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好きです。それ以外の言葉が見当たらないです。 次回も楽しみにしています。毎回最高のお話ありがとうございます。
いろんな感情が錯雑して面白すぎてなんてコメントしていいかわからない…😓とにかく続き楽しみにしております💦💦
続き待ってます…!🥹🥹
いよいよややこしくなってきたということで、集まった九人全員で、改めて自己紹介をすることになってしまった。
「んじゃ俺からいくわ。深澤辰哉、三年、部活とかも言っといた方がいいよね?って言いたいとこだけど、ありすぎるからやめとくわ」
「岩本照。三年。ダンス部で部長してる」
「次俺ーっ!佐久間大介!三年!アニ研部長!兼部員!」
「ぁっ…阿部、亮平、、です…三年生で、部活は入ってない、です…」
「二年の宮舘涼太です。料理部に入ってます。………ほら、翔太もちゃんと挨拶して」
「…渡辺翔太。美術部。二年」
「ぁ、一昨日の人たちだ」
「ぁ?ぁあ、いきなり入ってきた奴か」
「一昨日はありがとう、本当に助かったよ」
「いえ、役に立ったんなら、よかったっす」
「僕ラウールです!一年です!佐久間先輩から勧誘?誘拐?されて、アニ研入ることになりました!今日は佐久間先輩から招待してもらいました、よろしくお願いします!」
「んにゃははっ!三年目でやっと仲間できたんだよ!だから、ラウのこともみんなに紹介したくって今日呼んだのー!」
「次俺行かしてもらいます!向井康二ですー!写真部と料理部入ろ思てます!今日は舘先輩から誘ってもらいました!」
「今日は来てくれてありがとう、たくさん作ったから遠慮しないで食べてね」
「わぁっ!美味しそう!ありがとうございます!」
「舘先輩おおきに!」
「ふふ、“先輩”って不思議な感じ。いいよ?無くて」
「舘って呼んでええの?!」
「ふふ、どうぞ。それより康二は、ラウールと元々お友達だったの?」
「ぁ、ぁー…、まッ、まぁそんなとこですー!」
「そうなんだ、すごい偶然だったんだね」
「ぁ、ぅ、そッそやねん…っ!」
「舘さん、最後の子まだ残ってっから、振らさしてもらっていいかい?」
「ぁ、ごめんね…っ、どうぞ…」
「ぁ、最後俺か…、あの、すいません、めっちゃ気まずいんですけど、一年の目黒蓮です。ラウールと康二の連れ合いで来てます」
「全然いいよ〜、目黒ね」
「ぅす」
「部活はまだ決めてないの?」
「……どこも、入る気ないんで」
「あ、そーなんだ、んまぁよろしくー」
「っす」
「…ぁーのさ…、もう一個聞いていい…?」
「はい」
「うちの阿部ちゃんをがっちりホールドして離さないのは、どーゆー心理…?」
全員にスルーされていたので、今ここで大声で喚いてやろうかと思っていたが、ふっかが良いパスを出してくれた。
学校帰りに、棒アイスを買うことを検討してやろう。
現在、俺は真後ろから目黒くんに両腕で抱え込まれている。
身動きが取れない上にシュールでしかないこの状況に、何が正解なのか分からなくなっていたのだ。
(やっぱりこれおかしいよね…?)
最早俺がおかしくて、目黒くんが正常なのかもしれないとさえ思い始めるほど混乱していた。
ふっかの鶴の一声をきっかけに、離れてくれるかもしれないと期待したが…。
「会えたんで」
シンプルかつ斜め上な回答に、白目を剥きかけた。
(わぁぁ…話通じない系の子だ…薄々分かってたけどさ…)
思わず天を仰ぐと、その先で目黒くんと目が合ってしまった。
「っ!上から見ても可愛い、おでこ綺麗だね」
違う、そうじゃない。
俺が正常なら、ここにいる全員が思っているはずだ。
「いや、腕を離せよ」と。
「びっくりしたけど僕すっごく嬉しいなっ!めめが良い人と出逢えて!いつ知り合ってたの!」
(ラウールくんー?流さないよー?あと“良い人”ってどういう意味かなー?)
