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◻︎ひまわり食堂開店!

「いよいよだね!進さん念願の食堂のオープン」

いつの頃からか、娘の綾菜は進、もとい、私の元夫のことを、進さんと呼んでいた。

呼び方は他人行儀だけど、関係はこの5年間で密接になった気がする。


「食堂といっても、こども食堂を少しと近所の一人暮らしの人達が集まれる場所を作っただけだから…」

「それでも、還暦過ぎて夢を叶えたんだからすごいよ」


私も素直に褒める。


[ひまわり食堂]は、このシェアハウス(小平家)の一階を改築して作った。

オープンキッチンにしてダイニングとリビングと和室をつなげて20畳ほどのワンルームにしてある。

部屋の真ん中には12人掛けの大きなダイニングテーブルが一つ置いてあり、それでも壁側に余裕があるので小さめのソファが一つ設置されている。


玄関からも入れるけれど、リビングの掃き出し窓に低い階段をつけて、雨除けのサンシェードがあるのでこちらからも入れる。


同居していた綾菜と翔太は、翔太が小学生になるのを機に一年前に、すぐそこのアパートに引っ越した。

綾菜は、離婚する時から始めていたレセプタントの仕事がとても順調で、今は腕時計をしてグループを仕切るチーフにまで昇格していた。


一方、進君は、私との離婚をキッカケに始めた家事全般がとても楽しかったようで、あれよあれよという間に私よりも家事が上達していた。

知らない間に調理師と、食堂を開くための資格も取っていた。


離婚して2年ほどしたとき、進君のお父さんが亡くなり財産分与の300万円を受け取り、進はそれまで勤めていた会社を辞めた。


「決まった仕事でそこそこの給料をもらうのは、もういいや。これからは誰かにありがとうと言われることをやりたいんだ」


そう打ち明けられて、一緒に[ひまわり食堂]の計画を立てた。


自分の作ったものを誰かに食べてもらいたい、一人で寂しいと感じてる人にひとときの賑やかな時間を提供したいがコンセプト。


また綾菜のように、シングルで子育てをしている家庭の、ちょっとしたお手伝いができればということで、子ども食堂もやりたいと言う進。


結婚していた時には見たことがないようなキラキラした目で、夢を語る進君を応援したくなった。


金儲けのためというより、生きがいのためにやりたいらしい。


進君は、もともと建築関係の仕事をしていたので、近所のお年寄りからの依頼で、ちょっとしたリフォームや門などの修理もやっていた。

それも続けたいということで、自治体のシルバー人材派遣に登録して火、木、土は依頼があればそちらへ行く。

なので食堂といっても、基本的には月、水、金の営業になる。





「こんにちは!こっちから失礼するね!」


サンシェードをくぐって、洋子とその元夫の邦夫が入ってきた。


「いらっしゃい!あがって」

「おめでとうございます、これ、うちでとれた野菜です。お祝いのプレゼントとして持ってきたので、ぜひ使ってください」


邦夫が差し出したプラスチックのコンテナには、キャベツやレタス、玉ねぎ、じゃがいも、茄子にきゅうりとトマトまで入っていた。


「うわっ!新鮮な野菜、ありがたいです。美味そうだな、どうやって調理しようかな?」


コンテナを受け取った進君は、早速キッチンへ入って行った。


[ひまわり食堂]のメニューは、毎日日替わりの定食が一種類のみにしてある。

作る手間と、材料を無駄にしないことを目指してるので、必然とそうなった。


予定では、今日のメニューは、鶏肉の時雨煮と高野豆腐と干し椎茸の煮物、すまし汁にサラダ、梅シロップで作った梅ゼリーだ。


ワンコインでの提供予定。

子どもたちにも同じメニューを同じワンコインで提供する。


「子ども食堂にしては高いんじゃない?」


と進君に言ったら


「同じメニューを親御さんの分も持って帰ってもらう」


と言っていた。

親子二人分の値段らしい。

兄弟姉妹がいたら、その時はあと100円追加だとか。


「どうせなら、親御さんも子どもと同じものを食べて欲しいんだよね。働く親ってさ、どうしても自分の分は簡単に済ませるからね。毎日じゃなくてもちゃんと作られたもの、食べて欲しいんだ。そして次の日も頑張って欲しいからさ」


そんなことまで考えているなんて、驚いた。

どこかぼーっとしてて、頼りないと思っていた男が、実はこんなに情熱的に考えていたなんて知らなかった。


「座って。今日は特別にサービスでコーヒーを出すから」


私はコーヒーメーカーを出してコーヒーをセットした。


「いいね、この大きなテーブル。大家族みたいでさ」


洋子が言う。

大きなダイニングテーブルの、どこに座っても一人じゃないというこの配置も進君のアイディアだった。


「テーブルを分ける必要はないと思ったんだ。狭くなるし個人的な食事になっちゃうからさ。親戚の家に来たくらいの感覚でいて欲しいからね」


キッチンから答える進君を、なんだか誇らしく思った。




[ひまわり食堂]の計画をたてたとき、私はラブホテルの清掃員のアルバイトを辞めた。

進君の夢の手伝いをしたくなったから。

一緒にアルバイトをしていたニシちゃんは、貴君と結婚して1年後に妊娠して、私より先にアルバイトを辞めていた。

今頃、何をしてるんだろ?



「こんにちは!開店おめでとうございます」

「ごめんください、もう開店してますか?」


近所の年配のご婦人が続けてやってきた。

どちらも一人暮らしの、70代後半の人だ。


「どうぞ!いらっしゃいませ」


私はエプロンの紐をきっちり締め直して、進と一緒にキッチンに立った。


さぁ、本格的に開店だ。



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