に嫌なイメージが次々と浮かぶ
だめや、これから社会人になる彼女に、悪い印象を与えるのはよくない
僕はできるだけ本音を隠して、慎重に言葉を選んだ
紫「紫桃(しとう)社…って知っとる?」
桜「知ってます、!」
桜「県内で結構有名な音楽…の会社ですよね?」
紫「そうそう、僕はそこで働いとるんよ」
桜「そうだったんですね、!」
紫「僕さ、子供の頃から音楽が好きで、どんな形であれ音楽に関わりのある仕事ができたらえぇな〜…と思っとったんよ」
桜「それで音楽関連の会社に、?」
紫「そうやで、僕が思う紫桃社の一番の魅力は、誰かの門出に立ち会えるところ…かな」
桜「……っ、、、?」
ミオが頭にハテナを浮かべたような表情をする
紫「MVとか曲を世の中に出すためのひとつにする時にさ、」
紫「作曲家さんとか、作詞さんとかの話をいっぱい聞くんよね」
紫「自分はこういう想いでこの作品を書いてる…とか、こういう想いを伝えたい…とか」
紫「こんなものを世の中に出したいんやって、一生懸命語ってくれるんよ」
紫「中には何もないただの音が重なってるものを出したい的なことを言ってくる人もおるけど…」
紫「でも、胸の奥にはすっごい熱をもっとって、」
紫「そういう…ひとつの作品を作るために関わる人みんなの想いとか、夢を聞くことができて」
紫「その夢を、一緒に形にできるところが僕は好きで…..」
彼女のために綺麗事を並べるつもりだった
でも、ミオに説明している内容の全てが嘘偽りなく自分が仕事に対して感じていた魅力で…
紫「ぁごめん…一応rapとかも作詞してる奴があんまり話にまとまりなくて…」
桜「ぃえ、とても、素敵だと思います、!」
僕の話を聞いたミオがポツリと呟いた
桜「私もみつけられるのかな」
桜「自分のやりたい事、、なりたいもの…」
彼女の顔は明るく、希望に満ち溢れた目をしていた
桃『ぅー…ん、どうしようかなぁ、』
桃『…よしっ!決めた!Bランチセットで!』
紫『………』
彼女は翌日も僕のバイト先に顔をだしていた
紫『食い逃げ犯がなんでまたここに…..』
桃『食い逃げ犯じゃなくて、ないこね』
桃『ちゃんと名前で呼んでよね』(拗
ないこ…といった彼女はムスッとした表情のままパンケーキを口へ運ぶ
そしてそんな彼女の様子を微笑ましく見守る店長
紫『……』
なんなんやこの状況は……
僕は店長にそっと耳打ちをする
紫『なんで今日もあの子がいるんすか?』
店長『ん、?あぁ、』
店長『実はあの後、彼女のご家族と連絡が取れてね、もちろん、その時にお金は払ってもらったんだけど』
桃『ほら!食い逃げ犯じゃなかったじゃん』
桃『決めつけはよくないよ?』(微笑み
紫『結果的にはそうかもしれへんけど…』
紫『ていうかなんでそんな偉そうやねん』
店長の声が大きすぎて普通に彼女に話聞かれとるし……
店長『それでね、聞いてよ秋月(紫)くん!』
店長『彼女、うちのカフェのメニューが絶品で、毎日でも働きたいくらいだから、是非ここで働きたいって言うんだよ』(微笑み
店長『僕、それが嬉しくってさぁ』
桃『秋月…くん、?』
ないこが不思議そうに顔を傾げる
紫『ぁ~…僕、秋月初兎、初兎って漢字ははつうさぎって書いて初兎やで』
桃『…ふーん』
紫『まぁ…好きに呼んでくれてえぇよ』
桃『はつうさぎって書いて初兎…って、ちょっと変だね』
紫『そ、そうなんかな、?』
店長『まあ、そういうことだから!』
紫『…っ、、』
店長が僕の肩をポンと叩く
店長『彼女、今日から働くことになったから、色々教えてあげてよ?』(微笑み
紫『なんで僕が…』
店長『だって、秋月くんが一番ないこちゃんと歳が近いからさ〜』
紫『ぇっ、?』
紫『彼女、高校生ですよね?僕もう22っすよ?』
店長『、、?ぃや?彼女は20だよ』
紫『ぇっ』
この子、僕と2つしか違わないんか…
紫『言動なあまりにも幼いもんやから…てっきり高校生かと…..』
桃『ぅわ~!凄い失礼な人がいるぅ〜』
桃『店長!この人クビにしましょう!』
ないこが再びムスッとした表情でとんでもないことを口に出す
桃『……あはっwまぁ、そういうことだからさ?』
桃『これからよろしくね!初兎”ちゃん”』
紫『は?なんで”ちゃん”付けやねん僕男やで?』
桃『好きに呼んでいいよって言ってたから…..』
紫『ぃや、、え、?』
桃『ぁ!じゃあ私のことも好きに呼んでくれていいよ!』
紫『………』
いや、そういう問題じゃないんやけど、、まぁ、
“桃桜 ないこ”
やったっけ?