「一昨日」
「へー!どこで知り合ってたん!」
「図書室」
(言わないでよぉ…)
「そうだったんだー!図書室行ったら僕も阿部先輩に会えますか!?」
「ぇっ、ぁ……ぇ、と…」
「だめ。来んな」
(それはナイス)
三文小説
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篝火

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「えっ!なんでよーっ!」
「俺らも阿部先輩と仲良くなりたいんやーっ!」
「絶対だめ。俺だけの阿部くんだから」
(理由が重い…!!!…し!目黒くん「だけ」の何かになった覚えはない…!!)
「誰か助けて…」という気持ちを全面に出して、こちらを見ていたふっかと照を見つめ返したが、二人は一瞬だけビクッと怯えたような顔をしてから、同時に明後日の方向を向きやがった。
泣きそうな目は向けたが、別に睨んでもいないというのに、何をそんな、逃げるように視線を泳がせるのか。
…いや…冷静に振り返ってみると、彼らとしっかりと目は合っていなかったようにも思えた。
であれば、二人はどこを見ていたのだろうか…?俺の方を見ていたとは思うのだが…。
佐久間に関しては顎に手を当てて、床をじーっと見ている。
考え事でもしているのだろうか。
なんにせよ、薄情な奴らだ。
棒アイスの件は無かったことにしよう。
「そういえばさ、さっきちょっと言ってたけど、ふっかって今いくつ部活入ってんだっけ?」
話題を変えるようにか、はたまた今までの会話は聞いていなかったのか、ミートボールを頬張った口をモゴモゴと動かしながら、眠たそうな目をした渡辺くんが唐突に口火を切った。
それを受けたふっかは、ゆっくりと斜め上を向いた。
「んぁー何個だ?…いち、に……七か」
「そないに入ってるんですか!?すごいなぁ!」
「料理部でしょー?あと美術部とバスケ部と、ダンス部とサッカー部と、ぁ、そうそう、康二が入ろうとしてる写真部にも一応いるから、俺がいる時はいつでも声掛けてー」
「心強いですーっ!うれしい!」
「あとは、補欠でアニ研だね」
「アニ研の「補欠」ってなに」
「たまぁーにしか行かないのよ、人数足りないから名前だけ貸せって佐久間が言うんだもん」
「そういやそんなこと頼んだねぇ」
「マジの補欠じゃん」
「唯一毎回行ってんのはダンス部くらいか?ちゃんと行かないと照が怒るんだよー」
「当たり前でしょ、入ってるんならちゃんとやって。曲がりなりにも副部長なんだから。後輩に示しがつかない」
「それはお前が勝手に役割振ったんだろー?」
「俺が部長やるなら、副部長はお前しかありえない」
「んははっ、なんだそれ」
宮舘くんが作ってくれたお弁当と焼き菓子に舌鼓を打ちながら、みんなは思い思いに話したいことを話していく。お互いに殆どが初対面であったはずなのに、すんなりと打ち解けている。
こうやって、何も考えずに交友を広げることができるなんて、羨ましいものだ。
あれこれ気にしてしまって、俺にはできそうにない。
それはそうと、心なしか暑くなってきた。
これは抱き付かれているせいか。はたまた、“あれ”が始まりかけているせいか。
パタパタと、顔付近を手であおぐ。
ネクタイを緩め、シャツのボタンを一番目くらいだけは開けたい衝動をやり込めるが、せめてマスクの内側に籠る生暖かい温度と湿気くらいは逃がせないものか。
最善の解決策を頭の中であれこれ巡らせていると、円を囲んだ斜め向かいに座っていた佐久間が不意に立ち上がる。こちらへ近付いてくるかと思いきや、彼は徐に、パカッとその口を大きく開けた。
「“めめ”って呼びやすいね!ねね!めめ!」
「はい?なんすか、佐久間先輩…でしたっけ」
「“先輩”いらないよん!ラウも康二もいいからねー!」
「ぁっ、はい…っ!」
「ぁ、んで、めめ」
「はい」
「ちょっと阿部ちゃん貸して?」
佐久間からの申し出があった直後、背後から漂ってきていた目黒くんの香りが少し濃くなったような気がした。
「………」
「んははっ、そんな威嚇しないでよー。てかそれ俺には効かないし、ふっかと照怖がってるからさ、やめてくんない?」
