テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
30
#佐野勇斗
🍓
613
⚠️注意
お名前をお借りしているだけで本人様とは何も関係はなく、全て捏造になります。
___________________
「だぁからぁ~、どうしたら太智と付き合えるかって話をしてるのよ、俺は」
「はいはい、飲みすぎ。一旦、水飲んで落ち着こや」
叩きつけるようにグラスを置いた仁人を窘めるように、舜太は呆れた様子でお冷を差し出してきた。
だが、すっかり生ぬるくなった少量の水では、アルコールで茹だった頭を冷やすことなんてできるはずもない。
仁人はグラスをがっと掴むと、男らしく一気に飲み干した。そして、まだ熱の残る口調のまま、再びまくし立てる。
「大体さあ、なんで気づかないわけ? 俺、結構頑張ってると思わない? 普段のレッスンでも多めにアイコンタクト取ったりさ、個人チャンネルの方で太智の喜ぶ顔が見たいから色々してあげたりさ。俺が他の人にしないなーってこと、たくさんやってあげてるじゃん。なのになんで太智って気づかないんだろ。あ、ありがとうございますー。これも下げてもらっていいですか? あと、ハイボール一つ」
店員が運んできた皿を受け取り、流れるように使用済みの皿を店員の方へ寄せる。
いくら喋っていても、いくら酔っていても、こういう気遣いを欠かさないところが仁人の良いところだった。
受け取った卵焼きを、仁人は舜太の方へ差し出す。好きなだけ食べろ、ということらしい。
「吉田さんってさ、今日コンタクト入れてるん?」
「いや? 入れてないよ。メガネも忘れてきたけど、困るくらい視力が悪いわけじゃないし」
「あ~、なるほどね~。ほな、しゃあないか……」
「何、その言い方。ちゃんと見えてるよ」
てか吉田さんって何? 太智みたいな呼び方するじゃん、と詰めれば、舜太は「ごめんごめん」と適当に流しながら、差し出された卵焼きを切り分け始めた。
確かに、酔いによる眠気で若干瞼は下がっているし、視界も霞んではいる。けれど、心配されるほどではない。
運ばれてきたハイボールを受け取り、そのまま煽る仁人を横目に、ずっと聞き役に徹していた舜太が口を開いた。
「仁ちゃんはさ、太ちゃんと付き合いたいんやろ? なら、そのまま告白したらええんちゃうの?」
「できるかぁ! 俺の気持ちに気づいてもらった上で、告白とかの段階に進みたいのよ。だって、小学生くらいからの付き合いのやつから急に告白されるの、怖すぎるでしょ? だから、俺は太智のことが好きですよ~っていうのを、なんとなく匂わせてあげてるわけ。まあ、気づかれてないけどさ」
「……ほーん。大丈夫やと思うけどなあ。太ちゃんなら、急に告白しても『ほな、付き合おか!』って言ってくれるで」
「なにその根拠のない自信。はったおすぞ」
酒のせいか、いつもより高くなった声で舜太はケラケラと笑った。
こっちがどんな気持ちで相談していると思っているのか。きっとこの末っ子的には、奢りや! ラッキー! ♪くらいの気持ちで話を聞いているのだろう。
でも、こんな話をできる人も今までいなかったわけだし、聞いてくれているだけマシか。
「……てか仁ちゃん、そろそろお酒止めた方がええよ。目、据わってきてるから」
「ん、まあそろそろか……。時間も遅いしな」
時計を確認すると、そろそろ日付が変わりそうな頃だった。
明日はお互い午後からの仕事とはいえ、コンディション的にもこれ以上長居するのは良くないだろう。
仁人は自身のカバンから財布を取り出し、立ち上がろうとした。
その瞬間、酔いのせいか足がもつれ、身体が大きく傾く。
「あっ」
「ちょっ……危ないで。俺、代わりに払ってくるから財布借りるで」
「あ、ありがと……」
よろける仁人の身体を、舜太がグッと片手で支える。
言われるがまま財布を差し出すと、舜太はそれを受け取って、そのまま個室の外へ出ていった。
……てか、こいつこんな力あったか?
戻ってきた舜太は、会計のついでにどこかへ電話をしていたらしく、耳元にスマホを当てたまま個室へ戻ってきた。
「仁人、タクシーすぐ来るから先乗りや。多分、自分で思ってるより酔ってるで」
そう言って、舜太は座ったままの仁人の手を掴み、立ち上がらせる。
酔いで覚束ない身体と、手を引かれた反動。
そのまま仁人は、舜太の胸に飛び込むような形になった。
それでも舜太の身体は、びくともしなかった。
身体が密着したことで、アルコールの匂いが鼻を突く。
その中に、ほのかに香る、知っている匂い。
……どこで嗅いだんだっけ。
舜太に支えられるようにして店を出ると、ほどなくしてタクシーが店の前までやってきた。
舜太は仁人をタクシーへ押し込み、運転手にも何やら軽く話をしているようだった。
仁人はそれを、ふわふわする頭で何となく聞いていた。
「じゃ、また明日な。……あと、明日怒らんといてな、仁人」
ドアが閉じる直前、舜太はそんなことを言った。
呼び捨てにするな、と悪態をつく間もなく、仁人の意識は暗闇へと落ちていった。
***
「……おはよ。昨日、色々面倒かけてごめん」
「あ! 仁ちゃんおはよ! 俺より来るの遅かったってことは、やっぱ昨日盛り上がったん?」
「は? どういうこと?」
「ん? どういうことって……昨日、途中から太ちゃんと二人やったろ? 俺、もうお腹いっぱいやったし、埒あかんしで、途中から太ちゃんにバトンタッチしたやんか~」
「…………は?」
「で? で? どうだったん? ちゃんと告白できたん?」
「いや、ごめん、待って。ちょっと整理させて欲しい。え、どのタイミング? 全然覚えてないんだけど――」
楽屋のドアノブが、ガチャ、と音を立てて回る。
見慣れた黒いTシャツがその扉の奥から見えるより先に、かすかに嗅ぎ慣れた匂いが鼻腔をくすぐった。
……そっか。
あれ、太智の匂いじゃん。
コメント
1件
わおんさん、読ませていただきました! 酔っ払った仁人のタメ口と、それを諌める舜太の距離感が絶妙で、最初から引き込まれました。そして「明日怒らんといてな」からの翌朝――舜太が途中で太智にバトンタッチしてたっていう流れ、完全にやられました。仁人が覚えてない間に何があったのか、すごく気になります。ラストの「あれ、太智の匂いじゃん」で繋がる構成が綺麗で、続きが待ち遠しいです!