とりあえずここは適当に…
紫『じゃあ僕は”ないちゃん”って呼ばせてもらうわ』
桃『あっははwうん!いいよ!』
あぁ、またや
ミオと出会ってからないちゃんとの日々を思い返すことが多くなった気がする
つい先程まで、僕は彼女に就活のアドバイスをしていた
僕がミオに会うのはこれで7度目や
彼女も僕を頼りにしとるんか、この数日で僕らの距離はぐっと近づいた気がする
これは…えぇことなんやろうか、?
もし、ミオが本当にないちゃんに似ているだけの彼女と全くなんら関わりのない女の子やったら?
僕は、ミオをないちゃんの代わりにしようとしとるんやないんか?
紫『………はぁ、』
駄目だ、僕は今少し疲れとるんかもしれへん
今日は早めに寝よう…
僕はそのままカフェを後にした
部屋に入ってからのないちゃんは終始落ち着きのない様子でリビングでぺたりと座り込んだままキョロキョロと辺りを見回している
ないちゃんでもさすがに異性の部屋は緊張するんかな…..
桃『……ない』
紫『、?何がや?』
桃『エッチな本が…どこにも見当たらない、!』
紫『……』
ようやく口を開いた思たらこれや
どうやらないちゃんはどこまでもないちゃんのようだった
紫『持ってへんよ、?』
今は電子化が進んどるしな
とはさすがに言わんとくか…..
桃『一冊も!?』
桃『にわかには信じ難い…..』(ジトー
紫『何に期待して来てんねんw』
桃『えへへw』
彼女を部屋に呼ぶのは初めてだった
期待と緊張からか、何を話したのかははっきりと思い出せないけれど…
桃『しょーちゃんと知り合ってからもう1年になるのかなぁ~?』
紫『ぁー、確かにそうやな』
今考えてみれば、この頃から彼女は僕の知らないところで悩んでいたのかもしれない
桃『しょーちゃんは変わったよねぇ~!』
紫『ぇ、そうなん?』
桃『そうだよ!』(ムッ
当時の僕は仕事を初めてからまだ数ヶ月足らずで、
桃『あんまり遊んでくれなくなった…..』
ないちゃんとの時間を確保することが難しくなっていた
そんな彼女はというと、相変わらずカフェでバイトを続けていた
紫『それは…ごめんな、』
桃『ぁ、違うんだよ?』
桃『怒ってないないない』
紫『…………?』
「ない」がひとつ多い……?
