テラーノベル
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披露宴が終わり、二人が向かったのは教会に併設された高級ホテルのスイートルームだった。
大きなベッドルームは柔らかな間接照明に包まれ、窓からは金沢の夜景が広がっている。
夏帆はアクアマリンブルーのお色直しドレスを脱ぎ、白いシルクのネグリジェに着替えていた。レースの裾が、素肌に優しく触れる。
洸平はシャワーを浴びた後、タオルを腰に巻いたままベッドに腰を下ろした。
顔色が悪い。
「夏帆……今日は本当に疲れたな」
「ええ、私も。でも、幸せです」
夏帆は微笑みながら洸平の隣に座り、そっと肩に寄りかかった。指先で洸平の胸を優しく撫でる。
「洸平さん……今夜は、私のものですね」
洸平の身体が一瞬固くなった。夏帆の手がゆっくりと下へ滑り込むと、洸平は小さく息を飲んだ。しかし——反応が薄い。夏帆の指がさらに動きを加えても、洸平のそこは一向に硬くならず、むしろ萎えていく。
「どうしたんですか?」
夏帆は甘い声で尋ねながら、顔を上げて洸平の目を見つめた。
瞳は優しく微笑んでいるのに、奥に冷たい光が宿っていた。
「疲れてる……だけだ。今日は本当に色々あって」
洸平は慌てて夏帆の手を掴み、視線を逸らした。
額に汗が浮かんでいる。
夏帆はくすくすと笑い、洸平の耳元に唇を寄せた。
「ふふ……昨日まで、あんなに元気だったのに?」
洸平の肩がビクリと震えた。
「な、何を……」
「波瑠さん、昨日も一緒にいたんでしょう?」
一瞬の沈黙。
夏帆は指先で洸平の胸を軽く爪で引っかきながら、甘く続けた。
「昨夜、教会のすぐ隣のこのホテルで……波瑠さんと、激しくしていたんでしょう?」
洸平の顔から血の気が引いた。目が泳ぎ、喉がゴクリと鳴る。
「ち、違う……それは……」
「背中の傷、雨の夜の傷……あれ、波瑠さんがつけたんじゃないの?」
夏帆の声はまだ優しいまま。
でも言葉は鋭く、まるでナイフのように洸平の胸を刺す。
洸平は慌てて夏帆の肩を押し、ベッドから離れようとした。
しかし足がもつれ、バランスを崩す。
「夏帆、誤解だ! 波瑠はただの親戚で……」
「親戚が、新郎の前夜にホテルで裸で絡みつくの?」
夏帆はゆっくりと立ち上がり、ネグリジェの肩紐を片方だけ落とした。
白い肌が照明に照らされ、艶やかに光る。
「洸平さん、私……初めてなのに、こんなに期待してたのに」
彼女は洸平の前に跪き、指先で萎えたものを優しく包み込んだ。
「ほら……頑張って。私を、幸せにして?」
洸平の息が荒くなる。でも下半身は全く反応しない。むしろ恐怖でさらに萎縮していく。
夏帆は上目遣いに洸平を見上げ、微笑んだ。
「もしかして……波瑠さんのことしか、考えられないの?」
「やめろ……!」
洸平はようやく声を絞り出したが、すでに取り乱していた。
手が震え、目には明らかな怯えが浮かんでいる。
夏帆は立ち上がり、洸平の頰を両手で優しく包んだ。
「大丈夫ですよ。今日は無理しなくていいわ」
その声は、まるで慈母のように優しい。
「でも……これから、ずっと一緒にいるんですから。ゆっくり、教えてくださいね。波瑠さんとどんなことをしていたのか……全部」
洸平の瞳に、絶望の色が広がった。
夏帆は心の中で冷たく微笑んだ。
(これが、始まりよ)
窓の外では、金沢の夜景が美しく輝いていた。しかしスイートルームの中は、すでに冷たい復讐の炎が静かに燃え始めていた。
◇◇◇
朝の陽光がホテルのスイートルームに差し込んでいた。
