テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
阿部と深澤がそれぞれ王子様を探しに行ったあと。
渡辺も一人になった。
「……。」
周囲を見渡す。
豪華な城。
大勢の招待客。
あちこちで楽しそうに踊る人たち。
このどこかに、自分の王子様がいる。
誰なのかは、考えるまでもなかった。
「……涼太だろ。」
渡辺は小さく呟く。
だから。
探しに――。
「行かなくていい。」
渡辺はあっさりやめた。
阿部や深澤は城の奥へ消えていったけれど。
自分まで探し回る必要はない。
宮舘なら。
きっと、見つけてくれる。
そういう確信があった。
昔からそうだった。
自分が困っている時。
不安な時。
何も言わなくても。
気付けば近くにいる。
だから今回も。
涼太なら絶対に見つけてくれる。
渡辺は舞踏会の会場を歩き、隅の方に空いているテーブルを見つけた。
椅子へ座ると、ガラスの靴を履いた足を少し伸ばした。
探し回るなんて絶対に無理。
ここで待っていればいい。
すると。
「しょっぴー。」
「ん?」
聞き慣れた声に振り返る。
そこにいたのはラウールだった。
「涼太かと思った。」
ラウールが笑う。
「探しに行かないの?」
「行かない。」
即答する。
「なんで?」
「見つけてくれるから。」
渡辺は当然のように答えた。
「俺が探す必要ない。」
「ふーん。」
ラウールは少し楽しそうに笑う。
それから。
「でも、待ってるだけじゃ暇でしょ。」
杖を振った。
一瞬。
きらきらした光がテーブルの上に広がる。
「うわ。」
次々と料理が現れた。
肉料理。
魚料理。
色とりどりの前菜。
小さなデザート。
そして。
シャンパングラス。
「……すご。」
「どうぞ。」
ラウールがシャンパンを注ぐ。
「待ってる間食べてて。」
渡辺は料理を見る。
「これ魔法で出したの?」
「そう。」
「食える?」
「失礼じゃない?」
「十二時になったら腹の中で消えたりしない?」
ラウールが笑う。
「そこまで責任持てない。」
「怖ぇよ。」
それでも渡辺は料理へ手を伸ばす。
一口食べる。
「……うま。」
「でしょ?」
ラウールは満足そうに笑った。
そこへ佐久間と康二もやって来る。
「料理ある!」
「俺も食べたい!」
「あっちにいっぱいあるよ。」
三人は料理がたくさん並んでいる方へ向かう。
去り際。
ラウールが振り返った。
「早く来るといいね。」
渡辺は少しだけ笑う。
「来るよ。」
「うん。」
ラウールも笑った。
「じゃあ俺ら、あっち行ってるね。」
佐久間と康二を連れて、人の多い方へ消えていく。
一人になった。
___________
渡辺はシャンパングラスを手に、椅子へ深く座った。
大丈夫、涼太なら来る。
そう思っているのに、視線が勝手に動く。
人混みを見る、違う。
あの人も、違う。
背が同じくらいの人を見つけると、一瞬目で追ってしまう。
シャンパンを一口飲む。
また見る。
いない。
「……別に探してないし。」
誰に言うでもなく呟く。
自分から探しには行かない。
それは決めている。
涼太なら来るって分かっている。
それなのに。
扉が開くたびに見る。
人がこちらへ歩いてくるたびに見る。
誰かの笑い声が聞こえるたびに、一瞬そちらへ視線を向ける。
「……遅くね?」
いつから待っているのか分からない。
阿部と深澤は、もう見つけただろうか。
自分が最後だったら少し腹が立つ。
「涼太、何してんだよ。」
グラスをテーブルへ置く。
もう一度、人混みを見る。
ほんの少し、不安になる。
本当に来るよな。
いや、絶対来る。
でも。
「まだ来ないか……。」
小さく呟いた。
すると。
「誰が来ないの?」
「……え?」
すぐ隣から声がした。
あまりにも近い。
渡辺はゆっくり顔を向ける。
隣の椅子。
そこに。
宮舘が座っていた。
目が合う。
華やかな衣装を着て。