桃『しょーちゃんが音楽のお仕事を楽しそうにお話してるのを見ると自分も嬉しくなるからさ、いい意味で、変わったなぁ~…って!』
桃『ずっとやりたい仕事だって、しょーちゃん言ってたもんねっ!』(微笑み
紫『……っ、!』
始めは覚えることだらけ、怒られることかって少なくはなくて大変やった
紫『ないちゃんは変わらんよなw』
桃『……そう?』
紫『そうやで~?』
紫『何をするにも子供みたいに目キラキラさせるし、4、5回見た映画も初めて見るみたいなリアクションやしw』
桃『いやぁ~それほどでもw/』
桃『………んん?ばかにされてる…!?』
ないちゃんは当たり前のことを当たり前やとは思わずに毎日を全力で楽しめるような女の子やった
そんなないちゃんの前向きさが僕の考えを変えてくれたんや
大変なことがあっても、刺激のある充実した日々を過ごしていると思えた
紫『ないちゃんはさ、これから先も今のバイト続けるつもりなん?』
桃『うーん…..どうだろ』
桃『今、アパートの家賃家族にほとんど払ってもらっててさ~…?』
桃『ほら、うちのバイトって安月給だから足りなくて…』
紫『こら』
桃『ぁ、えへへw』
桃『あんまり家族に迷惑はかけられないからなぁ…..』
桃『ちゃんも就職して、自立しないとだね…!』
紫『そうなんや…..』
紫『あの…さ、もし、もしやで、?ないちゃんが良かったらなんやけど…..』
桃『……?』
紫『僕ら、まだ付き合って1年やし就職して間もないから、早いって思うかもしれへんねんけど…』
桃『ぅん…?』
紫『……っ、』
就職して、お金を稼ぐようになったら、彼女に伝えようと思っていた
紫『ここで…..一緒に暮らさへん、?』
桃『…………』
彼女は、自分の過去や家族のことをやたらと話したがらなかった
やから僕もできるだけ触れんようにしとった
でも、いつかは話してくれると信じてる、これから先、共に過ごしていくうちに、少しずつでも、彼女の抱えるものを一緒に背負っていきたい……そう、思っとる
桃『大丈夫…..なのかな?』
紫『……ぇ?』
ないちゃんは不安そうな表情を浮かべていた
桃『しょーちゃんが思ってるような子じゃないかもしれないよ?』
紫『それは…..つまり、、』
紫『実は料理出来たり、礼儀正しかったりするってこと、?』
桃『……しょーちゃんひどい!!』
桃『私のこと料理下手で礼儀知らずだと思われてるってことじゃん!』
桃『……しょーちゃんに対してさ、?嘘だってついてるかもしれないし、』
桃『すっごいずるい事、悪いこと沢山してるかもしれないよ?』
紫『……食い逃げとか?』
桃『……茶化すの禁止!』
紫『ごめんごめんw』
紫『ぅーん…でも、僕はそれでもえぇかな』
理由を聞かれると困ってしまうけど、悪いとこもずるいとこもそれも含めてないちゃんやと言うんなら
僕はそれでもえぇと思える
桃『…そっか、!』
桃『つまりしょーちゃんはそこまで私と同棲したい訳だ?w』
桃『もぉ~wしょ~がないなぁ、全くw/』
ないちゃんの照れ笑いが見れただけでも僕は勇気を出して言ってよかったと思えた
桃『…それじゃぁ!同棲記念日ということで!』
桃『……一緒にお風呂……入ろっか、?』
紫『な”ッ…、?///』
紫『ぁいや”ッ…は、はぁ、”!?///』
桃『あははっwやっと勝てたぁ~w』
思わぬ提案に動揺する僕をみてないちゃんが子供のようにいたずらっぽく笑った
紫『ッ…///な、なんの勝負やねん、、』
紫『全く…..』
桃『えへ〜w…ぁ、そうだしょーちゃん!これあげる!』
そう彼女に言われ、少し小さな紙袋を渡される
紫『…、?花?』
桃『そう!頑張って集めたんだよ!』
紫『これ…コスモス?』
桃『ぁ、!分かっちゃう〜?w』
紫『まぁ、…ていうか、色がえらいまとまりないけどなんでこの色にしたん?…』
その花束は桃色に白色、赤色に紫色、黄色、黒色…といった、とにかく色々な色の花があった
桃『…むっ、ちゃんと意味があるの!』
意味、?花言葉のことだろうか、それとも…
桃『だって、カラフルな方がテンション上がるじゃん?』
紫『…w』
やっぱり、そんな理由やとは思っとった
でもそれが、また彼女らしい
紫『にしても、ようこんな集めたな…』
桃『っ!そうなの!すごいでしょ!?頑張ったんだぁ〜』
桃『私コスモス好きなんだ!しょーちゃんに会ってから…好きになったの』
紫『へぇー…そうなんや、なんか意外やなw』
桃『ぇ、それちょっと失礼じゃない!?』
紫『あははっw…冗談やでw、ありがとうな、大切にするわ』
桃『…っ!うん!』
紫「んん…..」
紫「ぁ、、れ?ないちゃん、?」
紫「………」
紫「夢…..か、」
部屋を見渡すとどうやら明かりも消さずにベッドで眠ってしまっていたらしい
手探りでスマホを探し出し、時刻を確認する
紫「24時…もうこんな時間なんか、、」
)~…ーー♪
紫「…?」
今、インターホンが鳴ったような…
)ピーンポーン
紫「っ…!」
こんな時間に来客、?
