テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

Eliminator~エリミネ-タ-

一覧ページ

「Eliminator~エリミネ-タ-」のメインビジュアル

Eliminator~エリミネ-タ-

105 - 第105話 七の罪状 ~前編22 世界が変わる瞬間

♥

3

2025年06月13日

シェアするシェアする
報告する


「――最低だな……俺は」



幸人は振り返りながら、自傷気味に呟いていた。



想いに真に応える事が出来ぬまま、亜美を抱いてしまった事実。これは消せない。どんな形であれ、彼女がそう思わなくとも望んだ事だったとしても、己の欲望の赴くまま行動した事に変わりはない。



ならせめて彼女だけは――“亜美だけは絶対に助ける”



それは決意だった。例え自分が命を落とす事になったとしても、それだけは頑として。



――気付いたら既に陽も昇っていたようだった。



亜美の事は当然心配だ。ネオ・ジェネシスの事もある。



だが表としての日常は何時も通り始まるし、待ってはくれない。



幸人は一睡もしてないし、またそれ処でもなかったが、淀んだ思考を覚まそうと珈琲を淹れる事にした。



悠莉はまだぐっすりと眠っている。無理に起こす必要は無いだろう。



珈琲を淹れている最中、携帯から着信音が鳴り響く。



一瞬『亜美から!?』と期待したが、何の事はない。着信の主は琉月から。



幸人は肩を落とすが、直ぐに気付く。直接裏より連絡が有るという事はだ。



「どうした?」



幸人は逸る気持ちを抑えながら電話に出る。それは十中八九、ネオ・ジェネシスの出所が掴めたという報せに違いないからだ。



『雫さん……やられました』



だが琉月からの報せは大方間違ってはいなくとも、期待に添えるものではなく、寧ろ予想を遥かに越える報せであった。



「やられたとはどういう事だ? 奴等か!?」



考えられる事。それは『ネオ・ジェネシス』に先手を打たれ、自分達以外の狂座の面々は既に――



『今自宅ですか? ならテレビのニュースを御覧に!』



「ニュース? それはどういう……おい琉月!?」



『いいから早く! その方が早いと思われます』



だが琉月の言っている事は、それとはどうやら違う。珍しく彼女の声に焦りがあった。



「う~ん……どうしたの? ルヅキから?」



やり取りに反応したのか、悠莉がジュウベエを抱えながら寝惚け顔で起き出して来た。とことこと居間のソファーへ倒れ込むように座り込む。



「ああ……。悠莉、テレビを点けてくれ」



「は~い。ああ幸人お兄ちゃん、ボクにもカフェオレ~」



悠莉は眠たそうに返事し、リモコンからテレビを点ける。



「――って、嘘ぉ!?」



点けた瞬間、思わず眠気も覚める程だった。



「マジかよ……」



ジュウベエも画面に釘付けになった。



液晶画面には緊急ニュースが報道されている。



「何……だと?」



幸人は携帯を耳に当てたまま、よろよろとテレビの前へ。



『ええ……。まさかこんな短時間で。私達はどうやら、少なからず彼等を侮っていたのかもしれません』



この事実に琉月からの声も、何処か遠くに聴こえた。



“突然発生した観測史上最大級の暴風圏がワシントンD・Cへと直撃。現場はホワイトハウスもろとも壊滅状態であり、市民含むアメリカ大統領の安否は不明。生存は絶望的か”



それが緊急ニュースの大まかな報道内容だった。



勿論、それ程の暴風圏が突然発生する訳がない。



彼等が真っ先に思うは、これは人為的――『ネオ・ジェネシス』の手に依るものだと確信。



それにしても州ごと壊滅させるという、この異常事態。



確かに『ネオ・ジェネシス』が、最初から世界的クーデターを起こす事は明言していたとしてもだ。



かつての『9・11』を超えるテロ行為、信じ難い程の暴挙に、流石の幸人もテレビの前で混乱するしかない。



今は未曾有の大災害として報道されてはいるが、これ程の被害は間違いなく世界的な混乱をもたらすだろう。



『――さん? 雫さん!?』



「あ、ああ……」



遠くに聞こえた琉月の声に、ようやく我に返ったかのように反応する幸人。



『いいですか? 今から私もそちらに向かいますので』



「は? ちょ、ちょっと待て――」



耳に入っていなかったが、琉月の用件は今から此所に来るという事。幸人が止める間も無く――



「あぁ! ルヅキ~いらっしゃい」



琉月が一緒で室内にその姿を現していた。悠莉が彼女の訪問を歓迎する。



“ちょっと何を勝手な――”



