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【能力者名】独絵三十九秒
【能力】 アンハッピーリフレイン
《タイプ:友好型》
【能力】 勉強中、鉛筆を転がすことで
時間を39秒巻き戻すことができ
る。
(テスト中や勉強以外では使用
できない。)
【以下、細菌達の記録】
(ロカ先生達が小テストについての会議をしていた頃、1年B組の教室にて。)
「頼む、独絵さん。独絵さんのノートを移させてくれ!!!」
妖怪沢どろりが、教室の前に独絵三十九秒へと 頭を下げた。
「……いいわよ。」
呆れた顔で三十九秒はどろりに全教科のノー卜を差し出した。
「いいのか!!?まさか、一回でOKしてもらえるとは….!!」
どろりはこれは僥倖と言った風によろこんだ。
(一回じゃないわよ。もう33回は断ったわ。)
苦々しげに独絵三十九秒は心の中でも呟いた。
独絵三十九秒の能力は《アンハッピーリフレイン》、これは勉強中のみ、鉛筆を転がすことで 時間を39秒巻き戻す能力である。
この能力は 三十九秒の《勉強で誰にも負けたくない、妹に 勝ちたい》という強い願いが能力となったものであった。
そのため、独絵三十九秒は勉強を 邪魔されるのが死ぬほど嫌いだった。
彼女は《アンハッピーリフレイン》であらゆる方法を使いどろりに勉強の邪魔をされるのを阻止しようとした。
しかし、逃げても隠れても、たのむからやめてと言っても大声でやめろと言ってもビンタしても参考書でパンパンの鞄でぼこぼこにしてもどろりは立ち上がり三十九秒にノートを見せてもらおうとした。
(なんなのこの男…..。なにがここまでこの
男を突き動かすの??)
独絵三十九秒は本気で困惑していた。
そこで33回目でようやくさっさとどろりにノートを写させて帰ってもらった方が早いことに 気がついた。
「ありがとう、テスト範囲をすべて写させてもらったよ。なにもお礼をしないのはよくない、何かお礼をさせてくれないか?」
とノートを取り終えたどろりは言った。
「そう思うなら早く失せなさい。私は勉強の
邪魔をされるのが妹の次に嫌いなの。」
そう言って独絵三十九秒は冷ややかな目で
どろりを見た。
どろりはそんな彼女の視線をものともせず。
「それじゃ、なにか困ったことがあったら
僕たちボランティア部に相談してくれ。」
とヒラヒラと手を振って去っていった。
「…….(溜め息)およそ5分の損失だわ…….。 勉強しなくちゃ、《アンハッピーリフレイン》があっても時間は有限なんだから。」
そう言って独絵三十九秒は放課後の3時間1年B組の教室で自習をした。
正確には、《アンハッピーリフレイン》を使い、時を巻き戻しながら 39時間勉強をした。
実際問題、どろりのとった行動はこの小テスト戦争における最適解の内の一つであった。
今回の小テストの最適解は3つ。
《独絵三十九秒のノートを写させてもらうこと。》
《先生達から小テストの問題のデータをばれずに盗み取ること。》
《赤点をとらないようにちゃんと勉強すること。》
であった。
独絵三十九秒は過去20年米津高校で 行われていたテストの過去問全てを 網羅していた。
そして 各教員の性格や問題傾向も完璧に分析し、テストに出るであろう部分を完璧に、丁寧に、 そして分かりやすくまとめあげていた。
どろりはSNSの情報と、これまでクラスで聞いた会話から、独絵三十九秒のノートを写させてもらうことがこの小テスト戦争の最適解であることを予感し、迅速に行動してみせた。
これは目的のためなら手段を選ばないどろりの 行動力のなせる技だった。
(よし、あとはこのノートを海街と表裏一体に送って…….あいつら、ちゃんと勉強してくれるといいけど…….。)
どろりはボランティア部二人の、特に海街深蔵の成績を気にした。
海街の異空間に防音室を 作る能力《深海シティーアンダーグラウンド》はどろりの悪者狩り、《ボランティア活動》に必要不可欠だったからだ。
(どうかボランティア部全員、ロカ先生に
能力を壊されませんように。)
どろりは無神論者だったがこの時ばかりは
神様にお祈りをした。
【帰宅後、どろりの自宅にて】
「ただいま、お母さん。」
どろりは自分の母、妖怪沢とろみにただいまを言った。
(ただいま、お父さん。)
と、どろりは心の中で呟いた。
「どろりおかえりー、聞いたよーなんでも
赤点とったら能力壊されて補修なんだってねー?あんた能力ないからって赤点とっちゃだめよー?ちゃんと勉強してるのー?」
どろりの母とろみは夕食のカレー用の玉ねぎを 切りながらどろりに言った。
とろみはどろりが能力者であることを知らない。
どろりがその凶悪な 能力で父親の存在を溶かして消してしまったこともまるで覚えていない。
「平気だよ、母さん。地方の公立大学に行くんだ。ちゃんと勉強しなきゃね。」
「えらいじゃん、どろりー。あんたを妊娠した時は父親がわからないからすごく不安だったけどこうやって立派になってお母さん嬉しいわー。」
母親が風俗で働いていた時に避妊に失敗して
出来た子。
母とろみの中ではどろりとはそう言う存在のようだ。
実際、どろりが能力《メルト》で父親を溶かして存在ごと消すまでとろみは風俗嬢になどなったことはなかった。
これは どろりの現実改編能力によって起こった歪みを世界が 無理やり辻褄を合わせた結果起こった認識の齟齬なのだろう。
カレーを食べ終えた後、どろりは一通り勉強を済ませて、そしてSNSにアップされている この間の悪鬼退治のロカ先生の動きを何度も 確認した。
早すぎて目で追えなかったので 超スロー再生にして何度もロカ先生の動きを 確認した。
どろりが悪鬼退治を直接見に行かなかったのにも 理由がある。
ロカ先生に対する自らの殺気をロカ先生に
悟らせないためである。
(ロカ先生はいい人だ。でも先生が能力を壊して回っている以上、いつかはぼくと敵対する 可能性がある。指を加えて見てるのはよくない、それは愚かしいことだ。)
何度も、何度も繰り返し動きをリプレイする。
この異様なまでの執念深さこそがどろりの狩人としての才能であった。
(太極拳をベースに複数の武術•格闘技•舞踊を混ぜ合わせた独特な足運び、そしてそれが異様なまでに速い。なんだ?人間の動きかこれは?何かドーピングや他の能力者の能力で動きを補強しているんじゃないか?能力者の配置に癖はないか? 何か弱点、ロカ•タランティーネに弱点は ないのか?)
それはとてつもない集中力だった。
切名旅行が 能力として獲得した《一分間のみの超絶集中》にも勝るとも劣らないとてつもない集中力。
ドンドンドンッと妖怪沢どろりの部屋の
ドアを叩く音がした。
思わずどろりは椅子から立ち上がり周囲を警戒する。
「どろりー!!!早くお風呂入んなさい!!!
あんたまたスマホいじってたんじゃないでしょうね?ホントにちゃんと勉強してるのー?」
そう言われたのでどろりは心の中で舌打ちし
「わかったー、今から入るー。」
と年相応の返事をした。
【運命の小テストまで残り2日】