夢と現実がごっちゃになっとるんかな…
やっぱ僕疲れとるんか…今度こそ幻聴が…
紫「……ん~…」
僕は寝ぼけ眼のまま、僕はドアを開ける
紫「………えっ、?」
するとそこには、予期せぬ来客の姿があった
桜「………」
紫「…ぇ、、っと~、」
紫「なんか…飲む、?」
桜「いぇ、お構いなく…」
ミオが僕の部屋で座っている
彼女は、不安そうな表情で僕を見つめたままちょこんと正座をしている
その仕草が先程までの夢の光景と内容が対比され、ないちゃんとの違いがより鮮明になった
紫「足…崩しても大丈夫やで、?」
桜「お気遣いありがとうございます」
桜「でも、この姿勢の方が楽なので…」
紫「そ……っか…」
桜「………あの、、」
桜「やっぱり私…帰った方が、、」
紫「ぁいや、別に邪魔とかじゃないからな、!それに…こんな時間に1人にする訳にはいかんし…w」
紫「それと、、泊まる場所がないんやろ?」
桜「ぅッ…それは、、そうなんですけど…..」
ミオの話によると、今日は大手企業の2次面接があったそうだ
そこで面接官に気に入られ23時まで呑み付き合わされたようで、慌てて予約しとったビジネスホテルに向かうも何かの手違いで部屋が上手く取れていなかったそう…、
おまけに終電を逃し、途方にくれて歩いていたところ、偶然にもこのアパートにたどり着いたよう
紫「…….?」
でもなんでミオが僕の住むアパートの場所を知っとるんや…?
それに部屋番号まで……誰かに聞いたんやろうか?
紫「………」
もしやすると、やっぱり彼女は…
桜「ごめんなさい…やっぱり、帰ります」
難しそうな表情をする僕を見たミオがその場立ち上がろうとする
紫「ぁ~…!ほんまにちゃうねん!困っては…ほんまに…ないから……な?」
紫「ちょっと考え事してただけ、!」
桜「……そう、、ですか、?」
紫「そうそう!だからとにかく、!もう少しリラックスしてくれてえぇから!」
桜「……ありがとうございます、」(微笑み
桜「でも…その、、なかなか難しいかもしれないです」
桜「男性のお部屋にお邪魔するのは、、これが初めてなので…」
紫「………」(ハッ
なんということや…僕のリラックスしていた気持ちが吹き飛んでいってしまった……
紫「っ…」(緊張
桜「…こ、これ、コスモスですか?」
ミオがこの気まずい雰囲気を変えようと話題を振ってくれた
紫「ぇっ、?ぁ、うん、そうやで」
ないちゃんがくれたコスモスの花束はもう枯れてしまったのだが、毎年新しく買っているため、今も部屋にかざってある
桜「…コスモス、お好きなんですか?」
紫「ぁーー…好きというかは…好きになったというか」
桜「…素敵ですね、!実は私も、花でいうとコスモスが1番好きなんです」(微笑み
紫「えっ…」
先程まで見ていた夢と、似ている
桜「コスモスを漢字でなんて書くか、知ってます?」
紫「ぇ、ううん、知らん」
桜「コスモスって、秋って書いて、桜って書くらしいです!」
桜「秋に咲いてるのと、桜のような花びらということから、秋桜(コスモス)…なんだそうですよ、!」
桜「秋なのに桜…って、なんだか面白くないですか?それでちょっと興味が湧いちゃって」
紫「…確かに、言われて見ればそうやねw」
好きやと言う理由は…ないちゃんとちょっと違う、…ていうか、さすがに意識し過ぎやな、、
桜「ぁ…そういえば、、」
桜「初兎さんは、仕事でこちらにこられたんですか?」
紫「ぁ、ぇ、えっとなぁ~…」
紫「子供の頃からずっとこの辺りに住んどって…」
紫「今は一人暮らしをしとるけど…実家がめっちゃ近くからさ、たまに両親が顔を出しに来たりするんよね」
ミオがうんうんと相槌をうつ
紫「ミオさんは、?」
桜「私も県内ですよ、!」
桜「ここからだと…電車で30分…くらいかな、?」
紫「ぅえ~…そうなんや、そういえばミオさんって兄弟はおるんやっけ?」
桜「ぁ~はい!いますよ、妹が1人!」
桜「今は就活中で面倒を見てあげられないので今は親戚家に預けています」
桜「まぁ預けてると言っても…もう19歳なんですけどね~、、!w」
紫「そっか妹…..」
