テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
夜、月明かりが屋敷を照らしていた。縁側で空を見上げていたレンに、背後から低い声が届く。
「レン様、夜風にあたりすぎると体に障りますぞ。」
振り返れば牛鬼が控えている。
すると廊下の奥から、牛頭丸と馬頭丸の声が重なった。
「おーい姫さん! そんなとこで黄昏てると、牛鬼様に心配されるぞ!」
「そうそう、姫さんが風邪ひいたら俺らまで牛鬼様に怒られるからな!」
レンは軽く肩をすくめ、縁側から立ち上がった。
「大げさだな、牛鬼もお前たちも。私は丈夫だよ。」
「そうは言っても、レン様はこの屋敷の柱。大事にせねばならぬのです。」
牛鬼は変わらぬ低い声で諭す。
牛頭丸と馬頭丸が顔を見合わせ、同時に笑った。
「ほらな、言ったとおりだろ。」
「牛鬼様に怒られる前に、姫さんを連れてこいってさ。」
レンは思わず苦笑する。
こうして騒がしい彼らに囲まれている時間は、決して嫌いじゃない。
けれど胸の奥では――どこか、足りないものを探してしまう。