テラーノベル
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「これは……まずい。非常に、まずい」
非常にまずい事態が起きていた。
元凶は、足元にある。ピピッ、と無機質な音を立てた体重計。
そこには、僕の人生史上、見たこともない数字が表示されていた。
――おかしい。
これは何かのバグだ。
娘のゆずは一歳頃から保育園に通い始め、ひよりさんも職場復帰を果たした。
それからというもの、僕はほぼ毎日、彼女と同じものを食べ、同じようなタイムスケジュールで生活している。
なのに。なぜだ。彼女の体型は、出産前と何ひとつ変わらず、スラリと美しいまま。
対する僕は――。
10キロ、増量。
「…………」
体重計を、そっと降りた。もう一度、乗る。
ピピッ。数字は、変わらない。
「……壊れてないのか」
壊れていてほしかった……。
会社では、同期の佐藤に盛大にコーヒーを吹き出された。
「ぶふっ! おいおい、なんで出産してないお前が産後太りしてんだよ」
「うるさい。これは幸せの重みだ」
「幸せの重みじゃねえよ。俺と同じメタボコースだろ」
「違う。僕はまだそちら側には行っていない」
「もう片足どころか、腹から突っ込んでるぞ」
呆れられる始末。だが、真の絶望は我が家にあった。
もうすぐ二歳になる娘、ゆず。彼女は、遺伝子配列のどこかに「イケメン判定機能」が組み込まれているとしか思えないほど、無類のイケメン好きだった。
この間の日曜日。リビングで起きた公開処刑事件を、僕は忘れない。
ひよりさんがスマホを片手に、自分の兄である大地さん、うたのお兄さん、人気絶頂のイケメンアイドルの写真を、次々とゆずに見せていた。
「ゆず〜、この人、イケメン?」
「いけめーん!」
満面の笑みで、ぱちぱちと拍手。
「じゃあ、この人は?」
「いけめーーん!」
目が、明らかにキラキラしている。
ひと通り目の保養を終えたところで、ひよりさんが言った。
「じゃあ……パパは?」
僕は淡い期待を込めて、顔の横で精いっぱい両手を振った。娘に向けて、最高の父親スマイルを発動する。
しかし、娘の答えは――。
「ちがうっ!!!!」
即答だった。しかも、全力だった。両手をブンブンと横に振り、全身で否定している。
「パパは、いけめんじゃ、なーーーーい!!!」
「…………」
なぜだ。なぜ、そんなに怒る。パパが何をした?(泣)
「これは、さすがに心に来る……」
「ふふっ。大丈夫です」
「何が……?」
「私は好きですよ。どんな陽一さんでも。このぷにぷにのお腹も」
「フォローが致命傷になりました……」
彼女は僕のお腹をぷにぷにしながら、楽しそうに笑っている。
もうすぐ、初めての保育参観がある。
そこには、眩しすぎる20代のシュッとしたパパたちもいるはずだ。
片や僕は、30代後半。しかも現在、絶賛中年太り中。
このままでは、娘に塩対応どころか、見捨てられてしまうのではないか……。
僕は鏡に映る、わずかに丸くなった顎をつまんだ。そして、固く決意した。愛娘を振り向かせるために。
「保育参観までに、絶対にスリムイケメンパパになってやる……!!」
桜咲かな
269
植まどか
958
#甘々
コメント
1件
あははは!「パパは、いけめんじゃ、なーーーーい!!」の全力否定、めっちゃ笑ったw しかも「ちがうっ!!!!」って即答&全身ブンブンって…娘さん、判定機能エグいな!笑 でも陽一さんの「これは幸せの重みだ」って言い訳とか、ひよりさんの「このぷにぷにのお腹も好き」フォローが致命傷になる流れ、なんかもう全部にほっこりした。保育参観までにスリムイケメンパパ目指すって決意も、父親としての愛がにじんでて応援したくなる🔥 どんどん人の心を掴む日常エピソード、毎回楽しみにしてるよ!