僕の呟きを聞いた彼女が言葉を付け足す
桜「……私の両親、亡くなっちゃってるんです」
紫「ぇ…..」
桜「父は私が幼い頃に…母は…..2年ほど前に病気で、」
紫「そう…..やったんや、、」
ミオは自分の胸の内を話し始めた
僕はそんな彼女の話を黙って聞くことにした
それを彼女は、、望んでいる気がした
桜「母は…とても教育熱心な人でした」
桜「父が亡くなってお金もないはずなのに、私に色々な習い事をさせてくれて…」
桜「それで私も、母の期待に応えようと必死で…」
桜「私は母が作ったものを食べて」
桜「母が進めた学校へと通って」
桜「……母に認められた人とだけ、関わりを持ちました」
桜「母は私に対しては厳しかったのですが、対象的に、妹に対しては放任的で…..」
桜「妹からすればそれがとても気楽だったみたいで、妹は私に全てを背負わせてしまった事を気にしているようなんですけど…」
桜「正直私は…..当時辛いな、とか、嫌だなって感情は全くありませんでした…」
桜「それが私にとっての当たり前でしたし…..」
桜「私の全ては、母に形成されてて…でも、その母が亡くなってしまって…」
桜「ようやく…気づいたんです」
桜「自分に何も残っていないことに…」
紫「っ…..」
桜「………ぁっ、、ご、ごめんなさい…こんな暗い話、、」
落ち込む彼女の姿を見て、僕は仕事が辛くて逃げ出したくなった時に支えてくれる人達の顔を思い浮かべた
紫「…ミオさんは、、」
紫「ミオさんはお母さんのことが大好きやったんやね」
桜「……えっ、?」
ミオが驚いた顔で僕を見つめる
紫「好きやなかったら、こんな頑張れへんよ」
紫「キミは好きな事を一生懸命やってきたんやで?だからそれはちゃんと、残ってると思う」
桜「……そっか、、」
桜「そう…かもしれないです、!」
過ぎた時間は決して戻ってはこないから、今までのことが全て無駄だったなんて、彼女に思って欲しくない
自分がないちゃんに出会い、変わったように、
自分の言葉が、ミオの考え方を変えるきっかけにかれればと思った
紫「やからさ、新しく好きなことが見つかればきっとまた、頑張れるんと思うんよ」
僕の言葉を聞いた彼女の表情が少しだけ、和らいだ気がした
桜「…不思議です」
桜「初兎さんにそう言われると、頑張れちゃう気がします」
紫「…っ!そっか!ぁ、後な、?」
紫「素直に…嬉しかったかな」
桜「…?嬉しい…ですか?」
紫「うん、ミオさんのことが知れて」
紫「相手のことを知る時、その人の人生も自分一部になったみたいで…一緒に生きてるって感じがする!…っていうか、、w」
紫「彼女は…..ないちゃんは、自分のことあんまり話してくれへんかったから…」
桜「…………ふぅーん、、私のこと部屋に入れておいて、別の女の子との昔話をするなんて……」
桜「最低ですね」(拗
紫「ぅっ…..」
た、確かに……!!
言われて見れば結構失礼かもしれない……
紫「ぇっと…..そのぉ、、」(焦
桜「っ…あっははw冗談ですよw」
紫「ぇ、、ぁ…」
桜「ふふっw…..ありがとうございます」
桜「お話…聞いてくれて」(笑顔
ミオと出会い、就活のアドバイスするようになってから、2ヶ月が過ぎようとしていた
そんな中今日も僕は彼女に呼び出され、駅近くの通りを1人、いつものように歩いていた
ミオは先日、小さな会社の事務職の内定をもらったらしい
けれど、それが本当に自分のやりたいことなのか、このまま就職してもいいものなのか、
そんな思いからまだ決めかねているようだ
僕は彼女の力になれている事が素直に嬉しかった
紫「………w」(微笑み
きっとこの気持ちなんやろな…
ミオと一緒にいると、働き始めたころの自分に戻れたような気がして、それが僕にとって、少し心地よかった
桜「初兎さん、!こっちですよ」(微笑み
紫「ぁ、」
ミオが僕に軽く手を振りながら近づいてくる
その姿は、はじめて会った時とはまるで別人で、
紫「………」
随分と信用されたんやな…
そう思った
桜「ふふっ、初兎さん」
紫「うん、行こか」
僕らは似たり並んで歩き始める