段々と低くなっていく佐久間の声に、背中が冷える。
「……ぇ…?」
困惑するような目黒くんの吐息がすぐ後ろから聞こえてくると、佐久間は軽く肩をすくめた。
「無自覚か。別に取ったりしないって。二人で話したいことあるだけだから、ね?」
「………」
「…こんだけ言ってわかんない?」
佐久間の瞳はどんどんと黒くなっていって、光を何も反射させなくなっていく。
苛立ち混じりのため息が一つ、その口から吐き出されたあと、
「離せ。つってんの」
そう、佐久間は言った。
バク、バクと心臓が荒く乱れる。
得体の知れない胸騒ぎが膨れ上がる。
ピリついた空気の真ん中で、体が勝手に震えた。
──こんな怖い佐久間、初めて…見た……。
「っ…、…ぅす」
巻き付いていた腕が一瞬だけ怯むようにピクッと揺れたあと、すぐに圧迫感は失せた。
「信じてくれてありがと。お仲間同士、仲良くしようよ。……にゃはっ!すぐ返すからー!」
突然元通りのケロッとした表情に戻ると、佐久間は「阿部ちゃん、いこ?」とこちらに声を掛け、その手を差し出した。
モノじゃないんだけど…と内心不貞腐れたが、やっと解かれた腕にホッと一息吐いて、そのまま佐久間の手に引かれていった。
その途中、チラと目に入った渡辺くんと宮舘くんのことが、少し気になった。
二人は無言のまま、ただ寄り添い合っていた。
渡辺くんは、「大丈夫、あいつはどこにも行かないよ」とあやすような声で、宮舘くんの頭を何度も撫でながら呟く。
宮舘くんは、渡辺くんの胸の中にすっぽりと収まったままピクリとも動かずにいた。
──宮舘くん、震えて、る…?
それを確かめるよりも前に、彼の姿は屋上の入り口がある壁に阻まれて見えなくなってしまった。
不意に、佐久間の足が止まる。
日陰になった場所、俺たち以外には誰もいない物陰の真ん中で、佐久間はくるっと体を回してこちらを向いた。
「佐久間、どうしたの…?ていうか、さっきのあれ…なに..し「阿部ちゃん」」
「、ん…?」
「もう気付いてんでしょ?」
「…へ…?なにが?」
「めめって子のこと」
「…ぁっ、ぁぁ…うん……。あの子、多分…」
「だよねぇ、昨日から阿部ちゃんの匂い濃くなってるもん。言わなかったけどさ」
「…っ…、」
胸が裂けそうだった。
佐久間が言うのであれば、本当に間違いないのだろう。
より一層、望んでもいない“予感”の確度が上がってしまったことに、項垂れかける。
ただ一方で、俺も確かめておきたいことがあった。
今までと変わらず、これからも佐久間と過ごしていけるのかどうかを、今後の佐久間との距離感の程度を、ちゃんと自分の感覚で掴み取っておきたかった。
暑くて、鬱陶しくて仕方なかったマスクを顎下までずらし、佐久間へ拳一つ分くらいの距離まで近付いて目を閉じた。
「佐久間のも、すん、、ぅん、変わってる。宮舘くんの匂い、する」
「へへっ…、ってそんなことより!阿部ちゃんはどうしたいの?」
「どうって…?」
「大丈夫そうに見えた、っていうか…、良い方向に行くんじゃない?って、俺はそんな気がするんだけどさ、阿部ちゃん的には多分、困ってる感じだよね…?さっきもすんごい顔してたし…」
「…ぅん…」
「阿部ちゃんの気持ち聞いておきたいの、優先したい。俺に出来ることは少ないだろうけど、望んでない“契約”はさせたくないから」
その言葉に、堰き止めていた気持ちが噴き出していく。
ヒビ割れた壁から、鋭い水が勢いよく漏れるように。
誰かに打ち明けたくて仕方なかった。
そして、その相手になって欲しい人は、佐久間の他には誰もいなかった。
「…ッ、佐久間…、っ、、俺…誰のものにもなりたくない…っ」
「うん、そうだよね」
「今まで、ずっと…っ!!!、っふ、ぅ…、ッ」
「うん、大丈夫、分かってるよ」
「ん”ッ…全然逃げられないのっ…逃げなきゃって思えば思うほど、あの子と近付いちゃうの…っ…」
「んむむ…気休めかもだけど、やってみよっか 」
「っ、、…、ッぇ…?」
佐久間は自分の手の甲を俺の首筋に触れさせると、スッと一筋擦り付けた。
慈しむように微笑んでくれるその瞳のおかげで、激しく波立つ心が少しずつ穏やかになっていく。
