《数時間後》
山亀も上陸し進軍する中、ホワイト団の地上部隊も各々戦線を展開していた。
「そっちに行ったぞ! すひまる!」
魔物を黒刀で斬りつけながら、白髪のボサボサ頭の青年――《カブ》は、仲間へ危険を知らせる。
「は、はい! 【サンダーボルト】!」
少しぽっちゃりとした魔法使い、《すひまる》の杖から雷が放たれ、相手の体を痺れさせる。
「てりゃぁぁぁあ!!」
そこをカブの黒刀が一突きし、魔物は崩れ落ちた。
「情報通りだな。こいつらはメルクスコリプスの毒に弱い……これならゴールドの俺たちでもいける!」
「は、はい!」
しかし油断したその時――土の中から別の魔物が飛び出し、カブに噛みつこうと襲いかかる!
「くそ!」
剣で受け止めるが、体勢を崩されマウントを取られてしまう。
「すひまる! やれ!」
「だ、だめです! カブさんにも当たってしまいます!」
「くそっ!」
防戦一方のカブ。だが、その瞬間――
「てりゃぁぁぁあ!!」
横から振り抜かれた棍棒が、マウントを取っていた魔物をホームランのように吹き飛ばした。
「あー!? マキ! よくやった!」
「あー!? じゃないわよ! 油断しすぎよ! 死にたいの!?」
「あーうるせぇ! これから殺ろうとしてたんだよ!」
「助けられたんだから、ありがとうくらい言いなさいよ!」
「あ、あの……」
「「なに!」」
「ま、まえ……」
呑気に喧嘩していた二人の前――森の奥から、敵の増援が姿を現していた。
「ちっ! マキ! 毒はまだ大丈夫か!」
「任せなさい、たっぷり塗ってきたわ!」
「……あんがとよ、さっきは」
「ふん。アンタこそ、英雄ヒロユキみたいになりたいんでしょ! それまで死ぬんじゃないわよ!」
「当たり前だ! テメーこそ、美少年ジュンパクさんのファンなら会うまで死ぬんじゃねーぞ!」
そう言って、三人は敵へと突っ込んでいった。
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《山亀 背中》
「放て!」
「「「「「おう!」」」」」
バンガの掛け声と同時に、魔法で強化された矢が一斉に放たれる。
矢は空を舞う魔物たちを正確に貫き、次々と地へ落としていく。
「……にしてもいいんですかい? 《熊さん組》なのに、ホワイト団なんかの下について」
「あ?」
「ぐ、がっ!」
軽口を叩いた獣人の首を、バンガは片手で鷲掴みにした。
「てめー、この後に及んでまだそんなこと言ってんのか? 周りを見ろ! みんな世界のために戦ってんだよ!」
「へ、へい!」
乱暴に首を離す。
「もっとわかりやすく言ってやる。あいつら魔族からしたら、俺たちなんざ餌くらいにしか思ってねぇんだぞ。そんな舐められていいのか? あ!?」
「! たしかに!」
「わかったなら、俺たち獣人の力を思い知らせてやれ!」
「「「「おおおおおお!!!」」」」
「…………」
自らも弓を構え、矢尻を敵に向けるバンガ。
(レナノス……お前の言った通り、俺は世界を知らなかったみたいだ。いつかまた、飯でも食いながら聞かせてくれ)
「だから――ここで死ぬわけにはいかんのだ! 【爆矢】!」
バンガが放った矢は、途中で魔力を爆発的に解放し加速。
一直線に空を飛ぶ魔物を貫き、轟音と共に空を裂いた。
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《山亀 ヒロユキ達》
「すごいねアニキ! どんどん敵が減っていくよ!」
「……これが、みんなの力だ」
「へへ、数が多くてもこっちは質が違うってやつだね。向こうから来る魔法攻撃はユキナのバリアで弾いて、登ってくる敵と空から来る敵は別部隊が飛び道具で落とす……完璧!」
「……そうだな」
ジュンパクがウキウキと喋る横で、ヒロユキは浮かない表情をしていた。
「アニキ?」
「……悪い予感がする」
「マジ? アニキの悪い予感って当たるから嫌なんだけど」
その予感は、ヒロユキの【ある感覚】が的中していることを告げていた。
「……!」
「アニキ?」
ヒロユキは頭に浮かんだ魔法名を口にする。
「……【武器召喚】」
刹那――ヒロユキの横に次元の裂け目が開き、そこから一本の日本刀が現れる。
「え!? どうして今!?」
これまで武器召喚は、絶体絶命の時か、それに匹敵する相手が現れた時しか発動しなかった。
つまり――今、刀が出たということは。
「……強敵が、居る」
「強敵って……どこに……」
「……ジュンパク、後は任せた」
「え? あ! アニキ!」
ジュンパクの声を背に、ヒロユキは山亀の背から躊躇なく飛び出した。
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