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第126話:台風一過の復興作戦。高性能農業用重機(もふもふ)の圧倒的パワー
観測史上最大級の超大型台風が過ぎ去った、翌日の昼下がり。
雲一つない抜けるような真夏の青空の下、十勝の限界集落は静かな活気を取り戻しつつあった。
俺たちのアジトである古民家や、集落の家屋自体に大きな被害はなかったものの、自然の猛威が残した『爪痕』は確実に存在していた。
「あちゃー……。こりゃあ、ひどい有様だねぇ」
「裏山の斜面から、立派なミズナラの木が根こそぎ折れて落ちてきとる。これじゃあ村のメインストリートが塞がって、軽トラも出せやしないよ……」
避難所(我が家)から出てきたおばあちゃんや村の男衆が、道の中央を完全に塞ぐ『巨大な倒木』を見上げて途方に暮れていた。
幹の太さは大人が両手を広げても足りないほどで、長さは十メートル近くある。
通常のチェーンソーで細かく切断するにしても、数日がかりの重労働になることは火を見るよりも明らかだった。
「お兄さん……どうしましょう。あんな大きな木、村の人たちだけじゃ絶対にどかせないですよ」
ジンバルにセットされたiPhone miniを持ちながら、小春ちゃんが不安そうに俺を見上げる。
だが、元・陸上自衛隊『需品科』として数々の災害派遣を経験してきた俺にとって、この程度の障害は想定の範囲内……いや、むしろ腕が鳴るシチュエーションだった。
「案ずるな、小春ちゃん。これより、限界集落の倒木および瓦礫の撤去作戦――『オペレーション・クリーンアップ』を開始する」
俺は首に巻いた自衛隊仕様のOD色タオルを締め直し、真顔で宣言した。
「本来なら自治体に重機の出動を要請するところだが、広域災害の直後ゆえ、こんな限界集落までインフラの復旧部隊が回ってくるのは一週間後になるだろう。ならば、我々の持つ『独自の兵站(リソース)』で強行突破するまでだ」
「独自の、リソース……?」
小春ちゃんが首を傾げた、その時だった。
『ミャウ(ほら、起きなさいな。あんたの出番よ)』
縁側の特等席で、気持ちよさそうに日向ぼっこをしていた純白の神獣シロが、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――をきらりと輝かせ、ポンッと肉球で縁側の床板を叩いた。
ズズンッ……!!
その瞬間、古民家の裏手から、地響きのような重い足音が響き渡った。
「ヒッ……!? な、なんだいこの音は!?」
村の老人たちが怯えて後ずさりする中、裏庭の茂みを掻き分けて姿を現したのは、体長3メートルに迫る、圧倒的な暴の化身。
我が家のレギュラーメンバー(門番)としてすっかり定着した、最強の捕食者『巨大ヒグマ』である。
ジンバル越しの一千万人のリスナーたちが、一斉に息を呑むのがわかった。
『出たあああああ!! 山の主wwww』
『相変わらずデカすぎだろ! 遠近法が狂うわ!』
『シロ様の一声で、裏で寝てたヒグマが起きてきたぞww』
寝起きのヒグマは「グルォォ……」と大きなあくびをすると、鋭い牙の間からだらしなく生唾を垂らしながら、のっそりと俺の横に並び立った。
「よし。お前、あの木を向こうの空き地まで運べ」
俺が巨大な倒木を指差して命令すると、ヒグマは「クゥン」と犬のような従順な声を出して、倒木に向かって歩き出した。
そして、大人十人がかりでもビクともしない十メートル級の巨木の下に太い前足を差し込むと。
メキバキバキバキィィィッ!!!
