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「____…」

ゆっくりと瞼を開ける。

其処は薄暗い空間だった。私には禍いのかたまりが十個あって、此処はその一つに中った。

私の躰は闇に包まれ、赤く禍々しく光る“鎖”に手足を繋がれていた。

手に力を入れグッと引っ張る。ガシャンッと鎖の擦れる音が響いた。

外れない、か……。

『あはっ』年若い少年の声が響く。

“オレ”が奇妙な笑顔を浮かべて私の前に立っていた。その笑顔からは厭な薄気味悪いものを感じる。

『如何?自分の躰なのに自由に動けない感覚は……』

嘲笑しながら“オレ”は云う。

「別に、特に何も感じないよ」

私は“オレ”を睨んだ。鋭い光を宿らせて。

「それより君は疾く元の場所に戻り給え。誰が勝手に動いて佳いと云った?」

深く沈むような低い声で私は云う。

“オレ”が黙り込む。そして────『あっははは!』

腹を抱えて“オレ”が笑い出した。

『今の君がそれを云う?確実に立場が逆転してるじゃん』

そう云った後、パチンッと綺麗な音が響く。“オレ”が指を鳴らしたのだ。

すると、眼の前に霧が現れる。ソレは人の形に変化した。

「っ!」

ソレは、今誕生したかのように瞼を開いた。

「太宰」静かにソレが────織田作が私の名を呼ぶ。

「織田作……?」

否、違う。コレは偽物だ。

織田作ではない。

息を吸う。オダサクは云った。

「何故お前が生きている?」

織田作の声で云われたその声が、酷く耳奥に響いた。

─────パキッ

道化の仮面にヒビが入る音がする。

「何故俺が死んで、お前はのうのうと生きているんだ」

止めろ。

織田作は“そんな事”云わない。

だから、それだけは云うな。

それだけは────





















「お前が死ねば良かったんだ」















─────ドクンッ

何か大きな音を立てて、一枚、道化の仮面が割れて剥がれた。

そしてソレと同時に、糸が切れるような音が躰の中で響いた。

「…………れ」

『ん?如何した───ガシャンッ!!

鎖の音で、“オレ”の言葉を遮った。

「………黙れ!!!」私は肺腑から声を絞り出す。

其の瞬間、強い光を放って鎖が霧消した。ふらつきながらも、私はゆっくりと立ち上がる。

“オレ”を睨んだ。

「黙れ。これ以上私の友人を弄ぶな」

オダサクが、霧のようにとける。

『…ふぅん。でも、鎖はオレの方にあるよ?君の方が独りで何もできないと思うんだけどなぁ』そう云って“オレ”が微かに指を動かす。

金属音が響いた。

地面から生えるように出てきた鎖が、私の腕に絡み付く。

『絶対に逃さない』

次の瞬間、斜め上から細長い足が向かってきた。咄嗟に腕を構える。

─────バキッ!

「い”っ」蹴りを受け止めた部分が傷む。

足を地面につけながら勢いを止めた。腕が蹴られた振動でビリビリと震えている。

あぁ………最悪。

「普通、此処であれを出してくかなぁ…」

靴音が響いた。

それは徐々に姿を現していく。

私は外套のポケットに手を収め、背筋を伸ばした。「やァ、チュウヤ」然し、決して私の顔に笑みは浮かんでいなかった。

眉間にシワを寄せる。冷や汗が流れた。

チュウヤは何も云わず勢い良く踏み出し、腕を振りかぶった。

腕を構えてチュウヤの拳を受け止める。

骨が軋み、私は唸った。

刹那、腹部に衝撃が伝わる。「かはっ……!」チュウヤは拳を私の腹部から少し離した。

「っ……げほっ…」私は一歩下がる。

視界が揺れ、足元がふらついた。

「は、っ……ぅ────がっ!?」チュウヤに首を掴まれる。

地面から足が離れた。

痛い。

息ができない。

苦しい。

チュウヤは静かに私の首を掴む手に力を入れる。

「ぅぐ……っ、あ………」

ギュウゥッ!

「……あ゛…ぁ、が……っ」

『ふふっ』

“オレ”が愉しそうに私達を見て嗤った。

『ほら、もう諦めたら?諦めたらあの苦痛からも羞恥心からも、全てからも逃れる事ができる』

囁くように“オレ”は云う。その言葉は凡て“正しかった”。

諦めれば…?あぁそうだ。諦めれば、佳いんだ。

そしたらもう、何も感じなくて……済む。

中也が私を“信頼してくれていないかもという恐怖”も…………。

ゆっくりと瞼を閉じていく。

『そうだよ、疲れたんでしょう?ならもう』




─────太宰っ!!!

その声と共に、この空間に天上からヒビが入った。

『なっ…!?』

「!?」

私は目を見開いた。その声は知った声だった。

苛烈に、けれども鮮明に記憶されている声。

「───中、也……?」

その言葉を発した瞬間、私の首を絞めるチュウヤの手の力が急激に弱まった。

「痛っ」ドサッと地面に尻餅をつく。

顔を上げ、チュウヤと目を合わせた。

然し顔は見えなかった。黒い影に隠されていたのである。

けれども口元は見えた。

チュウヤは何かを云った。何を云ったのかは聞こえなかったけれど、口の動きでチュウヤが何を云ったのか判った。



“い”


“け”