紫「就活は順調なん、?」
桜「ぁ、はい!初兎さんのおかげで!」
紫「…wだから大袈裟やってw僕はなんもしてないし」
桜「そんなことないです、!」
桜「前にもお話しましたけどほんとに私就職のことを相談出来る相手が周りにいなくて…」
桜「だから、、ほんとに助かってるんですよ、?」(微笑み
紫「…そっかぁ…それは嬉しいなぁ…w」(微笑み
桜「はい!」
桜「………」
紫「ぁ…….」
彼女が突然呼び出した理由を、僕はなかなか聞き出せずにいた
紫「………」
話を聞いてしまったら、何かが大きく変わってしまう気がしたから
それが自分の知りたかったことかもしれへんのに……
それなのに不思議と自ら話を切り出そうという気にはなれなかった
人混みの少ない路地に入ったところで、ミオが小さく身震いをした
桜「少し、寒くなってきましたね…..」
紫「そうやね…..」
彼女は手に持っていた綺麗な桜のような桃色のコートを羽織ると、僕の方を向く
そしてそのまま_____
桜「っ…..」(涙目
紫「へ…ッ…、」
______僕の胸へと飛び込んできた
紫「ぇ…ぁ、、」
人肌の温かさが全身を駆け巡る
桜「………っ」
彼女は黙ったまま僕の胸に顔を埋めていた
紫「………」
どのくらいそうしていたのだろう
しばらくの沈黙の後に、ミオがゆっくりと口を開いた
桜「私っ…初兎さんに伝えなきゃいけないことがあるんですっ…」
桜「私ッ…っ、」(涙目
桜「大学…2年生の冬から1年間、休学していたんです…っ、」(涙目
紫「それ…..って、、」
桜「はぃ…母が亡くなってからすぐに休学届けを出していたみたいなんですけど…私っ、身に覚えがなくて…ッ、」(涙目
紫「覚えがない…..って、どういうこと?」
桜「母が…母が亡くなってから1年間の、自分の行動が思い出せないんです…、っ」(涙目
桜「あの1年間、何を考えて、どこで過ごしていたのか、私には、当時の記憶が一切ないんです…」(涙目
紫「つまり…記憶喪失、、ってこと、?」
桜「はいっ…原因は、母を亡くしたことへのショックから…だと思います」(涙目
紫「……っ、」
記憶にない、空白の1年、、
その時間が意味すること…それは、、
桜「母は私の全てでした」(涙目
桜「その母がいなくなってしまって、私の心は壊れてしまったんだと思います…ッ、」(涙目
桜「食事も、、全然喉を通らなくなってしまって…私の意識は、そこで完全に途絶えてしまいました…」(涙目
桜「もう、このままじゃだめだって、そんな時に…」
桜「”誰か”が、私に声をかけてくれた気がするんです」(涙目
桜「 大丈夫だよ …って、」(涙目
桜「そのときの”彼女”が、だめになった私の代わりに一生懸命生きようとしてくれた」(涙目
桜「塞ぎこんだ私の…もう1人の人格、、それが、ないこさんなんだと…思いますっ」(涙目
紫「っ、、そっ…か、だから、、」
ミオは僕の住むアパートを知っていたんや…
ないちゃんのこと、ないことして過ごしていた頃の記憶がほんの微かに残っていたのだろう
そうなると、今までミオに感じていた数々のことも納得出来る
桜「黙ってて…ごめんなさいっ…」(涙目
桜「怖かったんですッ…わたし、」(涙目
桜「私が知らない人が、私のことを知っていることがッ…」(涙目
桜「その人がいい人なのか、どんな関わりを持っていたのか、私にはッ…分からないからっ、、」(涙目
事故や強いショックで、記憶を失ってしまう、
その結果、全くの別人になってしまった
ドラマや漫画で聞いたことはあったけれど、まさか彼女がそうやなんて……
桜「だから…そのッ…」(涙目
ミオは僕の胸に顔を埋めたまま口籠る
彼女が何を言おうとしているのか、僕には分かっていた
ないちゃんは、ミオが精神的にショックを受けた事で生まれた別人格やった
1年という、ミオの心が安定するまでの間だけ、身体を使うことを許された
そんなの、いわばニセモノの感情にすぎない
ミオが元気でいるということは、ないちゃんにはもう二度と会えない、ということで
紫「……っ、、」
もしかしたら、彼女は、、ないちゃんは、最初から全部分かっとんかもしれへん