白いシーツの上に、夏帆は優雅に横たわっていた。ネグリジェの肩紐が少しずれ、色白の肌が柔らかく光を反射している。
隣では洸平が目を覚まし、天井を見つめたまま動かない。
昨夜の失敗が、部屋の空気を重くしていた。
夏帆はゆっくりと身体を起こし、洸平の胸に頰を寄せた。
甘い声で囁く。
「おはようございます、洸平さん。よく眠れましたか?」
洸平は無理に笑顔を作ろうとしたが、失敗した。声がかすれる。
「……ああ、まあな」
夏帆は指先で洸平の腹を優しく撫でながら、微笑んだ。
「昨夜は……ごめんなさいね。私、初めてだったから、上手くできなかったのかしら?」
洸平の身体がピクリと反応した。
「違う……俺のせいだ。疲れてただけだよ」
夏帆はくすくすと笑い、洸平の耳元に唇を近づけた。
「本当に? でも、波瑠さんとはあんなに激しかったのに……どうして私にはできないのかしら?」
洸平の息が止まった。
目が大きく見開かれる。
「な……何を言ってるんだ、夏帆」
夏帆は上体を起こし、洸平の顔を両手で優しく包み込んだ。黒曜石のような瞳が、じっと洸平を捉える。
「昨夜、言ったでしょう? 教会のすぐ隣のこのホテルで、波瑠さんと裸で絡み合っていたって。背中の傷も、波瑠さんがつけたんでしょう?」
洸平の顔から血の気が引いた。
額に冷や汗が浮き、喉がゴクリと鳴る。
「誤解だ……あれは、ただの……」
「ただの、なに?」
夏帆の声はまだ甘いまま。でも言葉はナイフのように鋭い。
「雨の夜に雑木林で、シャベルを持って穴を掘っていたのも……波瑠さんと一緒だったの?」
洸平の瞳が激しく揺れた。
身体が小刻みに震え始める。
「どうして……知ってる……?」
夏帆は微笑みを崩さず、洸平の唇に自分の指をそっと当てた。
「ふふ……洸平さん、顔が真っ青よ。昨夜はあんなに萎えちゃって、朝もまだ元気がないみたいね。波瑠さんのことを考えてるから?」
彼女はシーツを少しずらし、洸平の下半身に視線を落とした。そこは相変わらず力なく、恐怖で縮こまっている。
「私、悲しいわ。結婚したばかりなのに、夫が他の女のことでしか興奮できないなんて」
洸平は慌てて夏帆の手を掴み、必死に否定した。
「やめろ……夏帆、頼むから……波瑠は関係ない! あいつはただの親戚で……」
「親戚が、新郎の前夜に『またKAHOとしてね』ってメッセージを送ってくるの?」
夏帆は携帯電話を枕元から取り、昨日のLINEスクリーンショットを洸平の目の前にかざした。
「この傷痕……大学時代のマウンテンバイクじゃなくて、雨の夜に誰かに引っかかれたんでしょう? 火かき棒とネクタイを穴に放り込んだのも、波瑠さんと一緒?」
洸平の息が荒くなった。手が夏帆の腕を強く握るが、力が入っていない。
「夏帆……お願いだ……やめてくれ……」
夏帆は洸平の頰を優しく撫で、甘く微笑んだ。
「大丈夫ですよ。今日は無理しなくていいわ。でも、これからずっと一緒にいるんですから……ゆっくり教えてくださいね。波瑠さんとどんなことをしていたのか。雨の夜に何を埋めたのか。全部、全部」
彼女は洸平の唇に軽くキスをし、立ち上がった。
「朝食のルームサービス、頼んでおくね。顔色が悪いから、ゆっくり休んで」
夏帆はネグリジェの裾を直しながら、窓辺に歩いていく。背中で洸平の荒い息遣いが聞こえた。
心の中で、夏帆は冷たく微笑んだ。
(まだ序の口よ、洸平さん)
朝の陽光が部屋を明るく照らす中、夏帆の瞳だけが、静かに冷たい炎を宿していた。
#裏切り
#モテテク
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