「____…」私は走り出した。

空間にヒビの入る音が響き続ける。

殻をやぶって外界から何かが侵入してきた。それは“手”だった。

中也の手だ。

「中也!」

手を伸ばし、中也の手を掴む。


私の意識は其処で途切れた。































***

「太宰さんっ!!」

ばちっと瞼を開ける。

視界には敦君や国木田君、探偵社の皆が映った。

「だ…太宰さん………」

敦君は私が目を覚ました事に安堵したのか、その瞳からは涙が溢れていた。

「うっ……目が覚めて、っ…佳かったです太宰さ〜んっ!」子供のような泣き声を上げる。

「ったく、心配させて……何処まで迷惑を製造し続ける心算なんだ、貴様は……」

国木田君が安堵しながら、眼鏡をかけ直す。

窓の外を見ると、空が少し明るくなっていた。時計の時刻は四時を回っている。

「み、皆…何で…………」

「乱歩さんが呼んだんだよ」奥で立っていた与謝野女医がそう云って、横に視線を移す。

与謝野女医と同時に皆も微笑みながら振り返り、私も視線を向けた。

乱歩さんは椅子に座って足をぶらぶら揺らしながら、飴をなめていた。

その反対の手には黒縁眼鏡が握られている。

「乱歩さんが私を此処へ?」

「まぁ……“そうはなる”かな」

「………」

傍の机に視線を移す。机の上には私の携帯が置いてあった。

じゃあ中也は──────

「太宰」

乱歩さんが声をかけてくる。ゆっくりと瞼を開き、緑色の瞳に鋭い光を宿らせた。

「お前が眠っている間、僕と与謝野さんでお前の部屋に行った」

ドッと汗が浮かび上がる。

え、部屋…?何故………。

汗が出るのにはきちんと理由があった。

私の部屋には頭痛薬の空になった瓶や、血のついたティッシュ、タオル。血に汚れた畳に布団のシーツ、自傷に使ったカッタァが置いてあったからだ。

何かが、壊れようとしていた。

「何で誰にも相談しないで、あんなになるまで我慢してたんだい?太宰」

与謝野女医が云った。ソっと私の左手に添えるように優しく触れる。

─────シュルッ

包帯が解かれた。

コレを見て、与謝野女医は顔をしかめた。皆も目を丸くし、驚きの声を上げる。中には恐怖する者もいた。

私の左腕には、幾つもの「切った」痕が“酷く”残されていた。

最初「切った」時に、私は確り手当をする事がなかった為、その痕はミミズ腫れになった。痛痒さを堪える事はできたが、自傷行為を止める事は出来なかった。

そのミミズ腫れの上からも、私は何度も何度も自傷を繰り返し、その所為で何とも悲惨な───酷い傷痕ができていた。

皆が驚くのも納得が行く。

「…………」顔をうつむける。

私は抵抗しなかった。抵抗しても意味が無いと思った。

結果的にコレは、私が招いたようなものなのだから。

「……部屋には頭痛薬の空になった瓶が何個か在った。全部呑んだのかい?」

「はい……」

静かに言葉を返す。

与謝野女医は少し離れ、白く清潔感のある小さな箱を持って来た。

その箱の中からピンセット、小さめのガーゼ、消毒液、新品の包帯を取り出した。

私の腕に巻いてあった血が染み込んだ包帯を取り、消毒液を滲ませたガーゼを、ピンセットで掴んで優しく傷口に当てる。与謝野女医は傷口の手当をしてくれた。

「調べたところ、あの頭痛薬は麻薬性だ。太宰、アンタ昨日頭痛薬を何錠呑んだ?」

私は少し黙り込む。「……十錠近く」肺腑から声を絞り出した。

「………………そうかい」

与謝野女医は新品の包帯を巻き終える。

「終わったよ」立ち上がりながら与謝野女医は云った。

「有難うございます………」

真新しい包帯の質感は心地良かった。キュッと掌を握る。

私はずっと俯いていた。

皆と目を合わせるのが怖かった。

「太宰」

柔らかい口調で、与謝野女医が私の名を呼んだ。

顔を上げる。

本当は上げる心算など無かった。けれど、あの医師特有の落ち着くような優しい口調によって、私は面と向かって与謝野女医と話さなければならないと思った。

「太宰、大丈夫だ」

そう云った与謝野女医は、とても優しい、そして何処か心強さを感じる凛々しい笑みを浮かべていた。

私が感じたのは信頼でも何でも無かった。

只単に疲れたのである。

もう、何もしたくないと云う事。私の無抵抗さから、全てが壊れたのだから。

私の胸に空くこの虚無感が一瞬でも埋まったのは、中也と電話していた時くらいだった。

けれど中也は此処には居ない。

此処へ私を連れてきたのは乱歩さんだ。中也じゃない。

「……………」

なら、あの“手”は何だ?

あれは確実に中也の手だった。それとも私の妄想だったのだろうか?

何方にしろ、中也は私の傍には居てくれないのだ。

─────俺の事は信頼してるか?

嗚呼、信頼してたよ。

どんなに“耳鳴り”が云ってきても、君だけは信じてた。

信じてくれていると、信頼してくれていると思っていた。

─────助けてね。

なのに。

─────おう。

なのに。

なのに。

─────乱歩さんが連れてきたよ。



中也の嘘付き。






















…………大嫌い。































【私はもう、信頼というのが判らなくなった。】




















えーっとですね、今回ので一寸言い訳を考えてまして………。

私も旧双黒が好きなのでリクエスト通り旧双黒メインにしたかったんですけど、

いや、旧双黒メインなんだよ?

でも其の前に一寸入れ違いというか、食い違いというか、思い違いというか…………。

まぁ、あの……はい。すれ違いが起きましてね。

後でどうにかまた元通りになるから、うん…………ダイジョブ……。

本当に色々すみませんっ!

ばいばーい!


────人間、失格。

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