何事もなかったかのような顔で。
宮舘が座っている。
「いつからいた?」
「少し前から。」
「は?」
渡辺は目を見開く。
「なんで声掛けねぇの?」
宮舘は穏やかに笑った。
「翔太が一生懸命俺を探してたから。」
「探してねぇよ!」
反射的に否定する。
「ずっと見てたよ。」
「見んなよ!」
「扉が開くたびに見てたね。」
「見てない。」
「人が来るたびに見てた。」
「見てない!」
「『涼太、何してんだよ』って言ってた。」
「……。」
全部聞かれていた。
渡辺は顔を覆う。
「最悪。」
宮舘が笑う。
「ごめん。」
「いつから隣にいたんだよ。」
「翔太が『別に探してないし』って言ってた辺り。」
「ほぼ全部じゃん!」
渡辺はますます恥ずかしくなる。
「だったらすぐ話しかけろよ。」
「嬉しかったから。」
「翔太が俺を待っててくれたこと。」
その言葉に。
渡辺は黙った。
宮舘はいつもの穏やかな顔で自分を見ている。
「俺が見つけるって思ってた?」
「……思ってた。」
小さく答える。
「涼太なら来るって。」
「だから探しに行かなかった。」
「そっか。」
宮舘が優しく笑った。
「信じてくれてありがとう。」
その言い方はずるい。
渡辺は視線を逸らした。
「結構待った。」
「ごめんね。」
「ガラスの靴も痛い。」
「それは俺のせいじゃないかな。」
「涼太のせい。」
「そっか。」
宮舘は笑ったまま受け入れる。
それが余計に悔しい。
でも。
さっきまで無意識に探し続けていた人が。
今は隣にいる。
それだけで、不思議なくらい安心した。
渡辺はテーブルに残っていたもう一つのグラスを宮舘へ差し出す。
「飲む?」
「いただこうかな。」
宮舘が受け取る。
二人でグラスを軽く合わせた。
「ねえ、翔太。」
「何?」
「会えて嬉しい?」
「……。」
渡辺は少し考える。
素直に答えるのは癪だった。
だから。
「まあまあ。」
そう答えた。
宮舘は笑う。
「俺はすごく嬉しいよ。」
「……そう。」
渡辺はシャンパンを飲む。
顔が熱いのは。
きっと、お酒のせいだ。
それでも。
グラスの向こうに見える宮舘の顔を見ながら。
渡辺は心の中で思った。
(やっぱり。)
(涼太はちゃんと見つけてくれる。)
それが。
思っていた以上に嬉しかった。
___________
宮舘と合流してから。
渡辺は人の多い舞踏会の会場を離れ、宮舘と一緒に城の外へ出ていた。
辿り着いたのは、広い薔薇園だった。
たくさんの薔薇が月明かりに照らされている。
城の中から聞こえてくる音楽も、ここでは随分遠い。
「誰もいないね。」
宮舘が言う。
「こっちの方がいい。」
渡辺は宮舘の隣を歩く。
大勢の人に囲まれているより、ずっと落ち着いた。
ふと、渡辺は周囲を見回した。
「……時計なくね?」
「時計?」
城の中には大きな時計があった。
けれど、薔薇園からは見えない。
「今何時か分かんないじゃん。」
渡辺が少し心配になる。
十二時になれば魔法が解ける。
時間が分からなければ、帰るタイミングも分からない。
すると、宮舘が隣で笑った。
「逃げる気なの?」
渡辺は宮舘を見る。
「そりゃ逃げるだろ。」
「だってシンデレラってそういう話じゃん。」
「翔太も走って逃げるの?」
「その予定だった。」
渡辺は自分の足元を見る。
「でも、この靴じゃ無理だから。」
ガラスの靴を軽く持ち上げる。
「両方脱いで逃げる予定だった。」
宮舘が一瞬黙る。
それから。
ふっと笑った。
「お転婆だね。」
「うるせぇ。」
「ドレスの裾持って、裸足で走るの?」
「そう。」
「見てみたかったな。」
「見る前に逃げるから。」
「追いかけるよ。」
「来んなよ。」
「だって王子様だから。」
宮舘が楽しそうに笑う。
渡辺もつられて少しだけ笑った。
そのまま歩いていると。
ふいに宮舘の手が渡辺の手に触れた。
指先が触れる。
渡辺は何も言わなかった。
宮舘も何も言わない。
もう一度。
