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たいした収穫はえられなかった。
ブライトが見た感じ、極度のストレスと魔力の消費によって記憶を失っているらしく、頭に損傷があったとかそう言うのではなかったらしい。魔力を失うと、身体に異常が出るのは、記憶喪失に限らずとのことだ。
まあ、何かあれば戻るんじゃないかとそういうことらしい。かといって、魔力が全回したところで、記憶が戻るわけではないらしく、やはり、大きな衝撃を受けるか、記憶を失う直前の出来事やそれに関わる場所に行くか、そういうのが良いらしい。
ということは、ラジエルダ王国に行くのが一番なんじゃないかと。
「でも、今ラジエルダ王国ってどうなっているんだっけ」
「ラスター帝国の魔道士や、騎士達が巡回して、ヘウンデウン教の残党がいないか探していると同時に、復興できるように色々と進めているそうです。ですが、上陸は難しいかと……それこそ、皇宮の方から許可が下りるか、それなりの権力を持つ貴族に頼らないと……」
僕の所は、今人手が足りていないので、申し訳ありません。とブライトに頭を下げられてしまい、それなら仕方ないと、私は諦めた。
でも、本格的にラヴァインの記憶を取り戻したいとあれば、ラジエルダ王国に行くのが一番なのでは無いかと思う。
「ラヴァ……ヴィはどう思う?」
「どうって。それが、最善手ならそれが良いけど、いけないんじゃあねえ……ああ、でも俺って貴族なんでしょ?」
「う……でも、アンタとのところには行きたくない」
「何で。と言うか、なんで俺は貴族なのに家の方に何も連絡が言ってないの」
「それは、色々あったからよ」
色々ねえ。何て、怪しまれたが、本当に色々だ。そもそも、私はアルベドがあのレイ公爵家を管理しているのだけしか知らないし、家にラヴァインは帰っていなかったと、別荘にいたと聞いていたので、いったところでどうにもならないと思う。今、レイ公爵家がどうなっているかも分からないし、尋ねるのは難しいと。
私は、どうにかラヴァインを黙らせた。最も、私がラヴァインのことをあまり知らないせいもあって、あまり力になれていないというのが現状であったが。
「では、ダズリング伯爵家を尋ねてみたらどうでしょうか」
「ダズリング伯爵……ああ、あの双子の。確かに、それは良いかも」
権力もあって、今暇してそうだし。忙しいと言っても、北の洞くつの事業ぐらいだろうし。あの双子にも顔を出しに行きたいと思っていたところだし。
だけど、そこまで考えてあの双子を巻き込んで良いものかと思った。彼らは、好奇心旺盛だし、いったことのない国、ラジエルダ王国に興味を示すだろう。けれど、ラヴァインを連れて行くとなると話は違ってくるだろうし、ヘウンデウン教に対しては、二人ともいい思いをしていないだろう。寧ろ、今でも恨んでいるかも知れないし。
「エトワール、また暗い顔してる」
「うっさいわね。アンタのせいで、こっちは頭が痛いの」
考えれば考えるほど沼にはまっていくような感覚がした。ラヴァインがしたことは、それはもう大きな事だし、色んな所に被害が行って、弊害が出てるわけだし。だからこそ、記憶を失っているからといって、ラヴァインを簡単に人前に出せないというか。
ラヴァインは私の顔を見て、心底悲しそうなかおをした。そんなかおをしたいのは、私の方なんだけど、と思いつつ、私は無意識に彼の頭を撫でていた。
ハッとラヴァインは目を丸くした私を見る。
「え、何で今頭撫でたの?」
「えーっと、何でかな」
何で分かってないのさ。と、突っ込まれたが、ラヴァインは嫌なかおをしていなかったから、別に何とも思っていないのだと思う。寧ろ嬉しいというようにも見えて、気持ち悪いとは思わないけど、そんな顔も出来るのかと思ってしまった。未だに分からない。ラヴァインのこと。
弟属性なのか元か、勝手に考えているけれど、本当の彼は……と考えると、分からなくなってくる。
「嫌だった?」
「いーや、別に。エトワールにとって俺って何なのかなあって思っちゃって。普通、撫でないでしょ。頭とか」
「ごめん」
「だから、嫌とかじゃなくて……寧ろ、ぽかぽかするとか……」
と、ラヴァインは口ごもる。
ぽかぽかとか、ラヴァインの口から出たもので、私はプッと笑ってしまった。ラヴァインがぽかぽか、とか言ったものだから。
それを見て、ラヴァインは顔を赤らめていて、自分がいったことが恥ずかしいことだったんだと自覚したようだった。
「笑わないでよ。でも、ぽかぽかって言うじゃん」
