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番外編
た。
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「ただいまー」
いつも通りの声。
でも――
「……」
返事がない。
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「涼架?」
リビングを見ると、ソファに座っていた。
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「おかえり」
声は普通。
でも、ちょっとだけ冷たい。
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「なにしてたの?」
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「別に」
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短い。
明らかにいつもと違う。
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「…どうしたの」
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「何が」
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「いや、なんか機嫌悪くない?」
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「悪くない」
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でも、空気が重い。
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少しの沈黙。
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「今日さ」
涼架がぽつりと言う。
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「一緒に帰ってたよね」
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「え?」
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「クラスの子と」
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元貴は一瞬考えて、
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「あー、うん」
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「なんで?」
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「なんでって、たまたま一緒になっただけだよ」
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「楽しそうだったけど」
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その言い方に、少しだけ引っかかる。
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「普通に話してただけだし」
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「へえ」
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その一言で、空気がピリッとする。
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「なにそれ」
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「別に」
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「さっきからそればっかじゃん」
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少しだけ声が強くなる。
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「元貴だってさ」
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「なに」
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「“もっと一緒にいたい”とか言っといて、他のやつとは普通に楽しそうにするんだね」
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その言葉に、胸がギュッとする。
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「…それ関係なくない?」
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「俺は関係ある」
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「なんで」
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「嫌だったから」
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はっきり言われる。
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でも――
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「じゃあどうすればいいの」
元貴が少しムキになる。
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「話すなってこと?」
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「そうは言ってない」
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「でもそういうことでしょ」
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言いすぎた、と思った時には遅かった。
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「……」
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涼架が黙る。
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その沈黙が、一番きつい。
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「…もういい」
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「は?」
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「好きにすれば」
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そのまま、立ち上がる。
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「ちょっと待ってよ」
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「なに」
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振り向いた顔が、少しだけ遠い。
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元貴は言葉が出なくなる。
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「……」
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結局、何も言えなかった。
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ドアが閉まる音。
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部屋が、一気に静かになる。
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「……なにこれ」
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さっきまで普通だったのに。
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急に、胸が苦しくなる。
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ソファに座って、スマホを見る。
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さっきのメッセージ。
どうでもいい会話。
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「……」
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「別に、なんもないのに」
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ぽつりとつぶやく。
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でも――
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「……涼架のほうがいいし」
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さっき自分で言った言葉を思い出す。
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なのに、うまく伝わってない。
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「……なんで」
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少しだけ、不安になる。
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「このまま戻んなかったらどうしよ」
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初めて思う。
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いつもそばにいるのが当たり前だったから。
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いなくなるなんて、考えたことなかった。
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「……やだ」
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小さくつぶやく。
元貴はそのまま動けなかった。
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静かすぎる部屋。
さっきまでいたはずの気配が、全部消えてる。
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「……ほんとに、行ったの?」
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当たり前なのに、信じたくなくて。
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でも、待ってても戻ってこない気がした。
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「……探しに行く」
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立ち上がる。
靴もちゃんと履かないまま、外に出た。
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夜の空気が少し冷たい。
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「どこ行ったんだろ…」
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頭の中で考える。
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よく行く場所。
コンビニ、公園、帰り道――
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「……」
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足が、自然とある場所に向かっていた。
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「……ここだ」
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昔よく来てた場所。
ふたりでなんとなく寄ってた、小さな公園。
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ベンチに、人影が見える。
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「……涼架」
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呼ぶと、少しだけ動いた。
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「……なんで来たの」
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振り向かないまま、涼架が言う。
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「なんでって」
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元貴は少し息を整えて、
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「いなくなると思わなかったから」
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正直に言う。
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少しの沈黙。
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「……帰ればよかったじゃん」
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「無理」
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即答。
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涼架が少しだけ振り向く。
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「なんで」
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元貴は、少しだけ迷ってから言う。
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「だって、涼架いないし」
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その一言に、空気が止まる。
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「……」
⸻
「さっきさ」
元貴が続ける。
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「ちゃんと伝わってなかった」
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「なにが」
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「一緒にいたいの、涼架だけだってこと」
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夜の中で、声が少しだけ震える。
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「他のやつと話すのは普通じゃん」
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「でもさ」
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一歩近づく。
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「涼架といるのと、全然違う」
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「……」
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「比べてるわけじゃないけど」
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「でも、やっぱ違うから」
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うまく言葉にできないまま、それでも続ける。
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「だから、さっきの言い方は悪かったけど」
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「離れるのは、やだ」
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はっきり言う。
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涼架はしばらく黙っていた。
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「……元貴」
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「なに」
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「ほんと、そういうとこズルい」
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少しだけ困ったように笑う。
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「なんで毎回、ちゃんと欲しい言葉言うの」
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「知らないよ」
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元貴はちょっとだけムッとする。
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「思ってること言ってるだけだし」
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その言い方が、逆に真っ直ぐで。
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涼架は小さく息を吐いた。
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「……俺もごめん」
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「え」
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「ちょっと嫉妬して、言い方きつくなった」
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元貴は一瞬きょとんとして、
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「やっぱ嫉妬じゃん」
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「うるさい」
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でも、少しだけ空気がやわらぐ。
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「ねえ」
元貴が言う。
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「帰ろ」
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「……」
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「一緒に」
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その言葉に、涼架は少しだけ目を細める。
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「…うん」
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立ち上がる。
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でも――
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「元貴」
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「なに」
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「もうちょいこっち来て」
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「え?」
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呼ばれて、近づいた瞬間――
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ぐっと腕を引かれる。
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「わっ」
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そのまま、軽く引き寄せられる。
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「……」
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「……なに」
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「確認」
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「は?」
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「ほんとに、俺のほうがいいか」
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元貴は一瞬固まって、
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「なにそれ」
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でもすぐに、
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「当たり前じゃん」
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って、少し照れながら言う。
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その答えに、涼架が小さく笑う。
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「ならいい」
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ゆっくり離れる。
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「帰るよ」
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「うん」
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今度は、自然に並んで歩く。
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さっきまでの距離が嘘みたいに、近い。
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「ねえ」
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「なに」
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「さっきさ、ちょっと不安だった」
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「どのへん」
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「戻ってこないかもって」
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正直に言う。
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涼架は少しだけ驚いてから、
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「戻るに決まってるでしょ」
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「でもさ」
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「元貴置いてどっか行くとか、ありえないから」
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その一言で、胸が一気に軽くなる。
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「……そっか」
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「うん」
⸻
そのまま、軽く腕を引かれる。
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「離れないって言ったでしょ」
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元貴は少しだけ笑って、
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「うん、覚えてる」
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夜の帰り道。
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さっきまでの不安は消えて、
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ただ、隣があった。
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もう――
探しに行かなくてもいいように。
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ちゃんと、つかまえておくことにした。