指が触れて。
今度は、そのまま絡め取られた。
「……何。」
「手、繋ごうかなって。」
「勝手に繋いでるじゃん。」
「嫌?」
渡辺は繋がれた手を見る。
「……別に。」
振りほどかなかった。
むしろ。
少しだけ自分から握り返す。
宮舘が嬉しそうに笑った。
「何笑ってんの。」
「嬉しくて。」
「これくらいで?」
「翔太から握ってくれたから。」
「……。」
気付かれていた。
渡辺は恥ずかしくなって前を向く。
「言わなくていいから。」
それでも。
手は離さなかった。
___________
薔薇園の中央まで来る。
そこには少し広くなった場所があった。
月明かりが差し込んでいて。
二人の影が地面に並んでいる。
渡辺は何となく足を止めた。
「二人共、どうしてるかな。」
宮舘は少し考える。
「阿部は帰れないよ。」
「なんで?」
「目黒が相手だから。」
「……ああ。」
簡単に想像できた。
「絶対帰さないじゃん。」
「十二時になっても離さなそう。」
渡辺は少し笑った。
それから。
繋いでいる宮舘の手を見る。
「じゃあ、俺も帰んなくていいや。」
宮舘が渡辺を見る。
「いいの?」
「あべちゃん帰らないんでしょ?」
「多分。」
「じゃあいいよ。」
宮舘は少し嬉しそうだった。
「それって。」
「俺と一緒にいたいってこと?」
「……。」
渡辺は黙る。
「……そういうことにしとけば?」
「じゃあそうする。」
宮舘が繋いだ手を持ち上げる。
そのまま渡辺の手の甲へ、そっと唇を触れさせた。
渡辺が慌てて手を引こうとする。
けれど。
宮舘は優しく握ったまま離さない。
「何してんの!」
「王子様だから。」
「それ万能じゃねぇから!」
「そう?」
「そうだよ。」
「でも。」
宮舘は笑う。
「翔太、手離さないね。」
言われて初めて気付く。
振りほどこうと思えばできる。
でも、しなかった。
渡辺は少しだけ顔を逸らした。
「……離したくないだけ。」
「もう一回言って。」
「絶対言わない。」
「残念。」
宮舘は笑いながら、今度は渡辺を軽く引き寄せた。
「うわ。」
渡辺の体が宮舘へ近付く。
胸元へ手をついて止まった。
「涼太、近い。」
「嫌?」
嫌ではない。
だから。
渡辺は離れなかった。
むしろ宮舘の衣装を軽く掴んだまま。
「……涼太、踊ろう。」
宮舘が少し驚く。
「いいの?」
「翔太から誘ってくれると思わなかった。」
「俺だって踊る時くらいある。」
「でも、さっき舞踏会では踊らなかったでしょ?」
「あそこ人多いじゃん。」
「ここならいい?」
「うん。」
渡辺は少しだけ宮舘を見上げた。
「踊りたい気分なの。」
その言葉に。
宮舘の表情が柔らかくなる。
「分かった。」
宮舘は一度渡辺から離れる。
そして。
改めて目の前へ立つと、片手を差し出した。
「では、お手をどうぞ。」
「何それ。」
「王子様らしく。」
「今更?」
文句を言いながら。
渡辺はその手へ自分の手を重ねた。
宮舘が優しく握る。
もう片方の手が渡辺の腰へ回った。
想像していたより近い。
渡辺も宮舘の肩へ手を置く。
「これでいい?」
「もう少し近くてもいいよ。」
「調子乗んな。」
そう言いながら。
渡辺の方から半歩近付いた。
「……。」
「……。」
今度は宮舘が黙った。
「何。」
「いや。」
「翔太から来てくれたなと思って。」
「うるさい。」
「嬉しい。」
「いちいち言わなくていい。」
それでも。
渡辺は離れない。
遠くから聞こえてくる音楽に合わせて、二人はゆっくり動き始めた。
渡辺も宮舘も、こんなダンスを踊ったことなんてない。
なのに。
自然と足が動く。
宮舘が渡辺の腰を支える。
渡辺はその手に身を任せた。
一度離れて。
宮舘が手を上げると、その下で渡辺がくるりと回る。
青いドレスがふわりと広がった。
そして。
また引き寄せられる。
今度はさっきより近かった。
「……涼太。」
「うん?」
「結構楽しいね。」
