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夏の約束

7 - 気づいてくれた

♥

178

2025年05月30日

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文化祭まで、あと一か月。

実行委員の仕事が本格的に動き出し、各クラスでも出し物の準備が活発になってきた。


仁人のクラス──1年B組は『不思議の国のアリスカフェ』と題し、アリスをモチーフにしたメイドカフェ風の出し物をすることになっていた。

内装は手作り、衣装もクラスの手配で用意する。目玉はやはり、「アリス」役の登場だった。


HR後、クラスで話し合いが行われた。


「で、結局アリス誰にするー?」

「吉田くんじゃないの?」

「顔立ち整ってるし、絶対似合うって」


男子校だからこそ、逆に本気の“かわいい”を求められるその役どころ。仁人は戸惑いながらも、反対するタイミングを失っていた。


そんな仁人を、太智がちらりと見て、ふっと笑った。


「なー、仁人。うち、メイド衣装のリボンとか付けるの手伝ったるわ。そんなん得意やし」


「……はは、ありがとう。もう逃げられないっぽいね」


「しゃーないって。仁人、ほんまにかわええんやから」


そんな無邪気な口調だが、仁人の心は、言葉以上に揺れていた。

──その週末。寮の一室にて。



太智と仁人は、試着した衣装を持って帰ってきていた。

文化祭実行委員の仕事の一環として、サイズ確認と写真撮影が必要だった。


「仁人、着替えるん早っ」


「そっちが遅いだけじゃ……って、なに?」


太智が、固まっていた。


仁人の着た“アリス”衣装──

淡いブルーのワンピースに白いエプロン、ふわりと広がるスカート、リボンのカチューシャ。


その姿に、太智の中で、何かが一瞬フラッシュバックした。


──白いワンピース

──麦わら帽子

──笑って「だいちゃんだいすき!」と駆け寄ってきた、小さな“じんちゃん”


(……ウソやろ)


心臓が、どくんと跳ねた。


「だ、だいじょうぶ?……似合ってる?」


仁人の声が、どこか不安げに聞こえた。


「……あ、ああ。うん。めっちゃ似合ってる。びっくりするくらい、な」


無理に笑った太智だったが、その目はどこか焦点を失っていた。


仁人は、太智の様子に気づいた。


「……太智くん?」


「……なあ、仁人」


「うん?」


「小さいころ……“だいちゃん”って呼んでくれてたよな?」


仁人の心臓が止まりそうになった。



──ついに、その言葉が出た。


太智の目は、まっすぐ仁人を見ていた。

仁人は、唇を震わせながら、小さく頷く。


「……うん。あの夏、太智くんと毎日遊んでた。……ずっと、ちゃんと気づいてくれるの待ってた」


太智は、一瞬で顔を緩ませた。

そして、小さく、でも確かに笑った。


「やっぱり……じんちゃんやったんやなぁ……」


その言葉に、仁人の瞳が潤む。

太智はゆっくりと、仁人の頭に手を置いた。


「そら、気づかんはずやわ。うち、ずっと“女の子”やと思ってたんやもん」


「……ごめん、隠してたわけじゃないけど……」


「ええって。むしろ、うちが気づかへんかったんが間抜けやった」


ふたりの間に、幼い頃の記憶が静かに交差した。



あの夏の約束──忘れていたはずの未来が、今、目の前で繋がりはじめていた。



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