こういう深い優しさをくれるのが、佐久間の良いところの一つだ。
これまでも佐久間は、俺の些細な体調の変化に気付いて声を掛けてくれていた。
いつだって、それに安心をもらっていた。
佐久間がそばにいてくれたから正気を保てていたのだと断言できるくらい、俺にとって彼の存在は大きかった。
裏を返せば、佐久間の優しさに甘えることでしか、胸の奥にある不安を拭うことができなかった。
そして同じように、佐久間の体調の変化にはいつだって俺だけが気付ける。
この学校で出会ってから、ずっとそうやって二人で支え合ってきた。
しかし、それも今日までか、と思う。
明日からは、自分のことは自分でどうにかするしかない。
懸念と怯えに蝕まれて、もう既に気が滅入ってしまいそうだが、それでも寂しくはなかった。
この縁がもとで佐久間と特別な関係であったということはないし、佐久間に大切な人ができてよかったという喜びの方が大きかった。
「お守りになればいいんだけど」
そう言って寂しそうに笑う佐久間に、途端に申し訳なさが込み上げる。
「そんなことしなくていいよ…っ!だって佐久間…!」
「大丈夫、涼太にはちゃんとワケ話すから。ぁ、もち、阿部ちゃんのことはやんわり伝えるだけだから安心して!」
「〜っ…ありがとう、、。…ちゃんと手洗ってね…?」
「ぁいぁい〜」
ひとしきりの会話を済ませて元いた場所へ戻ると、目黒くんが両手を広げて待っていた。
ぎこちなく愛想笑いを返して、彼が座る右隣へ腰を下ろす。
注がれ続ける熱視線を必死に無視していると、彼は徐に言った。
「頭の形、綺麗だね。可愛い」
佐久間には、美味しいチーズを買おう。
そればかりを考え続けた。
隣に座っていた宮舘くんが、気遣うような眼差しでマフィンを手渡してくれる。
「宮舘くん…ごめんね、ごめんね…」と何度も心の中で謝りながら、おずおずとそれを受け取った。
:
:
あっという間に、昼休みはおろか六限の時間までもが過ぎ去った。
全くもって待ち遠しくなかった放課後がやって来て、それぞれと手を振り合う。
ふっかは今日、ダンス部へ行くようだ。
照が、モチャモチャと踠いているふっかの襟元を掴んで引き摺っていったということは、そういうことである。
佐久間は、放課後になると毎日俺たちの「3−1」の教室を占拠して「アニ研」の縄張りを張るのだが、今日も今日とてその準備に取り掛かっていた。
「また明日ね」と三人に声をかけて、図書室へ向かう。
今日は俺の方が先だったらしく、目黒くんの姿は見えなかった。
よかった…と安堵して、我が物顔でパソコンの前に座り、返却の操作を始めた。
これだけ好きに使わせてもらっているが、俺は別に図書委員ではない。
毎日と言っていいほどここに来るので、いつしか持ち回りの先生から放課後の間だけ管理を任されるようになった。それが良いことなのか悪いことなのかは、よく分からない。
が、先生も仕事がたくさんあるだろうし、こちらもこちらで自由に過ごさせてもらえるならと快諾した。それが、確か一年生の二学期あたりのことだったと思う。
利害の一致、というやつだ。
バーコードを読み取って処理を終わらせ、元あった場所へ本を戻す。
現代小説が並んでいる書棚の左端から読み始めていって、最後まで辿り着くのももうすぐ。
このペースなら卒業までに全冊制覇できるな、と嬉しくなる。
特にジャンルに拘りは無いので、今ほど棚に収めた本の隣からまとめて五冊手に取り、カウンターへと引き返した。
貸出の処理をして、どれから読もうかと表紙を見比べていると──
──重く、大きな、鼓動が──
────────────────響き渡った。
「ッ!?っ…ぅそ…なん、、で…」
ガクッと膝が折れる。
その衝撃に釣られて滑り落ちていく五冊の本が、視界の端に映った。
どうして突然来たのか。薬は飲んだはずなのに。
そんな理屈なんて、もうどうでもよかった。
息が上がっていく。
気持ちが、津波のように次々に押し寄せる。
熱い、苦しい、寂しい…寂しい……寂しい…っ…
最近ではお馴染みの、あの虚しさとは別に、もう一つ。
怖い、怖い…っ、!!