やから、やたらと写真を撮りたがらなかったのだろうか
“ないこ”という存在が、この世界に残らないように
ミオが戻るとき、足枷にならないように
桜「……初兎、、さんッ…?」(涙目
ミオが不安そうな表情こちらを見つめていることに気づき、僕はハッとする
紫「ぁ…ごめんな」
桜「……っ、」(涙目
ミオは小さく深呼吸をすると、再びその小さな口を開いた
桜「私ッ…1人でいると、不安でどうしようもなくなる時があるんです…」(涙目
桜「でもっ、初兎さんといると心が落ち着いて、、」(涙目
桜「とても…安心できてッ…」(涙目
桜「初兎さんが、、初兎さんが傍にいてくれたら、私、自分のやりたいことが見つけられる気がするんですっ」(涙目
桜「だからっ!…ッ…ぃや、、そぅじゃ…なくて、、っ、」(涙目
桜「私は…初兎さんの…ことがッ…」(涙目
紫「待って」
無意識にミオの言葉を遮ったことに、僕は自分でも驚いてしまう
紫「キミが、、僕と一緒におって安心するんは……もしかしたら、、その、、」
ないちゃんとして、僕と過ごした日々が、記憶のそこに残っているからではないのだろうか、
桜「わたしだってッ…..」
桜「わたしだって、、そんなにばかじゃないです、、」(涙目
桜「そのくらい、、言われなくても分かってるんです」(涙目
ミオは真っ直ぐに僕を見つめる
紫「っ…….」
その瞳が、ゆらゆらと揺れている
桜「私がこの街に来た事は偶然じゃない、」(涙目
桜「ないこさんの、あなたに会いたいって気持ちが、私たちを巡り合わせたんだと思います…」(涙目
桜「私っ、、出会いって、人それぞれだと思うんです…学校が同じだとか、飲み会だとか」(涙目
桜「きっかけも、、ですよ?たまたま2人っきりになった時に、優しさに気づいたから、とか、不安な時に…..支えて、くれたから、とかもっ、」(涙目
桜「私と初兎さんの出会いが、好きになったきっかけが、ないこさんがいたから、というのは、そんなにいけないことなんでしょうか?」(涙目
紫「…っ、、」
桜「…全部、、分かってます、分かってるんですけどっ、、それでも私は今ここにいて、」(涙目
桜「それはないこさんでも他の誰でもない、私が、、自分の意思で決めた事だからッ、!」(涙目
桜「だから、、わたしはっ、!」(涙目
桜「わた、、しは、あなたのことが、…好き、なんです」(涙目
桜「わたしと、、付き合って…くだ、さいッ」(涙目
紫「ぁ、、っ…」
僕の服を掴む彼女の力がいっそう強くなる
緊張からか、その華奢な体は小さく震えていた
紫「…………」
僕は______
ーーーーー(NORMALENDではここから続く)
______僕は彼女を抱きしめたくなる衝動を何とか抑えると、口を開いた
紫「全部…全部話してくれてありがとうな」
紫「……それと、、ごめん」
桜「……っ、、」
ミオは俯いたまま、僕の次の言葉を待っていた
紫「やっぱり僕は、ないちゃんのことが好き」
桜「……そんなにっ、そんなに違いますか?わたしとないこさんは、っ、」(涙目
紫「……うん、キミと話していくうちに記憶の中の彼女の存在が、ないちゃんとの思い出が、過去になってしまいそうで、」
紫「僕は最初、それがほんまに怖かったんよ、、でも…そんなことは全然なかった」
紫「キミは家族を大事にしとって、ストーカーまがいの僕にさえ、優しくて自分のなりたいものを探すんに一生懸命で…」
紫「会って間もない…けど、ちゃんと分かるんよ、?」
紫「ミオさんは、そういう人なんやろうなって、」
紫「…キミの身体は、間違いなくキミのもので…やから、、」
紫「キミが本物なんやと思う…」
紫「僕は、キミのニセモノを好きになったんやね、、」
子供の頃は、雪が好きだったのに…いつの間にか冬がくるのが億劫になっていた
出版の仕事は、、憧れで自分のやりたいことだった
でも、嫌な部分が見えるようになってから、仕事は仕事でしかなくなってしまった
変わらないものなんてないと…そう思っていた
でも、ないちゃんへの思いは変わらんかった
