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第9話:「ツムの本気!?いちか、バレー部に“拉致”される!?」
文化祭の午後。
校舎の裏手にある美術室で、私はスケッチブックを広げて一息ついていた。
「ふぅ……午前中だけでだいぶ体力削れたな……」
ポスターは褒められたし、ツムとの距離もちょっと縮まったし、
なんか今日だけで青春5年分くらい経験した気分。
と、そのとき——
「いっちゃん!!確保や!!!」
「は!?!?」
突然背後からむんず!!と肩をつかまれ、私は空中へ持ち上げられた。
「おまっ……ツム!?違う!?サム!?!?」
「俺や。安心せえ。宮治や」
「安心できるかあああああ!!!地に足つけさせろ!!!」
「お前が文化祭でポスター描いたって聞いてな、バレー部一同から感謝伝えたくてな」
「いや待って?“感謝”ってそんなに物理で来る???」
気づいたら肩に担がれた状態でキラキラした雰囲気の体育館横へ連れていかれていた。
「おおっ、来た来た!」
「これが噂の“美術室の魔術師”やな」
「よう来たな、大浜ちゃん!」
——あたり一面、バレー部員だらけ。
しかも、なぜか全員テンション高い。
「……え、え?ちょっと待って???私、今からバレーする流れ???」
「違う違う!ただ、ほら、文化祭でポスター貼られてたろ?
あれ見て、“ツムの彼女ってマジ芸術家なん!?”って全員ざわついたんや」
「いや彼女じゃないし!!!……いや、ちょっとそうなりつつある気もするけど!!!!!」
「自爆しとるぞいっちゃん」
「言わせんな角名くん!!!」
すると、タイミングよく、ツムが登場。
「いっちゃーーーん!!さらわれたって聞いて全力で走ってきたぁ!!」
「まずお前が止めろやああああ、!!!」
「…でもまあ、いちかちゃんがこうしてバレー部に囲まれてんの見て……
俺、もっと頑張らなあかんって思った」
「……へ?」
「だって、才能あるし、絵上手いし、男子ともワイワイできるし、
俺、放っといたら絶対どっか行かれそうで、怖いねん」
ツムの声が、いつもよりちょっと低くて真面目で——
ずるい、そういう顔されると、私、ツッコミできんやん。
「……行かんよ、勝手にどっかとか」
「ほんま?」
「ほんま」
「じゃあ、俺のもんってことでええ?」
「いや最後のセリフ軽いな!?!!!」
「照れてるだけやん?俺のこと、好きすぎて」
「はい調子乗ったーーー!」
ツムはニヤニヤして、でも目はまっすぐで。
なんやかんやで、バレー部もなんかあったかいし、
私、この空間、嫌いじゃない。
いや、むしろ、けっこう……好きかもしれん。