得体の知れない恐怖心がこの身を襲う。
安心できるもの、縋り付けるものを探していた。
それが「何」であるのか、「どこ」にあるのか、もうはっきりと分かっているくせに、それでも尚、背中を向けて逃げようとしている。
愚かなのかもしれない。
いや、それで構わない。
これが俺に残っている最後の意地、なのだから。
外が騒がしい。
教室に残っている生徒が幾人か、まだいるようだ。
自分では感知できないこの匂いに、誰かが気付いてしまうかもしれない。
そんな恐ろしい予感が脳裏を過ぎる。
──隠れなきゃ…っ…。
息苦しさの一因であるマスクを鷲掴み、荒い手つきでずり下ろす。
這いつくばり、殆ど匍匐前進の要領で前へ前へと少しずつ進んでいった。
運が悪いことに、今日のシバヤマは帰りのホームルームでの話がえらく長かった。
他の教室からは、ガガーッ!と椅子と床が擦れる音が鳴り始めているというのに、彼はお構い無しに、「人生とは」みたいな話を十分以上語っていた。
ようやくそれが終わったので、急いで図書室へと向かう。
しかし、どうしてだろう。
そこに阿部くんの姿はなかった。
こんなに遅くなってしまったのだ。
先に来ていると思っていたのだが…。
──ん?
ふと、床に散らばった本に気が付く。
誰が落としたんだろうと不思議に思いつつそれを拾い上げ、中途半端な場所で広がっていたために折れてしまっているページを直してから、真ん中でパタンと閉じてカウンターの上に置いた。
「阿部くん、もう帰っちゃったのかな…」
俯いて、しょん…と肩を落とす。
今日は昼間に会えたとはいえ、あまり会話は出来なかった。
放課後こそは、昨日のようにたくさんのことを話したいと、そんな思いで五限と六限を頑張って乗り切ったのだが、阿部くんはどこにもいない。
…が。
「…ぁ…」
シンと静まり返っている空間の中で、あの匂いが不意に香ってくる。
それを辿っていくと、中途半端に隙間の空いた倉庫部屋に行き当たった。
(ここって生徒入っていいのかな?)
図書室には今、誰もいない。
少し覗くくらいならいいだろうと、恐る恐る中へ頭を突っ込ませて中の様子を伺ってみた瞬間、驚きに目を見開いた。
「阿部くん!?」
床に顔を突っ伏して、ぐったりと倒れ込んでいる阿部くんが、そこにいた。
すぐに駆け寄り、体を揺する。
「阿部くん!阿部くん…!大丈夫!?」
「……ぁ、、ぅ……んん”ぅっ…っふ、ぅ」
酷く辛そうで、聞こえてくる小さな呻き声は、熱に浮かされたように朧げだった。
それと同時に、強く香ってくるそれが、頭の中に昨日の話を再び呼び起こさせる。
「勘違い」が、「確信」に塗り変えられていく。
(やっぱり…)
うつ伏せでは余計に苦しいのではないかとその体を反転させると、うっすらとその目が開かれていくのを見る。
虚ろな瞳に俺を映すと、阿部くんは、はく、はく…と口を開いた。
「めぅぉく…、ぁ、っふ…」
「阿部くん、これ、風邪じゃないよね…?」
「ちぁぅ、か、ぜ…っ…」
「俺も初めてだからよく分かんないんだけどさ」
一つ息を吐き、もう一度吸う。
ありえないくらいに心臓が動いている。
緊張か、動揺か。
なんと言葉にしたらピッタリする表現になるのか分からないくらいの大きな気持ちを抱えたまま、ひどく重たい声音で、恐る恐る阿部くんに尋ねた。
「…発情期、でしょ?これ」
その瞬間、阿部くんの目から一粒の涙がこぼれ落ちていった。
何も言えなかった。
一つは、頭がぼーっとしていて、言葉が何も浮かばなかったせい。
もう一つは、それが、真実だったせい。
もうきっと、言い逃れできるタイミングは失ってしまっただろう。
無言とは時に、何よりも雄弁に肯定を語るものになるから。
「Ω、だったんだね」
「…っ…、」
認めたくないその響きに、自然と顔が歪む。
誤魔化せるのも、ここまでか。
目を伏せればまた一つ、涙がこめかみを伝った。
酷く熱い涙だった。
これはきっと、「最後の意地」が、死んだ温度。
そうだよ。
俺は、──Ω。
俺は、────君の運命────。
俺は、────君の運命の、────。
To be continue…