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──午後になりクリニックに出ると、近野さんが受付にいた。
あまり人と関わり合いたくもないようなこんな時には、おしゃべり好きな真梨奈ではなく、おとなし目な彼女の方で良かったと思う。
政宗医師は、普段と何も変わらない様子で、申し送りの際にも私を一瞥することすらしなかった。
あの医師が何を考えているのかなんて、私にわかるはずもかった……。
その日の業務が終了するまで、向こうから特に接触してくるようなこともなく、やがて仕事の要件以外では何も話すことがないまま、終業時間を迎えた──。
……やっぱりあの美形な医師にとっては、私とのことなんて一夜限りの遊びにすぎなかったんだろうと感じる。
ただ、今後もまだ何かあると思わせるようなあの台詞──
『……今夜は、ここまでにしといてあげますよ……』
気にかかると言えば、それくらいではあったけれど、その言葉さえも、あの男はただの思いつき程度で口にしたにすぎないのかもしれなかった。
そうとしか思えないくらいに、政宗医師は、私になど全く無関心なように窺えた……。
──そうして、その後も向こうから私に接してくるようなことは何もなく、普段と変わらない日常だけが淡々と過ぎていった。
「松原さん、先生って彼女いるんですか?」
勤務年数の長い松原女史へ、興味本位で訊ねる真梨奈に、
「……知らないわね」
あっさりとそう答えると、
「……でも先生はモテるから、特定の彼女なんて別に必要ないんじゃないかしら」
彼女は、もっともらしくそう付け足した。
「やっぱりそうなのかなー。先生、私と付き合ったりしてくれないかな…」
ぶつぶつと言う真梨奈に、
「先生は、女性の理想も高そうだからね…」
女史は笑って、彼女を軽くあしらった。