「あんたの口から出たから笑っただけよ」
「相変わらず酷いなあ。俺の扱い」
そう言いつつも、まだ恥ずかしげに顔を赤らめているので、私はもう一度頭を撫でてしまった。それが、さらに彼の羞恥心を煽ったようで、そっぽを向いてしまう。私は、そんならヴァインを見つめた後、もう一度、ブライトに顔を向けた。彼は、やれやれと言った感じにラヴァインを見ていて、私も、恥ずかしいところを見せてしまったような感覚になった。
「あーえっと、ごほん。えっと、ブライトありがとう」
「いえ、ですが、お力になれずすみません」
「ううん、力になってくれてありがとう。私も、どうしたら良いか分からなかったし。ブライトの顔も見れて嬉しかったかな」
「エトワール様は、ほんとうに……」
「ん?」
何でもありません、と、何かを隠すようにブライトは笑った。その笑顔が何かを隠しているというのはすぐに分かったし、でも、そこまで大きな隠し事では無い気がしたので、私は気にしないことにした。何事も気にしたら負けだと。
(でも、困ったなあ……矢っ張りあの双子に会いにいくしかないのかなあ……)
ブライトは、忙しいし、皇宮に……リースに話しに言ったら、きっとダメだって言われる。かといって、このままずるずるとラヴァインを聖女殿に置いておくのもあれだし。
ここは、腹をくくっていくしかないのかと。
「エトワール様は、まだレイ卿を探しているんですか」
「うん、まあね……ブライトは何も知らないんでしょ?知ってたらいってくれると思うし」
「随分、僕のこと信用してくれるようになりましたね」
「うーん、そうだね」
いきなりそんなことを言われたので、どう返すべきか迷った。ブライトはどんな答えが欲しかったのかとか、考えてしまって、私は、口を閉じる。
ブライトを信用しているかと言われたら、信用しているって答えるだろう。昔だったら、そうはいかなかったけど、今はどうだって言える。だって、ブライトは、私を信じてくれたわけだし。
それに、アルベドの最後の姿を見ていたのは、きっとラヴァインだろうし。ブライトは、ブライトの父親とその前にグランツと戦っていたわけで。
「それと、グランツさん、体調の方はどうですか?」
「グランツ……か。まだ、目覚めてないよ」
「そうですか……」
「気になるの?」
そういえば、コクリとブライトは頷いた。ブライトは優しいし、グランツの事を気にしてくれるのは分かるけど、どうして、そこまでグランツの事が気になるのか分からなかった。私はどちらかというと、アルベドの事が気になっていて、ブライトはグランツの事が気になるようだった。
ブライトとグランツの関係も、未だよく分からないし。
「いえ、その……彼が望むなら、僕が全力で支援して、ラジエルダ王国を復興させられたらと思っていて」
「ブライトが?何で?」
「僕の母親は元々ラジエルダ王国出身の貴族でしたから」
「……」
返す言葉が見つからなかった。いや、何て反応すべきか迷った結果、何も言えなかったといった方が正しいだろう。
そうなんだと言えば、そうなんだ。何だけど、ブライトが自分の母親について語ったのは、これが初めてだった。いや、以前にもなくなってしまったという話は聞いたことがあったが、出身まで聞いたことがなくて、驚いた。
だから、第二皇子であるグランツに興味を持ったのかと。他にも、ユニーク魔法を使えるとか、色々理由はありそうだけど。
「そう、だったんだ……」
「はい。それに、ラジエルダ王国は、魔法が栄えていた王国でもあるので。調べたいことが一杯あって。ですが、今は色色と合って手一杯なんですけどね」
と、笑うブライト。忙しいのはお互い様である。
「分かった。まだ、目覚めそうにないけど、目覚めたら報告しに来るから」
「はい。ありがとうございます。エトワール様も、気をつけて」
「うん、ありがとう。ブライト」
そう言って、私達は帰りの馬車に乗り込んだ。
ブライトは相変わらず元気そうだったし……まあ、忙しそうだったのは、見て分かったんだけど、魔力も回復して、顔色はよかった。彼も彼で、死闘を繰り広げ、生き残った一人で、今は侯爵代理ではなくて侯爵として、ブリリアント家を立て直している最中だ。
私の目の前に座った、ラヴァインはちらりと私を見ていた。
「何?」
「ううん、エトワールは、本当に好かれるなあって思って」
「それ、前も聞いた」
「愛されるって、どんな気持ち?」
「何それ、いきなり」
そう、聞けば、気になっただけ。とにこりと笑ったラヴァイン。その笑顔は、相変わらずはっつけたような、偽物の笑みで、気味が悪かった。