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## 第33話:『闇に沈む月』
マゼンタの閃光が、静かに夜の闇に吸い込まれていった。
オーバーブーストの代償として機体各部から白煙を吹き上げるヴィヴァーチェが、岩壁に力なく着地する。セレスの意識は混濁し、コクピット内には荒い呼吸の音だけが空虚に響いていた。
「セレス! ……クソッ、返事をしろ!」
ゼロが叫ぶが、通信機からはノイズしか返ってこない。
戦場を支配していた激しい火花は止み、代わりに重苦しい沈黙が岩礁地帯を包み込んだ。空を覆う厚い雲はさらに深まり、その向こう側にあるはずの月――サテライトシステムの供給源――は、完全に見る影もなく「沈んで」いた。
前方には、禍々しいプレッシャーを放ち続けるガンダム・ノワールレイスが浮遊している。
ノアの紅い瞳は、もはや機体のカメラ越しではなく、ゼロの脳内へ直接、呪詛のような感応波を流し込んでいた。
『――温かい……温かいわね、みんな。傷ついて、叫んで、それでも助け合って。……私を独りにして、ミラ、あなただけが……!』
ノアの怨嗟が実体化するように、ノワールレイスの周囲で大気が歪む。
その時、プロト・ウイングエックスのコクピットに、ゼストのブリッジからではない、別の通信が割り込んだ。
「……ゼロ……聞こえる?」
ミラの声だった。いつもの消え入りそうな声ではない。そこには、何かを悟ったような、静かで強い決意が宿っていた。
「ミラ!? お前、ブリッジにいるんじゃなかったのか!」
「……もう、逃げられない。……ノアの悲しみが、私の体の中に流れてくるの。……あの子を独りにしたのは、私なんだわ」
ミラは、エマたちが止めるのも聞かず、自らの足で格納庫へと向かっていた。彼女には分かっていた。この戦いは、単なる兵器同士の衝突ではない。かつて同じ地獄で育ち、片や「鍵」として、片や「その影」として切り離された、一人の少女の魂の慟哭なのだ。
「ゼロ……お願い。……私を、彼女の元へ連れて行って。……サテライトシステムを……私たちの『絆』を、本当の意味で繋ぐために」
「何言ってんだよ! 今外に出たら、あいつに何をされるか……!」
「……大丈夫。……だって、ゼロが守ってくれるんでしょ?」
ミラの言葉に、ゼロは言葉を詰まらせた。
ゼロ・システムを搭載したウイングエックスのモニターが、数十通りの「ミラの死」を映し出す。彼女を外に連れ出せば、ノワールレイスに捕まるルート、爆破に巻き込まれるルート――未来は黒く塗り潰されている。
だが、その無数の絶望の隙間に、たった一筋だけ、今まで見たこともない輝きを放つ「未知のルート」が浮かび上がった。
「……ああ、分かったよ。……お前がそう言うなら、地獄の底まで付き合ってやる!」
ゼロはウイングエックスをゼストの後部ハッチへと引き返させた。
カイルとジュードが、満身創痍の機体を動かしてその退路を確保する。
「行け、ゼロ! ここは……この『老兵』たちが食い止める!」
「……後のことは任せたぜ、新入り。……ミラちゃんを、悲しませるんじゃねえぞ」
二機のガンダムが、盾となってノワールレイスの前に立ち塞がる。
漆黒の死神が鎌を振り上げ、咆哮を上げる。
『逃がさない……! ミラ、あなたは私のものよ!!』
岩礁地帯の最深部。
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後部ハッチが開くと同時に、白いワンピースを翻したミラが、ゼロの差し出したプロト・ウイングエックスの掌の上へと飛び乗った。
ゼロは慎重に、しかし素早く彼女をコクピットへと取り込む。
狭いコクピットの中、ミラの体温がゼロに伝わる。
その瞬間、暴走していたゼロ・システムのノイズが、嘘のように消え去った。
「……これ、は……」
脳内を埋め尽くしていたルートが一つに重なり、視界が澄み渡っていく。
ミラがゼロの手に自分の手を重ねた。
「……準備はいい、ゼロ? ……月は沈んでいても、私たちの心に『光』はあるわ」
「ああ……。最高だ。……おい、ノア! よく見てろ。これが俺たちの、本当の力だ!!」
闇に沈んだ月の下、白いガンダムが再び戦場へと舞い戻る。
その背中には、まだ開かぬ6枚の翼。
しかし、その瞳には、絶望を焼き切るための「共鳴」の光が宿っていた。
**次回予告**
ゼロがシステムの闇の中で、ミラの孤独とノアの悲しみを知る。
歩み寄るミラ、拒絶するノア。
平行線を辿る二人の少女の魂を繋ぐのは、ゼロが放つ魂の咆哮か。
「行こう、ノア。……冷たい闇の連鎖を、ここで終わらせるために」
戦いは、最終局面へ向けて加速する!
次回、『共鳴する魂』
**「そろそろ白黒つけようじゃんよ……!!」**
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