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明るい日差しが私を照らす。
夏休み。
いつもは大好きな長期休みが今回は何故か退屈に感じる。
瑞稀に会えないからだともう簡単に分かってしまう。
その時、電話の音が鳴り響く。
私のポケットからだった。
「はい、もしもし」
「あ、凛華?おばあちゃん家どう、楽しんでる?」
「うん、結構。田舎とか久々だから心洗われるよ」
そう。私は祖母の家に帰省している。
母方の祖母の家で自然豊かな町だと思う。
コンビニは無いし見渡す限り海と山だけれどいい所だ。
「いいなぁ、私も行きたい!」
「今度行こうよ!冬は寒いかな?」
「寒くても大丈夫!強いからね」
「さすがです」
瑠那と他愛のない会話をするのが好き。
きっと瑠那もそう思っているはず。
「そういえばさ、夏祭り瑞稀誘わないの?」
「え、えぇ?誘えないよ」
「でもさ、そんなんじゃいつまで経っても進展しないよ?」
「うーん、。そうだけど」
「じゃあ決まり!頑張って誘いなよ!」
「わかった。じゃあね」
「はーい、じゃあね」
瑠那の土壇場な提案に驚きつつも少し嬉しかった。
夏祭りに瑞稀と会えるかもしれない。
期待と想像が膨らむ。
けれど、どうやって誘おう。
もしかしたら瑞稀はあの先輩を誘っているかもしれない。
いや、弱気になってはいけない。
瑞稀が誰を好きであろうと私は瑞稀が好き。
会いたいから、誘うだけ。
瑞稀が誰を好きとか関係無い。
「なぁ律、今年の夏祭りどうする?」
「今年は俺親父の屋台手伝うから一緒に行けねぇよ?」
「えぇ?!まじかよ、」
律がいないとなると誰を誘おうか。
それは、もちろん苺華先輩だ。
「チャンスなんじゃない?佐藤先輩誘えば」
「俺も今考えてたんだよ」
「でもさ、苺華先輩って男いるって結構噂聞くから断られるだろ」
「なんでそんなの知ってて好きなんだよ」
面白可笑しそうに笑っている律は途端、意味がわからないという顔になりこっちに体を向けた。
「じゃあさ、凛華誘えば」
「は?なんで凛華」
「そもそも凛華のこと好きなのはお前だろ」
「いや、うん」
「何、好きじゃないの」
「んー、好きだと思うんだけど今は水野のこと気にかけちゃってさ」
「嘘だろ、瑠那は彼氏いるぞ」
「分かってるけど、」
律にしては妙に真剣な顔だった。
いつもはこんな風に悩まず強行突破する奴だから意外な一面だ。
「凛華に気持ち伝えれば?そしたらスッキリするだろ」
「告白したって水野に知られたくない」
「じゃあ瑠那に言えば?」
「彼氏、いるだろ 」
律はきっと嘘が付けない。
きっと律が今、好きなのは凛華じゃない。
「お前、瑠那が好きなんだろ?」
「うん」
「大丈夫、いつか言えるだろ」
いつもと違う律はあの日から瑠那が夢見ていた律なのだろうか。
あれは中学三年生。
俺と瑠那は同じクラスで仲も良かった。
「ねぇ、瑞稀」
「なんだよ」
「酒井って好きな人いるの」
突然聞かれたことに俺は驚きつつも少し嬉しい自分がいた。
あの物静かで人と話さない律を好きだと言ってくれる人もいるのだと感激した。
「あー、なるほどね」
「いないと思うよ」
「なるほどって何?とりあえすありがと!」
ぶっきらぼうで自分のことは多く語らない、ただ人の話を聞く側にまわる瑠那を俺は尊敬もしていたし大切だとも思っていた。
律も瑠那も大切な人だった。
それから俺は瑠那の恋愛相談を快く引き受けることにした。
いつもは話さない瑠那の事を聞くのが好きだとも思った。
大切な友人達が上手くいって欲しいという気持ちもあった。
その時瑠那から聞いた話で特に印象的だったのは律が瑠那をいじめから救った話。
瑠那はその時の律をヒーローのようだったと言っていた。
そんな風に律の事だけは楽しそうに話す瑠那をとある事情が壊した。
「ねぇ瑞稀。私酒井の事諦めるよ」
唐突で意味が分からなかった。
その前の日まで楽しそうに律のことを話していたのにいきなり気が変わるわけが無い。
俺は瑠那に何があったのかと聞いた。
「隣のクラスの美亜ちゃんっているでしょ?」
美亜ちゃんというのは俺が通っていた中学ではいちばんモテるし可愛いと話題だった。
誰にでも態度を変えることなく優しい話し方をする人。
「美亜ちゃんも酒井が好きらしいの」
その時の瑠那の瞳から初めて見る涙が流れていた。
余程苦しいのだろう。
「諦めなければいいだろ」
無責任な俺はそう言うしか無かった。
「諦めないなんて出来るわけないでしょ!美亜ちゃんと好きな人が被ってるなんてバレたら取り巻きに何されるか分からないよ」
瑠那の必死な顔は今でも思い出すことができる。
いじめられた瑠那だからこそ分かる友情の怖さが必死さから物語っていた。
瑠那は公園のベンチから駆け出し涙で濡れた顔のまま走って行く。
俺はその時、大事な友人に何をすればいいのか分からなかった。
苦しかった。
ただただ辛くてしょうがない。
私はまともに恋もできない。
辿り着いた場所はあの日、酒井が隣にいてくれた河川敷だった。
私はあの日と同じように座り泣きじゃくった。
酒井は美亜ちゃんに告白されたなら付き合うのだろう。
私は素直じゃないから好きになって貰えない。
「水野!」
酒井の声だった。
振り返りたいのに振り返れない。
好きな人にこんな顔を見せたくない。
「また、いじめられたのか?」
当たり前かのように私の隣に座りハンカチを差し出した。
「違う、ただ苦しくて」
「何があったの」
涙を拭ったハンカチからは彼の匂いがした。
どこか安心する匂い。好きだと思った。
「言えない。でも私は自分の意思を貫くことは出来ないんだと思う」
「そうだよな、水野って自分のこと余り話さないよな」
意外な一言だった。
酒井なら励ましてくれるそんな淡い期待を抱いていたのかもしれない。
「自分ばっかじゃなくて人の話を聞く側にまわるって誰でも出来ることじゃない」
「水野はさ優しいんだよ。誰かを周りを見て行動できるのはすごいと思う。 」
「だからもっと自分を知ってもらおうとしていいんだよ」
「周りの友達に言えなくても俺に水野のことを教えて欲しい。瑠那のことを知りたい」
認めて欲しい。私を知って欲しい。
それだけだったんだと思う。
彼はそれをいとも簡単にしてくれる。私を見てくれる。
それだけで嬉しかった。
酒井のことを好きで良かったと思う。
「ありがとう。私のずっとそばにいてね」
「いるよ。絶対に」
酒井はその後亜美ちゃんに告白をされたが断ったと聞いた。
安心した私と瑞稀になんと言おうか迷っている私がいた。
私の事は彼にだけ知って欲しいと思ってしまう私がいてしまった。