テラーノベル
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阿久津のドスが振り下ろされるたび
コンクリートの床が砕け、火花がサーバー室の青白い闇を切り裂く。
それは剣術というより、野獣の蹂躙だった。
奴の振るう厚刃は、俺の持つ親父のドスを、その「歴史」ごと叩き潰そうとしている。
「どうした、お前の刃はそんなに軽いのか?」
阿久津の咆哮がドームに反響する。
俺は防戦一方だった。
一撃受けるごとに腕の骨が軋み、喉の奥に鉄の味が広がる。だが、視界は驚くほど冴えていた。
阿久津の背後で、巨大サーバー『ヤタガラス』の冷却ファンが悲鳴を上げ
データの転送完了を示すカウントダウンが赤く点滅している。
「……あと、三十秒か」
俺は志摩から託されたEMP爆弾のスイッチを左手に隠し、あえてドスを正手に持ち替えて深く沈み込んだ。
阿久津が、とどめの一撃を放とうと大きく上段に構える。
その脇腹に、一瞬の隙が生まれた。
「…ッ!」
俺は阿久津の懐へ、弾丸のように飛び込んだ。
阿久津の鉈が俺の背中を掠め、肉を削ぐ。
だが、俺は止まらない。
右手のドスを阿久津の右腕の付け根に突き立てると同時に
左手のEMP爆弾をサーバーのメインコアへと叩き込んだ。
「…な、に……!?」
阿久津の瞳に、初めて狼狽の色が走る。
俺は力任せにスイッチを押し込んだ。
――キィィィィィィィィィィン!!
鼓膜を劈くような高周波の電子音が響き、ドーム内のすべての光が消失した。
『ヤタガラス』の脈動が止まり、無数のインジケーターが沈黙する。
神崎の、大河内の
そして阿久津の野望を乗せた「亡国計画」が、物理的な闇の中に葬り去られた瞬間だった。
「……バカな…っ、俺の、俺たちの力が……消える……」
阿久津が力なく膝をつく。
暗闇の中、奴の荒い呼吸音だけが聞こえる。
俺は血に濡れたドスを鞘に収め、朦朧とする意識の中で崩れ落ちそうになる体を支えた。
「……力じゃねえよ、阿久津。…あんたが信じてたのは、ただの数字の幻だ」
非常用の赤い予備灯が、不気味に回転し始める。
通路の奥から、山城の足音と、突入してきた警視庁の特殊部隊の怒号が聞こえてきた。
「……終わったんだ、すべて」
俺は天井を見上げた。
厚い地層のさらに上、東京の空は、もうすぐ本当の朝を迎える。
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