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このさくひんね~
けっこーまえからかんがえてたから、アイディアはもうあるから、かいてるあるんだよね(かみに)
夕方。
家のインターホンが鳴った。
「はーい」
らんが玄関に向かう。
いるまはキッチンでコップを洗っていた。
水の音で会話は聞こえない。
数秒後。
玄関のドアが閉まる音。
それだけだった。
五分経っても、らんが戻らない。
「……らん?」
返事がない。
玄関に行く。
ドアは閉まっている。
でも。
らんの靴がない。
胸が、嫌な音を立てる。
スマホに連絡。
出ない。
もう一度。
出ない。
外に出る。
夕方の空気。
道路の先に、見覚えのない車が止まっているのが視界に入る。
ドアが閉まる音。
車が動き出す。
その瞬間、後部座席に見えた服の色。
(らん……?)
心臓が強く打つ。
足が勝手に走り出す。
頭の中が真っ白なのに、体だけが動く。
「待て!!」
叫んでも、車は止まらない。
警察への連絡。
近所の目撃情報。
時間が異様に遅い。
いるまの手は震えている。
(俺が、目離したから)
後悔が何度も刺さる。
薄暗い空き地。
騒ぎ声。
人影。
らんが地面に座り込んでいるのが見える。
近くにいた男たちは逃げていく。
警察のサイレンが遠くから近づく。
「らん!!」
声が割れる。
らんが顔を上げる。
服は乱れている。
頬が少し赤い。
でも意識はある。
「……いるま」
それだけで、膝の力が抜けそうになる。
考えるより先に、強く抱き寄せていた。
「……っ、よかった……」
声が震える。
らんは一瞬驚いて、それから小さく服を握る。
「ごめん……」
「謝るな」
即答。
「怖かったろ」
らんは小さくうなずく。
震えが止まらない。
「いなくなるな」
低い声。
命令じゃない。
願い。
「……うん」
「勝手に消えるな」
「……うん」
らんの額が、いるまの肩に当たる。
その体温があることが、奇跡みたいに感じる。
怒りより先に来たのは恐怖だった。
失うかもしれなかった現実。
(俺、もう)
そこでやっと気づく。
守りたい、じゃ足りない。
失いたくない。
夜。
家に戻る。
らんはソファで毛布にくるまっている。
いるまは離れた場所に行けなかった。
同じ部屋に座る。
何も話さなくても、空気が重ならないと落ち着かない。
境界線はまだある。
でも。
それは「踏み込むな」の線じゃなくて、
「ここから先は、守る」の線に変わっていた。
夜。
電気は消えているのに、らんは目を閉じられなかった。
布団の中はあたたかいのに、背中が冷たい。
まぶたを閉じると、昼間の景色が戻ってくる。
知らない声。
腕を掴まれた感覚。
逃げられなかった時間。
呼吸が浅くなる。
(大丈夫、もう家)
頭では分かっている。
でも、体が信じない。
時計の音が大きい。
家が静かすぎる。
暗い天井が、やけに遠い。
「……」
声を出そうとして、飲み込む。
(起こすな)
迷惑になる、が先に来る。
布団の中で指先をぎゅっと握る。
震えが止まらない。
胸がざわざわして、息が苦しい。
そのとき。
「らん」
ドアの向こうから、低い声。
ノックはしない。
様子をうかがう声。
「起きてるだろ」
らんの喉が鳴る。
「……うん」
ドアが静かに開く。
廊下の光が細く差し込む。
いるまが入ってくる。
「寝れねえんだろ」
責める声じゃない。
確認する声。
らんは少し迷ってから、うなずく。
「……目閉じると、戻ってくる」
いるまの手が、布団の上で止まる。
何をすればいいか考えているのが分かる。
「隣、座る」
許可を取るみたいな言い方。
らんは小さく頷く。
ベッドの横に座る気配。
体温が近くなる。
それだけで呼吸が少し楽になる。
「ここにいる」
短い言葉。
「出ていかない」
らんの胸のざわつきが、少し下がる。
「話、してて」
らんは目を閉じたまま言う。
「なんでもいいから」
沈黙が怖い夜。
「……今日スーパーでさ」
いるまがぽつりと話し出す。
「お前、また安いって同じの持ってきただろ」
どうでもいい話。
でも、その“どうでもよさ”が今は救いだった。
声が続く。
低くて、落ち着いた声。
らんの呼吸が、ゆっくり深くなる。
指の力が抜けていく。
「いるま」
「ん」
「……ありがと」
半分眠りに落ちながら。
いるまは一瞬黙って。
それから、小さく返す。
「当たり前」
その言葉は、もう軽くなかった。
“当たり前”は、選んだ言葉だった。
らんの呼吸が規則正しくなる。
眠った。
いるまはしばらくそのまま座っている。
暗闇の中で、小さく呟く。
「次は、守る」
誰にも聞こえない声。
でも、自分への約束だった。
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こ と ば え ら び が て ん さ い