「俺も。」
宮舘の手が、渡辺の腰から背中へ少し上がる。
優しく包むように抱き寄せられた。
渡辺はそのまま宮舘の肩へ頬を寄せる。
「翔太、眠いの?」
「違う。」
「疲れた?」
「違うって。」
渡辺は宮舘の肩に顔を寄せたまま、小さく呟く。
「こうしてたいだけ。」
宮舘の足が止まった。
「……。」
「何で止まんの。」
「嬉しくて。」
「またそれ?」
「だって今日の翔太、すごく素直だから。」
「うるさい。」
渡辺は宮舘の背中へ腕を回した。
ぎゅっと抱きつく。
「……これで黙って。」
宮舘も笑いながら渡辺を抱きしめ返した。
薔薇の香り。
遠くから聞こえる音楽。
宮舘の腕の中。
渡辺は目を閉じる。
十二時まであと何分なのか。
もう分からない。
でも、それでいいと思った。
帰るつもりも、逃げるつもりも。
もうなかった。
「涼太。」
「ん?」
「十二時になっても、見つけてくれる?」
宮舘はすぐに答えた。
「何回でも見つけるよ。」
渡辺は小さく笑った。
「……じゃあいいや。」
「何が?」
「何でもない。」
もう一度、宮舘の肩へ頬を寄せる。
ガラスの靴を両方脱いで逃げる予定だったシンデレラは。
結局、王子様の腕の中から逃げる気なんて、すっかりなくなっていた。
___________
薔薇園でしばらく過ごしていると。
遠くから、大きな鐘の音が聞こえてきた。
ゴーン。
渡辺と宮舘は、ぼんやりとその音を聞いていた。
「鐘鳴ってる。」
「うん。」
ゴーン。
もう一度。
二人とも特に気にすることなく、そのまま薔薇園を歩いていた。
三回。
四回。
何度も鐘が鳴る。
宮舘がふと足を止めた。
「翔太。」
「これ。」
「十二時の鐘なんじゃない?」
「……。」
渡辺も止まる。
「……え?」
二人で顔を見合わせた。
ゴーン。
まだ鐘は鳴っている。
「待って。」
渡辺は慌てて周囲を見る。
当然、薔薇園に時計はない。
「何回鳴った?」
「数えてなかった。」
「俺も。」
「でも結構鳴ったよね。」
「鳴った。」
渡辺は自分を見る。
青いドレス。
「……。」
足元を見る。
ガラスの靴。
「……解けてなくね?」
「そうだね。」
「十二時じゃないのかな。」
「確認しに行こうか。」
二人は手を繋いだまま、城へ戻ることにした。
途中。
渡辺は何度も自分のドレスを見る。
何も変わらない。
「ラウール、十二時になったら魔法解けるって言ってたかも。」
「そうなの?」
「多分。」
「多分なんだ。」
「ちゃんと聞いてなかった。」
宮舘が笑う。
「翔太らしいね。」
「うるさい。」
城の中へ戻る。
時計が見える場所まで来て。
二人同時に見上げた。
「……。」
「……。」
時計の針は。
しっかり十二時を過ぎていた。
「過ぎてんじゃん。」
「過ぎてるね。」
渡辺は自分のドレスを摘まむ。
「なんで?」
「魔法が解けなかったとか?」
「そういうことある?」
「俺は魔法に詳しくないから分からないな。」
「俺もだよ。」
周囲を見ると、招待客たちが次々と帰り始めていた。
舞踏会は本当に終わったらしい。
渡辺はそこで思い出す。
「あ。」
「どうしたの?」
「あべちゃんとふっか。」
同じ魔法をかけられていた二人。
「どうなってるんだろ。」
「探しに行こうか。」
「うん。」
渡辺は宮舘の手を握ったまま、ロビーへ向かった。
コメント
1件
ああ、もう、めっちゃ良かったです……!渡辺くんが「涼太なら来る」って信じて待ってるのに、無意識に扉とか人混みを探しちゃう心情、すごく伝わってきました。しかも全部宮舘くんに見られてたってオチ、恥ずかしすぎるけどその後の「信じてくれてありがとう」がずるい優しさで……。薔薇園でのダンス、手を繋ぐシーン、全部が甘くて、思わずにやけてしまいました。十二時過ぎても魔法が解けなかったのも、なんだか運命みたいで素敵でした!
#AI
みら

8,264
kaede🍁
6,883
篝火

12,671