やから僕は、これからもきっと…
ずっと彼女のことが、好きなんやと、、そう思える……
桜「なんですか…それ、、w」(ポロポロ
紫「っ…、!」
ミオは、僕の胸に顔を埋めたまま、泣きながらクスリと笑った
桜「自分の彼女のことをニセモノ呼ばわりするし、自分から私のことナンパしてきたくせに振るし、」(ポロポロ
桜「やっぱり…最低ですね、、w」(ポロポロ
桜「ほんと、、…最低だw」(ポロポロ
紫「………っ、」
桜「わたし、、あなたのことが嫌いになりました…」(ポロポロ
桜「そぅ、、嫌いになったんです…..」(ボソッ(ポロポロ
桜「だから、、あなたとはもう二度と会いません、!」(ポロポロ
紫「っ、!…..」
桜「さようなら、!」(ポロポロ
彼女は僕のそばを離れると、くるりと背を向け歩き出す
紫「ぁっ…..」
僕は彼女の姿が見えなくなるまでその場で立ちすくんでいた
これ以上、一緒にいることはお互いにとって良くないから、やから自分から、別れを切り出してくれたんよな
…そういう不器用な優しさが彼女らしく、やっぱり、彼女はミオという1人の女の子なんだと、そんな当たり前のことに改めて気付かされた
紫「……ごめんな、、ありがとうッ…」
きっかけなんてものは特になかった
バイト先から帰宅する途中、ショーウィンドウに映る自分の姿をぼんやりと眺めながら、
今日が、自分が自分でいられる最期の日であることを、本能的に、悟ってしまった…
ショックではなかった、だって、いつかこの日が訪れることは分かっていたから
分かっていたはずなのに…それでも、残りの時間を考えると焦る気持ちを抑えることが出来なかった
最期に、彼に会いたいと思った
こんなことなら、スマホを持っていればよかった
小さな後悔を胸に、ひたすら走る
アパート近くの公園にたどり着く頃には息切れもひどく、冬だと言うのに、額からは汗が溢れてくる
見てくれも気にせず、電話ボックスへと入ると、震える手で彼のスマホの番号を押す
紫『『…もしもーし?』』
焦りと不信感の混じったような彼の声
桃『えっ…と、、あのッ…』
紫『『ないちゃん、?』』
桃『ぁ…っ、、』(涙目
彼の声を聞いて、安心してしまったのか、それ以上、言葉が出てこない
紫『『珍しいやん、電話かけてくるなんて』』
紫『『どしたん?』』
紫『『ていうか、ごめん、今忙しいからさ…』』
出張で地方に出ている彼は仕事が忙しいせいか、少しだけ声を荒らげて喋っている
それでも、声が聞けただけで嬉しかった
だから、最期くらい…最期くらいはっ、、
ワガママを言っても、許されるのだろうか
桃『今…から、今から、!会えない…かな、?』(涙目
紫『『ぇっ、?今から?』』
彼の驚いた声が聞こえる
紫『『ぁえ〜…スゥー、急に言われてもなぁ…』』
紫『『ぁーほら、今仕事で出張に来とるやろ?』』
紫『『今…から帰るにしても、2、3時間はかかりそうやし…』』
紫『『明日やったら…あかんかな?』』
桃『明日…』(涙目
今日という日は、自分にとっての最期の日でも、
紫『『ぁ、バイトやったっけ?』』
桃『”…ううん、明日で、大丈夫”』(ポロポロ
彼にとってはなんてことのない1日で、
それが少し…すこしだけ、寂しかった
桃『”急に、ごめんね?、お仕事…頑張って”』(ポロポロ
彼の返答を聴くよりも先に通話を切る
家に帰ったら、荷物を整理して、この街を出ていこう
彼との思い出もすべて、処分…してしまおう
明日の自分が、彼の存在に気づかないように
“明日の自分に、彼が恋しないをように”
桃『”我ながら…酷いやつだなぁッ…“』(ポロポロ
彼に本当のことを言わなくてよかった
言葉にしたら、もっと泣いてしまっていたから
桃『うぅ”ッ…しょーちゃんッ…、しょーちゃんッ、”、好きッ…大好き、、』(ポロポロ
桃『”だいすきだよ”』(ポロポロ
もう二度と会うことの出来ない
大好きな人との日々を思い返しながら
愛する彼の愛称を何度も何度も叫び、想いが伝わっていることを信じて、
いつまでも、受話器を握りしめていた______。
TRUEEND「キミのニセモノに恋をする」