「ふぅ……」



幸人は出かかっていたのを呑み込み、代わりに溜め息を吐いた。



「いきなりお邪魔して済みません――が、悠長にしている事態ではありませんので……」



確かに夜を待って改めて、という訳にもいくまい。



「いや……構わん」



今は一刻も早い対策が必要だ。



「大変な事になってしまいましたね……。これでは最早――」



琉月は頭を悩ませながら、ソファーに座る悠莉の隣へと腰掛けた。



「これからどうなるのかなぁ? あっ! 幸人お兄ちゃん、ルヅキにもカフェオレをね~」



「そんな御構い無く。ああ雫さん、兄――薊と時雨さんも此方に呼んでいますので」



「……あ、ああ分かった」



琉月の二人も此所に来るという案に、幸人は『マジかよ』と肩を落とすが、現在の狂座の現状を考えれば当然の事。



幸人は一応、全員分の『お茶』の準備に取り掛かる。



「――寝過ごしちまってた。ごめん琉月ちゃん」



「邪魔をする……」



時雨と薊が一瞬でこの場に姿を現したのは、それから少しの間を置いてからだった。



****



居間内は一瞬で大所帯の様相。だが和気藹々に――という訳にもいくまい。各々が神妙な面持ちで、液晶画面を食い入るように見詰めていた。



「不味いな……」



最初に口を開いたのは薊だ。不味いとは幸人の淹れた珈琲の事ではなく、状況に対してだ。



報道規制か、どのチャンネルも今回の件で持ちきり。新たな進展は無いが。



「ええ……」



「仮にこれが自然災害で終わったとしても、世界情勢は只じゃ済まんだろうな。ったく、やってくれるぜ奴等――ってか霸屡の野郎は何やってんだこんな時に」



そう言えばと時雨は見回す。一番重要で、現狂座の要とも云える霸屡の姿が見えない事に。



誰もが彼も来るものだと思っていたのだが――



「済みません……何故か連絡が取れないのです。彼と」



琉月が申し訳なさそうに。いの一番に彼とは連絡を取り、指示を仰ぎたかった筈だが、連絡が取れない事にはどうしようもない。



彼女もきっとこの事態には不安で仕方無いのだ。



「るっ――琉月ちゃんが謝る事はないよ! それにしてもあの野郎、肝心な時に役に立たねぇ。元から胡散臭い奴とは思ってたんだよ」



時雨の言う事は尤もだ。誰も反論しないのは、このままでは身動き出来ないから。



こうしている間にも『ネオ・ジェネシス』の面々が、更なる次の一手を打つかもしれないのだ。



一刻も早く、奴等を殲滅せねばならない。取り返しのつかない、公になる前にだ。



もどかしかったが『ネオ・ジェネシス』の所在もまだ判明していない以上、勝手に動く事は出来ない。



――霸屡からの連絡が無いまま、刻一刻と無為な時間だけが過ぎていったが、報道からは新たな進展があった。



“ワシントンD・Cを襲った未曾有の暴風圏。これは人為的なものか? 発生事前にホワイトハウスにて、テロ行為が判明。通信記録では軍隊も出動していた?”



「――なっ!」



新たに判明した報道内容に一同唖然。



もっとも危惧していた事。それはこの災害が、人為的である事が公になったからだ。



「やべぇ……」



これがれっきとしたテロ行為である事が明らかになれば、これまでと事情が異なる。



世界の大混乱と、裏の存在が表に公になるという一大事に。



今でも最早引っ込みが付かない程だが、追い討ちを掛けるように更なる報道が――



“たった今入った情報によりますと、この災害は『ネオ・ジェネシス』を名乗る、国際的テロ組織の仕業であるという犯行声明が上がりました。そしてこれからウェブ上にて、このテロ組織の長とされる人物から、世界へ向けての配信声明があるとの事です――”



これには誰もが開いた口が塞がらなかった。



「奴等……裏の存在を表に公にするつもりかよ!?」



「考えたな……」



「何て事を……」



しかもネット配信による声明。これでは隠す事も出来ないし、大勢の目に晒される事は明らか。



現在時刻は午前八時四十五分。報道では九時丁度に一斉配信される事が伝えられていた。



「――って、もうすぐじゃねぇか! おいパソコンを」



慌てた時雨が幸人にパソコンの電源を点けるよう投げ掛けるが。



「落ち着いてください。各自、携帯の方を」



「あっ! そうか」



動画は携帯で見れる。琉月を皮切りに、各々が携帯を取り出した。



「霸屡からの連絡はまだか?」



薊が再度確認を促す。



「まだです」



「ちっ、何やってんだよホント――」



公開まであと数分しかない。このまま黙って事の成り行きを見るしかないのは、彼等にとっては歯痒くで仕方無かった。



そして更に、報道ではこの配信をこの場で生中継する事が伝えられる。



「何考えてんだ此処は!?」



どうやら『ネオ・ジェネシス』側から、直接圧力が掛かったらしい。



真意の程は分からないが、この配信はウェブ上だけではなく、全国のお茶の間にも流れるという事だ。



「凄い祭りになってる……。サーバーダウンしそうな勢いだよ~」



携帯で巨大掲示板を見ていた悠莉が、その勢いに舌を巻いた。



混乱に乗じて転覆を謀る――“これが狙いか?”



そうだとしてもここまで大事になった以上、最早この流れは止められそうもなかった。



公開まで――“世界が変わる瞬間”まで、あと一分。

loading

この作品はいかがでしたか?

3

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