「……は?」
小春ちゃんの口から、間の抜けた声が漏れた。
ヒグマは、まるでその辺に落ちている木の枝でも拾うかのような、極めて無造作な動作で、数トンはあるはずの巨木を軽々と持ち上げてしまったのだ。
『うおおおおおおおおっ!?!?』
『嘘だろ!? クレーン車でもないと持ち上がらないサイズだぞあれ!!』
『ヒグマの筋力バグりすぎだろwwww』
『リアル怪力無双! これが山の主の本気か!!』
巨木を両手(前足)で抱え上げたヒグマは、全く重さを感じさせない軽快なステップでトコトコと歩き出し、指定した空き地へとドスゥン!と巨木を投げ捨てた。
「グルォ?(こんなもんでいいか?)」とでも言いたげに、俺の方を振り返って首を傾げている。
「あ、ありえねぇ……。わしらが丸一日かけても動かないご神木みたいな木を、ものの十秒で……」
「アキヤさんちのクマちゃん、とんでもない力持ちだねぇ……!」
村の男衆やおばあちゃんたちが、恐怖を通り越して感動の拍手を送り始めた。
ヒグマは褒められて照れたのか、巨大な体をモジモジとよじり、シロに向かって嬉しそうに尻尾(短い)を振っている。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Unbelievable! This is the ultimate eco-friendly heavy machinery! Master, let me hire that bear for my construction company!“(信じられない! これぞ究極のエコ重機だ! 主よ、私の建設会社でそのクマを雇わせてくれ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Cost-effectiveness is off the charts! This biological bulldozer is a revolution in logistics!“(費用対効果が規格外すぎる! この生体ブルドーザーはロジスティクスの革命だ!)』
世界中のVIPたちも、ヒグマの圧倒的なパワーと労働力に目をひん剥き、極彩色のスーパーチャットを弾け飛ばしていた。
「よし、第一障害のクリアを確認。この調子で、村中の瓦礫を一気に片付けるぞ。……その前に、指揮官の補給だ」
俺は、巨大ヒグマが軽トラ並みのパワーで次々と瓦礫を運んでいくシュールすぎる光景を背景に、いつもの定位置(ローデスク)に座り、タッパーを開けた。
中に入っているのは、完璧な水加減の『玄米』と、備蓄用の『大豆ミートの乾燥ジャーキー』である。
俺は一切の表情を崩すことなく、玄米と大豆ジャーキーをストイックに咀嚼し始めた。
「お兄さん! 後ろでヒグマさんが家を一軒建てられそうな勢いで大木運んでるのに、なんでそんな修行僧みたいな顔で玄米かじれるんですか!?」
小春ちゃんがジト目でツッコミを入れるが、俺は熱いほうじ茶で喉を潤し、涼しい顔で答えた。
「当然だ。現場の兵站(ロジスティクス)において、重機の稼働と指揮官のエネルギー補給は完全に切り離して並行処理されるべきだからな」
俺はカメラの前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。私が野生の巨大ヒグマを手懐けて、村の復興のためにこき使っているマスターのように見えているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『この圧倒的な怪力もふもふ無双の状況で、まだ言い訳するのかww』
『主の限界言い訳タイム・復興作業編ww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「あれは野生の猛獣などではありません。最近、農業協同組合(JA)が試験的に導入した『高性能な農業用重機(四足歩行型モデル)』です。悪路走破性を高めるために特殊なアクリルファーで覆われており、強靭な油圧シリンダーによって数トンの木材も運搬可能。ええ、ただの『最新式エコトラクターの実地テスト』に過ぎませんね」
「よだれ垂らした重機があるかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、強風で折れて落ちていた『手頃なミズナラの木の枝』で、俺の背中に完璧なスナイプ・ツッコミを見舞った。
「高性能な農業用重機ってなんですか!! JAがそんな体毛フサフサで生唾ダラダラ垂らしてる四足歩行トラクター作るわけないでしょうが!! どう見たってシロちゃんに服従した野生のヒグマが、褒められたくて村の掃除手伝ってるだけでしょ!! 素直に『うちのヒグマ最強』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのミズナラ枝スナイプ炸裂ww』
『農業用重機(リアルなよだれと鼻息付き)』
『最新式エコトラクター(サケとハチミツで動く)』
『適応力バグおじさん、ついに山の主をJAのトラクターだと言い張るww』
『言い訳のスケールがバグりすぎてて腹痛いww』
俺の理不尽極まりないメカニカルな限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレの木の枝スナイプに、一千万人の視聴者たちは大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(ふん。働き者の重機で助かるわね)』
シロが呆れたように一つ欠伸をすると、木を運び終えて「撫でて!」とすり寄ってくるヒグマの巨大な鼻先を、ポンポンと肉球で労っている。
「……まぁ、理由はどうあれ。村が綺麗になるなら、それが一番だ」
俺は苦笑いしながら、十勝の青空の下で懸命に働くヒグマを見つめた。
台風の爪痕をものともせず、元需品科のブレないロジスティクスと、規格外の「もふもふ重機」の力によって、限界集落は驚異的なスピードで復興していく。
世界一バグっていて、世界一逞しい限界集落の台風明けの日常は、大爆笑と温かい活気に包まれながら、力強く動き出すのだった。
コメント
1件
もう「農業用重機(もふもふ)」で笑い死にするかと思いましたよw ヒグマが十メートルの倒木を軽々持ち上げる光景、想像するだけで脳がバグる。しかもそれを涼しい顔で「JAの最新トラクター」と言い張る姿勢が完全にブレてなくて最高でした。小春ちゃんのミズナラ枝スナイプも冴え渡ってましたね。台風被害から一転、笑いと活気で復興させるこのテンポ、読んでて気持ちいいです。
ゆうき あきや
4,132
259
#心理描写重視